第38話「訪問者 1」

帰ってくると、何やら門の前が騒がしい。嫌な予感がした。

徐々に近づいて確かめると、ガルム・アシュトンがうちの衛兵に怒鳴っている姿が目に入る。相変わらず横柄な態度だ、と呆れる。

近づいて声を掛ける。

「うちに何か御用ですか、アシュトン子爵」

子爵は振り向くなり僕の襟元を掴もうとする。だが、僕は転移魔法でそれを避けた。

「声を掛けただけで掴みかかってくるとは、失礼な人ですね」

「誰に向かって口をきいている?」

吊り上がった目で威圧してくる。だが残念、僕にその威圧は効かないのだよ。

「そうですね、誰よりも劣っているのにプライドだけは高い、落ちぶれた狂犬、でしょうか」

少し煽ってやる。すると案の定、子爵は殴りかかって来た。

「まあ落ち着いてください、ここに来たのには何か目的があるのでしょう?」

埒が開かないので本題に入ると、子爵は悪党のような下品な笑みを浮かべた。

「そうだ、追放は取り消しだ。アシュトン家に戻れ。またこき使ってやる」

「お断りします」

即答する。当然だ、こんな奴のところに誰が戻りたいと思う。

「貴様、誰に向かって」

「貴方こそ分を弁えてください。貴方はもう僕に命令できる立場ではないのです。ただの血縁者、それ以上でもそれ以下でもない。僕を連れ戻したいのならその尊大な態度を改めてから出直してください。そんなだから、いつまでも子爵のままなんですよ」

最後の言葉が逆鱗に触れたようで、また暴れ出す。

『止まれ』

子爵の動きが止まる。闇属性の支配魔法だ。

「いい加減気づけ。お前は、お前が思っているほど優秀じゃない。そして、僕はお前が思っているほど弱くない」

土魔法、ソーンバインドで締め付けながら脅迫せっとくする。

「これ以上僕に関わるな。それと、僕の大事な人に手を出したら許さない」

先程までの威勢が嘘のようにおとなしくなった。拘束を解く。

「これ以上居座られると迷惑です、お引き取りを」

子爵は、顔は血の気が引きながらも見栄を張っているのか、ぎこちなく歩いて帰っていった。

子爵が完全に見えなくなってからほっと息をつく。話している時、本当は怖くて、逃げ出したくて仕方がなかった。虚勢を張っていたのだ。僕もあいつと同じか、と自嘲する。

ルドならば怯まずに追い返していただろう。そういえば、ルドがいないな。学院で仕事をしているのだろう。講義以外にも仕事があると聞いた。

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