第34話「魔法理論」

学院二日目。流石に馬車で登校はやめてとお願いしたら父上が着いていくと言い出した。

それに乗っかって母上まで…

「だ、大丈夫ですよ、一人で行けますから」

「一人で行って魔物に襲われたらどうする!?」

「お母さん泣いちゃうよ?」

もっとも、学院までの道は整備されていて魔物など出ないのだが…

盗賊ならいるかもしれない。護衛が要るというのは納得だ。

「護衛ならうちの衛兵の誰か一人で十分です」

「ルイス様、私は…!?」

ルドが泣きそうになっている。別に、役に立たないと言った訳ではない。

「お前は…あれだ、家で僕におかえりと言うのが仕事だから」

目立つから連れて行きたくないというのが本音だが適当に誤魔化す。

ルドの方は意外とあっさり引き下がってくれた。

だが両親は大分ごねる。お二人が仕事に遅れるからと言ったらようやく納得してくれた。

領都にある大通りを進む。最初は馬車が通っただけで皆が敬礼してくるから驚いた。

このまま南に行けば王都だ。学院は王都中心部にある。

自分の足で歩くとやはり時間がかかるな。

周りからちらちらと見られる。馬車じゃないと跪いたりしないのだな。

むしろ好奇の視線が多いように感じられる。事情が事情なので仕方がないのかもしれない。

ああ、やっぱり馬車でくるべきだったかな。街ゆく人の視線を感じながら進む。

「ご機嫌よう、ルイス君」

学院の門を抜けると急に誰かに話しかけられる。見るとエヴァレット様が隣にいらっしゃった。

「っ!お、おはよう、ございます」

緊張して自然に会話ができない。

「すみません、人と話すのはあまり得意ではなくて」

「いいのよ、私がお友達になりたいと言ったのだから」

優しい方だ。僕なんかと仲良くしてくれるのだから。

「…」

「…」

どうしよう、何か会話しなければ。そう思って意識するほど言葉が出てこなくなる。

「ルイス君は選択授業、何にしたの?」

エヴァレット様の方から口を開く。

「あ、はい、えっと、魔法科学と魔法実技、あと薬学です」

「そう。じゃあ、魔法科学と魔法実技は私と一緒ね」

「そ、そうなのですか。よろしくお願いします」


本日一限目は魔法理論だ。僕は絶対に受けたくなかったのだが必修なので仕方がない。

「はあ」

憂鬱だ。術式とか理解できる訳がない。

僕を見てエヴァレット様がくすくすと笑う。

「あなた、それで溜息何回目?」

「さあ、何回目でしょう?」

そんなに溜息ばかりついていただろうか。

「そんなに授業が嫌なの?」

「いえ、授業自体は嫌ではないのですが、どうも理論は苦手で」

「ああ、そんな話も聞いたわね」

僕のことをご存知なのだろうか。

「当然じゃない、私は学院長の娘よ」

「そういうことでしたか」

学院長から聞いたのか。

話していると教授が入ってくる。あ、この人、昨日の人だ。

間延びした声で説明を始める。

「え〜、魔力とは君らも知っている通り、体内で魔素を合成したものだ。そしてその魔力は術式を介して魔法として消費され、再び魔素に戻ってくる。」

うわ出た、術式っ!術式は古代文字で書かれていて〜と言っているがその古代文字とやらが理解できないのだ。今と文法が全然違うし、ただの文字の羅列だろ、あんなの。

「ではそこに書いてある対応表を見て、まずは初級魔法の術式を書いてみよう」

う、いきなり実践か…

誰かが詳しい説明を求めるが、教科書に書いてあるだろうと一蹴された。僕はその教科書が理解できないのです、先生。

隣をちらりと見やると、エヴァレット様はすらすら書いている。というか他の皆も答えに迷っていない。

もしかしてこれ、常識というやつなのでは?

先生が答え合わせをする。

「見たところほとんどが正解だ。聞いていた通り優秀だな」

…一人を除いては、だ。僕は全く何も書けていなかった。

初級魔法なのに全然初級じゃない。なんでこんなに色々な術式を組み合わせなければならないのだ。

やはり術式は性に合わない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る