第41話「報告」

夕食の席。

「はい、あーん」

「あー」

「やっぱりあげなーい!」

父上と母上は相変わらず、人前でもいちゃいちゃしている。

母上が父上にあーんをして、父上の口にスプーンが入る前に自分の口に持っていった。

見ているこちらが恥ずかしく…

ならない。全くならない。もう見慣れた光景だ。この屋敷の者は見飽きるほどに見せられている。

タイミングを見計らって、僕は恐る恐る口を開く。

「父上、大事なご報告があります」

神妙な面持ちの僕を見て、父上が表情を引き締める。

「今日、ヴィクトル様がお見えになった件ですが、問題になるかもしれません」

場の空気が凍りつく。落ち着け、事実をありのままに伝えるだけだ。

「僕は、コンラート家のご子息であるディーノ様に暴行を受けました」

一同が驚く。部屋に殺気が充満する。

「で、でも、今回は、僕の方にも非があるのです…!」

慌てて付け足す。僕は口下手だから、いつも話す順序を間違えてしまうのだ。

しばらく黙って頭の中で構成を考える。

こうしないと順序立てて話すことができないからだ。デリケートな問題なので誤解がないよう慎重に扱う。

「僕は入学試験の模擬戦闘で、ディーノ様と当たったのですが、その際にやむを得ず口の中で小さな爆発を起こしました。怪我を負わせてしまったのです」

やはり皆固まっている。事の重大さに面食らっているのだろう。

「ルイス…」

「ルイス様…」

父上とルドが何とも言えない声を出す。ああ、やはり呆れられてしまったか。

「今、口の中で小さな爆発、と言ったかな?」

ん?そこ?そこなのか?

「え、ええ」

よくわからないながら肯定する。

「素晴らしい!素晴らしいです、ルイス様!」

「はっ?」

何が素晴らしいんだ?問題しかないじゃないか。というかこれはもしかして、変なスイッチが入ってしまったのではないか。僕を恥ずかしくなるほど褒めちぎった時の、あの。

「魔法戦で、しかも口の中で爆発なんて、そう起こせるものじゃない!」

「ルイス様は加減が苦手だと思っておりましたがそこまで繊細なコントロールができるようなったとは!」

「「一体どうやったんだい(のですか)!?ルイス(様)!!」」

二人にキラッキラの笑顔で迫られて気圧された僕は、何とかして、と侍女長に視線を送る。

侍女長は僕の意図を汲み取って頷いた。

「旦那様」

「っ!」

「ルドルフ殿も」

「は、はい」

「後ほど」

凄みのある笑みで言った。後ほど、何なのかは言うまでもない。侍女長の場合、笑顔は大抵叱る前触れだ。だからこそ怖い。

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