03

 冒頭、戦闘の続き。白河口付近。新政府軍を圧倒する衝撃隊。乱闘の中で、細谷は板垣と刀を交えている。


細谷 衝撃だろ? いろいろと。

板垣 勝つための手段は選ばない、というわけか。

細谷 その顔は、武士の恥とでも言いたそうだな?

板垣 武士でないやつに説く武士道はない。

渡辺 鬼一! そっち行ったぞ!

武藤 尻拭いさせんじゃねえよ!

桑折 何で俺んとこばっかに来るんだよぉ!

渡辺 逃げんな、馬鹿! 何のための鉄砲だ?

桑折 あ、そうか!

板垣 会津の者ではないな。

細谷 さあて、どうだか。

板垣 答えないつもりか。であれば力ずくで…!

細谷 生憎、俺一人でやってるわけじゃないんでね。覚えてってくれよ。衝撃隊ってな!


 細谷が合図を送ると、衝撃隊は蜘蛛の子を散らすように全員去る。


細谷 また会おうぜ、板垣サン。

板垣 待て!

伝令 板垣さん、援軍です!

板垣 …。


 板垣は細谷を追うのをやめる。四条が率いる新政府軍が駆けつける。


四条 無事か、板垣?

板垣 四条さん、あなたは前線に出てきちゃいかんでしょう。

四条 小言は後で聞く。会津の伏兵か?

板垣 …いいえ。

四条 何だと?

板垣 武士ですらありません。背中に八咫烏を背負った連中でした。散々こっちを引っ搔き回して、不利になると見たらすぐに撤退を。

四条 逃がしたのか?

板垣 どちらかと言えば、見逃された、でしょう。特にあの男…。

河田 よろしいですか?

四条 河田か。何だ?

河田 恐らく、鴉組かと。

板垣 鴉。

河田 ここ最近で撃破された部隊はみな、口を揃えて、鴉にやられた、と言います。今回と同じように奇襲をかけられ、こちらが壊滅したのを見るや、あっという間に消え去ったとも。

板垣 …何者ですか?

河田 詳しいことは存じませんが、正規の部隊ではありません。筆頭は仙台藩士のようですが、所属しているのは主に、この辺りの有力なヤクザか、猟師です。

四条 そのようなことがあるか。訓練された兵でさえ難しいことを、無法者がやってのけるなど。

河田 奇妙なことですが、私は事実を述べているだけです。中村藩をうまく吸収できたとはいえ、このままではこちらが不利になる。せめて、筆頭の仙台藩士だけでも討ち取らなければ。

板垣 …それがわからないような男には見えませんでした。あの男も間違いなく手練れです。討ち取るにせよ、一筋縄にはいかないかと。

河田 となると、厄介ですな。

四条 我々はこの先、いつ襲われるかわからない恐怖にさらされ続けるということか。

河田 戦とは、そういうものでしょう。鴉に限らず、常に背後を狙われていると言っても過言ではない。


 鴉の鳴き声が響く。


河田 全く、騒がしい鳥ですな。

板垣 …良い解決策がありますよ。

河田 何ですかな?

板垣 被害を受ける前に、撃ち落としてしまえばいい。


 板垣、飛んでいた鴉を撃つ。鴉には当たらなかったが、鴉の鳴き声は遠ざかっていく。


河田 …板垣さん、私はあなたのそういうところが唯一の欠点だと思います。

四条 わかりやすくて良いじゃないか。

河田 四条さん、あんたもです。この戦の責任者であるという自覚を持って、もっと慎重にですね…。

四条 細かいことを言うな。お前はただ、勝つための策を立ててくれれば良い。それが失敗した後に、私の仕事がある。

河田 全く、人使いの荒い…。

四条 進軍を続ける。警戒を怠るなよ。

河田 はい。

板垣 承知しています。


 板垣は一番最後から着いて行く。

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