第44話「判明」

「私は坊ちゃんの母親ですから」

「えっ」

…………

えっいや、え??

侍女長が僕の母親?でも母親は母上、フェリシア様で血のつながった方はアイリス・アシュトンだし…

え、実は本当のお母さんは侍女長とか?じゃあ侍女長とガルム・アシュトンがそういうことを…

うっ、想像しただけで吐き気がする。

「ルイス坊ちゃんにミルクをあげたのは私です」

あ、そっち?そっちか、乳母のほうか、びっくりした。

だが何故侍女長が?アシュトン家の使用人ではないのに…

「話すと長くなりますが、お聞きになりますか?」

「うん、聞かせてほしい」

僕も気になっていたのだ。


ーーアシュトン家に次男が生まれた。

通常、貴族の次男は長男が何らかの事情で後を継げなくなった場合の代替として育てられる。

だがこの赤ん坊は、非常に病弱だった。

生まれてすぐに高熱を出し、医師に病にかかりやすい体をしていると診断された。

この夫婦はその赤ん坊が病弱だと分かると、死産したことにして殺そうと目論んだ。

だがその二人を止めた者がいた。

夫婦の内、夫の方の兄である。

その男は、この子を殺すな、私が引き取ると主張した。

弟は激昂したが、妻に何か吹き込まれたようで、三年間という条件付きで赤ん坊を預けることを認めた。

その場には、夫婦とその兄、そして一人の侍女と一人の執事がいた。

先見の明があるこの兄たる男は、この状況を予測して二人の従者を連れてきたのだった。

それから男は、事情をよく知る侍女に赤ん坊の世話を頼んだ。


「私は責任を持って貴方様を育てました。ですから、坊ちゃんは私の子どもも同然です」

心なしか侍女長の口角が上がって見える。…いや、気のせいか。

「そういえばその期間、ルドとは全く顔を合わせていない気がするのだけれど」

「ルドルフ殿は一番お忙しい頃でしたからね」

聞けば、宮廷魔法師見習いとして王宮で上司の手伝いをしていたらしい。要は下っ端の雑用だ。

「やがて約束の三年が過ぎた頃、問題が起こりました」

「問題?」


ーー三歳になったら返すという約束で一時的に預かった兄夫婦だったが、甥への愛着と返した後のアシュトン家での扱いへの不安から、甥を手放せないでいた。

アシュトン夫妻が訪ねてきても、この子は渡さないと言って聞かなかった。

だがアシュトン夫妻は無理矢理引き剥がす出す形で強引に息子を奪還した。


「それからは、坊ちゃんのご存じの通りです」

「そうか…」

あの人達のやりそうなことだと思った。自分の利益にならないものは切り捨てる。利己的で私利私欲に塗れた愚物だ。

三歳の頃なんて覚えていない。というかどうでも良くて忘れてしまった。毎日同じことの繰り返しだったから。

三歳になってすぐ引き渡されたのか。あれ、そういえば僕の誕生日っていつなのだろう?

「坊ちゃんの誕生日は今日ですよ」

「え、そうなの?…誰にも祝われていないのだけれど」

「嘘です、三ヶ月後です」

あまりにもさらっと言うから信じてしまった。虚しくなった僕の気持ちを返してほしい。

「そっちは本当…?」

「ええ、こちらが本当です」

表情が読めない。無表情すぎる。どちらが本当なのだ。

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