第2話
偽聖女追放の翌日……
「王様、大変であります!」
「何事じゃ慌ただしい?」
玉座に座り自慢の長い口髭を撫でていると、名も知らない兵士が走ってきた。
「そ、それが……」
「何じゃ、報告があるのなら早く言わんか」
言いにくそうにしている兵士に口髭を撫でながら催促した。
儂は口髭を撫でるのに忙しいのじゃ。
「は、ははっ! そ、それが……宝物庫の国宝がほぼ全部盗まれておりました! ももも申し訳ありません!」
「……はぁ? ナンジャトオー‼︎」
兵士のあまりの重大報告に驚き、儂の右口髭を掴んでブチと引き千切ってしまった。
こっちも一大事じゃが、国宝の方が超一大事じゃ。
髭を床に投げ捨てると玉座から立ち上がり訊いた。
「誰がやった! 犯人は誰じゃ! 警備は何をしておったんじゃ!」
「そ、それが……」
「ええい! 儂が調べる! この馬鹿タレ!」
「はぐぅっ!」
役立たずに聞くだけ時間の無駄じゃ。儂直々に宝物庫を調べてやる。
「王様、申し訳ありませんでした!」
「このボケ! ナス!」
「あゔっ!」「ぎゅーん!」
宝物庫に到着すると駆け寄り頭を下げてきた兵士二人を足蹴りしてやった。
国王じゃぞ、国宝。王家が先祖代々受け継いできた魔法具じゃ。
金と違って失えば二度と手に入らない貴重な品だ。
「盗まれた宝は何じゃ! それぐらいは調べておるだろうな!」
「ははっ! 四次元鞄、召喚腕輪、姿隠しマント、水無効の指輪、妖精王の魔法針、歩王の靴——」
「このボケチンがあああ!」
「ぎゃああああ!」
報告の途中じゃが、兵士の肩を掴んでコイツの国宝を膝蹴りしてやった。ほぼ全部盗まれておる。
それも魔法具だけじゃなく、宝剣や首飾り、壺や絵まで手当たり次第全部じゃ。
まるで盗みのプロが本命の魔法具を盗むついでに、オマケ感覚で盗んだ感じじゃ。
「王様、これを!」
「何じゃ!」
「犯人の遺留物かと思われます!」
「何じゃと!」
宝物庫を調べていた別の兵士が慌ててやって来た。
指先で摘んでいる何かを見せてきおる。儂が最近老眼なのを知らんのか。
「ん~~、毛か? 白と黒……犯人は二人組じゃな!」
兵士から奪い取った手掛かりを目の前でじっくり観察した。
細く短い毛が五本。おそらく犯人は髪の短い男の二人組じゃ。
いや、もしかすると白髪混じりの初老の黒髪一人かもしれん。
とにかく城にいる黒髪と白髪の者を全員調べれば犯人は見つかる。
「よし! 城にいる黒髪と白髪の者を全員連れて来い! 多少手荒に訊問しても構わん! 国宝を必ず全て取り戻せ!」
犯人の目星は付いた。宝物庫にいる兵士二十人に命じた。
それなのに、
「王様! 失礼ながら申します! それは猫の毛であります!」
「何じゃと!」
「こちらの壁に猫が爪を研いだ跡を見つけました!」
「何じゃと!」
「こちらには猫のクソが落ちていました!」
「何じゃと!」
「こちらにも——」
「もういい! もういいいいいいいい!」
次々に兵士達が追加報告してきおった。ネコネコネコとうるさいので怒りで黙らせた。
儂は犬派だ。城で猫を飼っていたのは一人しか知らん。
「今すぐ偽聖女アリシアを指名手配せよ! 懸賞金はいくらかかってもよい! 必ず儂の前に連れて来い!」
「「「ははっ!」」」
庶民の小娘の分際で息子だけでなく、儂まで小馬鹿にするとは死にたいらしい。
だったら生まれたことを後悔させてやる。息子にたっぷりと遊ばせた後でな。
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