第7話



 等級上げ巡り2か所目。


 5級ダンジョン"シンデン"


 前回の"ニガタケ"とそう遠くない場所にあり、俺自身、昔よく訪れていたダンジョンでもある。

 出現する異性物はスライム系の下位種のみ。

 5級ダンジョンの中では比較的難度が低く、探索ライセンス取りたてほやほやの新人パーティがよく訪れていたの覚えている。


「相変わらずここは新人が多いわね」

「初々しいよね~」


 新人探索者は若者が多い。

 それも10代の子たちがわんさかだ。


「こんな新人が多いところに私が入るのはちょっと気が引けるわ」


 舞夜は2級探索者。

 更に"魔女組"は女性だけで構成された上位探索チーム。

 その中で舞夜は実力、容姿ともに優れた将来有望なの探索者である。



「あ、あのっ!」



 女の子が舞夜へ向けて話しかけている。

 探索ライセンスを取得する際に支給される装備一式を身に着けていることから、恐らく新人だろう。


「私に何か?」


 舞夜が無表情で返事をする。


 女の子は鞄から色紙を取り出し、ペンも添えて舞夜へ差し出した。


「ま、舞夜ですよね!? サインくださいっ!」

「うん?」


 硬直する舞夜。

 ニヤつく俺。

 瞼をぎゅっとつむっている女の子。


「私のサインが欲しいのかしら」

「はいっ!」


 困惑した様子で色紙を受け取り、ぎこちなくサインを書いていく。


「……こんな感じでよかったかしら。初めてだから汚いかもしれないけれど」

「初めてですかっ! やった! ……私が一番最初ぉ」


 喜びに満ちた顔で何度も頭を下げて感謝してから、その女の子は仲間と思しきパーティの元へ戻っていった。



「有名人だねえ、舞夜?」

「兄さん、その生意気な顔を張っ倒すわよ」


 頬をほんのりと朱に染めてそっぽを向く妹の姿に悪戯心が湧く。

 ただ本当に張っ倒されたら為す術もなく分からせられてしまい、脆い兄の威厳が塵となってしまうのでやめておこう。




「あそこにいるの本物の舞夜さんなんだ」

「マジで? 僕もサイン貰っちゃったり?」

「"魔女組"の!?」

「すっごい美人」

「隣の子は妹さんかしら」




 さっきのサイン後から新人探索者たちの視線が舞夜へ集中している。


 これはまずいな。


「こりゃ舞夜と一緒に入れるような感じじゃないな。別のところへ行くしかないか」

「あら兄さん、ちょうどいいじゃない。どうせいつかは私以外ともダンジョンへ行くわけでしょう?

 今のうち初心に戻るとでも思ってあの子達と一緒に行ってきたらいいじゃないの」

「ぬぐっ」


 たしかに、一理ある。

 舞夜とは3級までの一時的なパーティだ。

 以前の準2級やそれ以上を目指すならいずれは他の人と組む必要性が出てくる。


「じゃ、私は近くの喫茶店で暇を潰してるわね」


 引き止める間もなく、軽く手を振ってそそくさと退散する舞夜。

 逃げ足も速い。















 と、いうわけで俺の新たな仲間たちを紹介しよう。


「よろしくねっ! カンちゃん!」


 元気に挨拶をしてくれた女の子は朝霧あさぎりさん。

 さっき舞夜からサインを貰っていた子だ。

 戦闘スタイルは典型的な後方支援魔術師の後衛タイプ。


 あと、いきなりカンちゃんとはぐいぐいくるね……。


「うっす、よろしくお願いしまっす」


 こちらのよく日に焼けたスポーツマンっぽい男の子は阿木都あぎとくん。

 戦闘スタイルは闘気を付与した大盾とメイスで迎撃する防御重視の前衛タイプ。



「……よろしく」


 目の下の隈と珍しい赫眼あかまなこが特徴的な大人しい女の子の竜胆りんどうさん。

 生まれ持った"魔眼"と豊富な魔力を用いて遊撃する中衛タイプ。


 非常にバランスの良いパーティだ。

 みんなつい先日、探索ライセンスを取得した同期とのことで、最初から話せる仲というのもグッド。

 コミュケーションの取りやすさはパーティ戦術において重要な項目だからだ。


 それから俺自身の等級や戦闘スタイルを簡単に説明し、少しの間雑談していると、


「あの」


 阿木都くんが控えめな様子で手を挙げる。


「寛治さんって結構年上だったり?」

「うん、40だからそうなるね」


 彼らは「「「おお」」」相槌を打ち、一拍おいてから「「「うん?」」」と首をかしげた。

 すると勢いよく、



「「「40!?」」」



 3人同時に大声で叫んだ。

 少しだけ耳が痛くなるほどの。


「カンちゃん全然そう見えないよー」

「若返ったんだよ。ボスドロップの宝箱で」


 俺は3人にそもそもの5級ダンジョン巡り自体の経緯を説明する。

 説明をしている途中で3人は昔の俺の画像と目の前にいる俺を見比べて、目を白黒させていた。


「……本当にそんなことあるんですね。教習所のアレって冗談かと思ってました」


 竜胆さんの話によると、教習所ではダンジョンアイテムによる身体変化事例の中に性別の転換もあるとのことだった。

 俺自身、そういった事例があるのを知ったのは7年前から探索者用として急速に普及していった配信やマーケットの総合プラットフォームが登場してからなので、

 今どき新人は予め得る情報が多いのはなんとも羨ましいことだと思う。


「ま、そういうこともあるから宝箱は"ダンジョン撮影ビットくん"の鑑定機能を使って安全かどうか確認しよう。

 慣れ過ぎたせいで油断したおじさんとの約束だ」


 3人はうんうんと頷いた。


「あ、でも」と口元に指をあてながら朝霧さんがニヤッと阿木都くんのほうを向く。


「阿木都くんが女の子になっちゃったら頼れる男の子がいなくなって困っちゃうもんね。

 あ、でもちょっと見てみたいかもとか思っちゃったり?」

「ならんならん。せっかく鍛えた筋肉が無くなったら泣くぞ」

「……いや心配するのそっちじゃないでしょ」



 どうやら阿木都くんは性別より筋肉のほうが重要らしい。



「それじゃあ3人とも、良い感じにお互いのことも分かってきたところで、早速行こうか」


 俺が音頭を取り、5級ダンジョン"シンデン"の入り口へ立つ。


 そして全身へ闘気を漲らせ、


「準備はいい?」



「はいっ!」「うっす!」「……あ、はい」




 ちょっと締まらない感じでダンジョンへ突入した。






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