第36話「魔法戦」

今日も魔法理論の講義だ。毎日あるな、アルジェント先生の授業。

これは憂鬱だが、選択で取った実技の授業がある。魔法に関する授業で一番楽しみな科目だ。


必修科目から解放されて闘技場に向かう。

実技試験で使った会場だ。試験も授業も実技はそこで行うらしい。

たまに血の気の多い連中が決闘をしたりもするんだとか。

…それは、あまり聞きたくなかった。

かく言うエヴァレット様は心底どうでも良さそうだが。

「あと、クリスティアでいいわよ。お友達なんだから」

「で、では、そうお呼びさせていただきます…」

「今呼んでみて」

「な、なぜ?」

「練習よ、練習」

一体何の練習なのだろうか。言われるがままに呼んでみる。

「ク、」

「ク?」

「ク、リスティア、様」

同年代をファーストネームで呼ぶなんて初めてで、なんだかむず痒い。

「顔が真っ赤じゃない。貴方、本当に面白いわね」

くすくすと笑う。

そんなやりとりをしている間に闘技場へ到着した。

中には厳しそうな見た目の男性が控えている。いかにも堅物、と言った感じの老教師だ。

周囲に殺気というか威圧感をびんびん放っている。

すごいオーラだ。吐き気がして口元を押さえる。

隣を見るとクリスティア様はけろっとしている。これに耐えられるとは流石だ。

場内には数名の生徒が意識を失うか青褪めた状態で倒れていた。この教師の威圧に耐えられないのだろう。

僕はぎりぎり、クリスティア様は余裕で耐えた。僕たちが闘技場の中央までくると、老教師は口を開いた。

「合格だ、貴殿らに稽古をつけよう」

どうやら試されていたようだ。先ほどの威圧に耐えられた者のみ授業に参加できるらしい。合格という言葉と同時にオーラを引っ込める。正直もう限界だった僕はほっと息をつく。

老教師は、ハイデンと名乗った。

「ところで教授、あの倒れている人たちは放っておいてよろしいのかしら」

「威圧に耐えられずに失神しただけだ、放って置け」

なんと冷たい。戦闘不能になったら切り捨てるとは、まるで戦場だ。

人がいない場所まで来ると足を止める。

「まず手始めに、自分の扱える最高難易度の魔法を放ってみよ」

僕の中で最高難易度というと、中級魔法か。僕は水と風に適性がある(ということになっている)から火、土、雷の方が難易度は高い。

一番苦手なのは土属性だ。固体を扱うのは得意ではない。

土魔法、『グラニート』を発動する。

目の前に大きな岩ができたところで思い止まる。

これ、放ってしまって良いのだろうか。また何か壊したりしないだろうか。

「闘技場は最上級魔法を放っても壊れないよう設計されている。安心して撃つがいい」

ハイデン先生が仰った。しかし不安なので一応手加減はしておく。

爆発音が鳴り響いて鋭い岩が闘技場の壁に突き刺さった。なるほど、それなりに強度があるみたいだ。

「噂には聞いていたが、大した威力だ」

「私も負けてないわよ」

そう言うとクリスティア様は水属性上級魔法『カタラクト』で僕が『グラニート』で作った岩石を消し去ってしまう。やはり流石クリスティア様だ。

「貴殿らの実力は把握した。これより本格的な実践に移る」

そう言うと教授は僕たちから距離を取る。

「私と魔法戦で模擬戦闘をしてもらう。もちろん、2対1でだ」

それからハイデン教授は僕とクリスティア様の二人を相手にしながら的確に助言をした。

「術式を組み始めてからの発動が遅い!」

「闇雲に術を放っているだけでは意味などないぞ!」

分かっている。分かってはいるのだ。ただ術を展開するだけでは勝利に近づけない。だが二人での共闘となると余裕がない。一人の時より意識することが増える。味方の魔法を打ち消さないように属性相性に配慮して魔法を放つだけで精一杯だ。

このままでは駄目だ。冷静になれていない。

「クリスティア様」

隣にいるクリスティア様に声をかける。

「防御は私が引き受けます。クリスティア様は教授に攻撃を」

「了解よ。私もちょうど分担したいと思っていたの」

死角からの攻撃が望ましいが、それはクリスティア様の実力次第だ。上から水でも岩でも落としてくれれば上々なのだが。

うまくいかなかったら僕が物量で押し切るしかないと考えていると、教授の影が大きくなり、影から細長いものが出てくる。黒色の触手が教授の足に絡みつく。

「教授、失礼致します」

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