偽聖女だとバレて王宮を追放された町娘。盗んだ国宝を返しに戻って来い!と指名手配されても今さら遅い。新天地でジャラジャラ(金)に囲まれて楽しく暮らします。

アルビジア

第1話

「このアバズレのクソ甘ががああ! よくもワ痔のむずごを騙乳しおっなあ! 刃痔を痴れこのこの贋物じゃああああ!」


 いつもの豪華な朝食とは違い、質素な朝食を済ませると王宮の謁見の間に連れていかれた。

 ブチ切れた王様が何か言っているけど、私の翻訳能力には限界があったようだ。さっぱり分からない。


「ハァハァハァハァ……アリエル——いや、偽聖女アリエル! そなたを王宮から追放する!」


 てへぇ♪ バレちゃった☆

 豪華な玉座から勢いよく立ち上がった王様が、額に浮いた血管をピクピクさせながら、謁見の間の隅々まで聞こえる声で宣言した。これは翻訳できた。


「さすがは国王様! 何と慈悲深い裁き!」

「国王様は怒った顔も素敵ざますわ!」


 こちらも理解できたのか静寂を打ち破って、謁見の間に集まる貴族達が王様に対して割れんばかりの拍手を開始した。

 内心ではおどけている私だけど、表情は一切変えない。聖女っぽく真剣な顔で聞いている。


 何故こうなったかというと、それは二週間前の第一王子との出会いから始まる。

 ニャーニャーと昼夜問わずうるさかった近所の野良猫を路地裏で軽くボコッて、ポーションで治療している最中のことだった。


「嗚呼、なんと慈悲深いお方だ! あなたこそ聖女で間違いない! 私はこの国の第一王子ジアルダです。是非王宮にいらしてください!」


 馬車から飛び降りてきた、金髪の女みたいな細い身体の男が頬を赤く染めて言ってきたのだ。

 一目見れば分かるほどのまさに王子という顔と服装で、後ろの慌てて駆け寄る執事もまさに王子の付属品だった。

 王子が言う聖女とは、国に危機が訪れた際にその危機を追い払ってくれる存在で、幸運のお守りみたいなものだ。

 もちろん人違いだけど、本当のことを言って動物なんたら虐待罪で捕まりたくない。

 ギロリとボコッたばかりの野良猫を睨んでやった。


「ニャ、ニャ~ン♡ ゴロニャ~ン♡」


 すぐに戸惑いながらも右足に甘声で擦り寄ってきた。大変よく出来ました♪

 こうして私は王宮に聖女として招待されてしまった。

 でも、その日から王子が肉体関係を求めてきた。


「今夜は月が綺麗ですね。アリエル、抱かせてくれませんか?」

「見てくれアリエル! 今日の私のラッキーアイテムはクッキーなんだ! 抱かせてくれないか!」

「……アリエル、ここに金貨100枚ある。4年は遊べる金額だ。私と30分だけベッドで遊ばないか?」


 当然、聖女だからと断り続けた。聖女じゃなくても断り続けた。その結果が現在だ。

 きっと王様に「何度頼んでも聖女が抱かせてくれないんだよパパ~ン♡ どうにかしてよパパ~ン♡」とか足に擦り寄って甘声で頼んだのだろう。それでパパ~ンが大激怒している。


 まあ、偽聖女なのは本当だし、穢れた王子のいる王宮を出る準備はすでに出来ている。

 豪華な食事と専属の使用人。広い風呂に広いベッド。二週間とはいえ王宮生活は十分楽しんだ。

 強制ベッドインじゃなくて追放してくれるのなら、このチャンスは見逃せない。


「分かりました、国王様、王子様。今日までお世話になりました。この国の平和が続くように陰ながらお祈りしております」


 そう言って聖女のように恭しくお辞儀してから謁見の間から出ていく。


「フンッ。偽聖女の祈りなど結構だ。おい、誰か! 気分が悪い! 塩、いや、聖水を撒いておけ! 城中にだ! 分かったな!」

「はっ! かしこまりました!」

「嗚呼、第35聖女アリシア……なぜ、私の穢れた魂を清めてくれなかったんだ……」


 王子様、その役目は第36聖女ほにゃらにゃにお任せします。

 ついでに穢れているのは魂じゃなくて、お身体ですよ。

 治るか不明ですけど数年山籠りして、心と身体を清めてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る