第46話「マリー」
日の光で目が覚めた。悪くない目覚めだ。
「んんっ」
体を起こして伸びをする。
「おはようございます、坊ちゃん」
「うわっ!」
すぐそばから声がして驚いた。いや、少し視界の端には映っていたのだが、気にも留めていなかった。
「距離が近いよ…」
「申し訳ございません」
頭を下げるが、本当に申し訳ないと思っているのだろうか、その顔は。
ふと、ルドがいないことに気づく。普段ならあいつが来るはずだが。
「ルドは?」
「ルドルフ殿は本日、朝から出掛けております」
大事な仕事なのだと言う。あまり詳しくは教えてもらえなかったらしい。何なのだろう。人に言えないような用事なのだろうか。
「ですので本日は、私が身の回りのお世話を致します」
良いのだろうか。侍女長が使用人をほったらかしてたかがお坊ちゃんの面倒を見るなんて。
「私は侍女長としての務めも、貴方様のお世話も、両方こなすつもりでいます」
「で、でも」
「旦那様のご許可も頂いています」
父上も認めていらっしゃるのか。侍女長の手際の良さを見込んでの事だろうか。
なら、大丈夫だろう。
「分かった、よろしく」
着替えが済んだら、椅子に座って髪を整えてもらう。
「ねえ、マリー」
「はい?」
返事が疑問形だったことではっとした。馴れ馴れしく名前で呼んでしまっていた。
「ご、ごめんっ!ルドがそう呼んでいたからつい…」
「構いません」
慌てて謝る僕に、やや食い気味で言葉を被せてくる。
「マリーと呼んでいただいて構いません」
「う、うん」
少々圧が強くて戸惑ったが、本人が言うなら遠慮なくマリーと呼ばせてもらおう。
「マリーは、さ」
「はい」
「僕のこと、無表情だと思う?」
無表情な人に無表情だと言われればそれは誰が見ても無表情ということだ。
少しくらいはマリーより表情筋を動かしているつもりなのだが、果たして周りからどう見えているのだろう。
「…確かに一般的には表情に乏しいと言えるでしょう。ですが少なくとも私よりは、表情の変化があるほうだと存じます」
良かった、完全な無表情ではないようだ。
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