第43話「お仕置き」
ルドはひとしきり笑った後、涙を拭ってからひどく真面目な顔になった。
「ルイス様、コンラート家との件ですが」
それを聞いて僕も表情を引き締める。
「試験のルールに則った行動である以上、こちらが責任の追求を受けることはないでしょう。コンラート家としても、同派閥の貴族と事を構えたくはないでしょうから、因縁をつけられるということはおそらくありません。まあ、それは二家の間でどう話がつくか、ですが…」
「父上に任せるしかない、か…」
あとはコンラート家当主が叔父のような愚か者でないことを期待しよう。
「それと、ルイス様…」
「?」
なんだ、歯切れが悪いな。
「その、侍女長が、ルイス様もお仕置き部屋にいらっしゃるようにと…」
「はっ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
お叱りを受けるのはルドと父上だけで良いはずだ。何故僕まで巻き添えを食らわなければならない。
「申し訳ありませんっ!私が口を滑らせたばかりに!」
ルドが片膝立ちからもう片方の膝も地面につけて勢いよく頭を下げる。
お前のせいか。というか
「それ、あんまり悪いと思っていないでしょ」
いくら何でも大袈裟すぎる。
「バレましたか」
「あっさり認めるなよ…」
そこはもっと、そ、そんなことは!とか慌てて否定するのではないのか。さっきまでの歯切れの悪さは何だったのだ。
「はあ、分かった、行ってくる…」
呆れと憂鬱とでため息を吐きながら部屋を出た。
憂鬱な気持ちのまま、お仕置き部屋、もとい侍女長の部屋へ向かう。
執務室へ近づくごとに心なしか寒気を感じる。
「お、おおう」
扉の下の隙間から見えない殺気が漏れ出ている。
気を引き締めてドアをノックする。
「入りなさい」
「し、失礼します!」
そーっと部屋に入ると侍女長がものすごい威圧感を放って立っていた。
「座りなさい」
床を指差している。やはり正座させられるのか。
うう、胃が痛い。ルドの紳士育成プログラムで相当の殺気を浴びているのだが、慣れない。怖いものは怖いのだ。
「坊ちゃん」
「はい…」
「術式のお勉強をさぼっているそうですね?」
「っ!」
ルドが告げ口したのだろう。
「お勉強を、さぼっているのですね??」
「は、はいっ!」
返事をしなかったから殺気が大きくなってしまった。胃がキリキリする。
「術式は魔法の基礎です。これができなければ魔法は使いこなせません」
「でっでも、僕はそんなのなくても使え」
「そういう問題ではありません」
「っ!」
言葉を途中で遮られた。だが言い訳は良くない。黙って聞いていよう。
「よろしいですか、魔法は感覚で使えるものではないのです。特に私たち人間は魔力操作能力が他種族と比べて低い。ですから術式を介して魔法を操るのです」
「はい…」
「坊ちゃんは魔力操作に長けていると聞きましたが、それでも魔族には及ばないでしょう」
「左様でございますか…」
自然と敬語になってしまった。
「それに、術式が分からなければ新しい術を覚えるのも困難です。実際貴方は、他人が何度も使っている技しか使えないでしょう?」
「仰る通りで」
本当に、返す言葉もない。
「ですから、ご自身で学習を進めていく上でも、術式を覚えること、理解することは重要なのです。分かりましたか?」
「はい、分かりました」
侍女長の目を見て頷く。
「よろしい。全く、私の坊ちゃんを甘やかさないでいただきたい…」
「…それだけ?」
意外と短かったな。もっと色々言われるかと思っていた。
「何ですか、もっと叱って欲しいのですか?」
「い、いや、別に」
「まあ、私の坊ちゃんは優秀ですので、これ以外にお咎めするところはありません」
先程から私の私のと言っているのが気になる。
「ねえ、何で僕が、君の?」
「何故って、私は坊ちゃんの母親ですから」
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