第33話「治療」
コンラート様たちが去った後、僕は痛みに耐えながら立ち上がる。だが早く帰らなければ。両親を心配させてしまう。
帰ると言ってもここがどこなのかわからない。とりあえず、人を探しながら建物の外に出よう。
壁を伝いながら歩く。さっき蹴られたみぞおちが痛い。傷を光魔法で治癒する。
コンラート家の屋敷は流石にないよな、すぐにバレるし。あの方もそこまで馬鹿ではないだろう。
結局、外へ出るまで人と遭遇することはなかった。周りを見渡すと、どうやら学院の一室だったらしい。良かった、これなら帰り道がわかる。
家に着いたはいいが、この傷のことは知られたくない。心配させてしまうから。
玄関先で深呼吸する。
「大丈夫、いつも通り、普通にしていればいい」
背筋を伸ばして戸を開ける。
「おかえりなさいませ」
「おかえり、ルイス。遅かったな」
ルドと父上が出迎えてくれる。心配して待ってくれていたのだろう。また迷惑をかけてしまった。母上の姿が見当たらないと思ったら横から抱きしめられる。
「おかえりっ!」
「いたっ!」
しまった、普通にしようと思っていたのに。腹部が締め付けられて声が出てしまった。
「ルイスちゃん、どこか痛いの?」
母上が心配そうにこちらを見つめる。
「!」「ルイス様」
ルドや父上まで。まずい、これは非常にまずい。
「何でも、ないです」
「すぐに治すわ、傷を見せて」
今日のことは知られたくないし、古傷もある。見られたら大変だ。
「ほ、本当に大丈夫ですから!」
逃げるように階段を駆け上がり、自室に向かう。
ぱたん、と扉を閉めてから一息つく。傷が痛むのですぐさまベッドに座り込み、治療する。
「あああ、いった…」
「全く、何が大丈夫なのですか」
すぐ近くから声がしてびっくりする。あ、今ちょっと痛かった。
「入室を許可した覚えはないぞ、というかどこから出てきたんだ?」
「転移魔法です。正面から入ろうとすると追い出されるかと思いまして」
全く有能すぎて嫌になる。
「怪我をしているのでしょう、特に腹部に」
ルドが僕に視線を合わせて覗き込む。内緒にしておきたかったがこの際だ、全て話してしまおう。
「ルイス様を傷つけるとは、たとえ上位貴族であっても許せませんね…ルイス様にご許可さえいただければすぐにでも始末して参りますが…」
今にも人を殺しそうな顔でそう言う。
殺気が、殺気が凄い…
だが、日頃の訓練のお陰で何とか耐えられるようになった。
「そんな許可は出せない」
まじでやめろ、と言う意味を込めて諭す。
「くっ!分かっております…」
拳を握り締めながらもルドは殺気を引っ込めた。
やれやれ、と息をつく。ルドは時々過保護すぎて困るのだ。
「あ」
ふと気がつく。もしかして、ルドに頼んだ方が早いのでは?
「確かに、私なら魔力量もありますからね。では私が治療致しましょう」
ルド闇属性治癒魔法、『ヒール』を発動する。体が黒いスライムのような物に包まれる。うねうねと体にまとわりつく。うん、ちょっと気持ち悪いな。
10分後…
「そろそろこのスライム?にも慣れてきたな」
「スライムではありません、ダークスです。闇魔法はダークだからダークスです」
「…これに名前つけてるの?というかネーミングセンス皆無だな」
20分後…
「ねえ、まだ終わらないの?」
「傷が深いのかもしれません、もう少し待ってください」
1時間後…
「…暇だな」
「ええ、暇ですね」
「お前は暇じゃないだろ」
「魔力供給しているだけですから、飽きるのです」
「…へえ」
結局、完治までに3時間もかかった。
「ありがとう、お疲れ様」
「当然のことをしたまでです。私はルイス様の執事ですから」
そう言って微笑むルド。
ああ、駄目だな僕は。試験とはいえ怪我をさせてコンラート家に借りを作り、入学初日からランバート家の評判を貶め、挙句の果てには怪我を負ってルドの手を煩わせてしまった。
「不甲斐ない主でごめん」
「何をおっしゃいますか。ルイス様は立派に生きておられます」
そうなのだろうか?わからない。自分に自信がない。でも、ルドがそう言うならそうなのだろうか。
「具体的にどの辺が?」
「そうですね、魔法以外も真面目に勉強なさっているところと、旦那様や奥様、私にまで気を配ってくださるところ、模擬戦闘の時の緻密な戦略と冷酷さ、それはまあ私譲りでしょう、嬉しい限りです、それと先々のことまで見通して自己を高めていらっしゃるところ、小説から論説文まで幅広い本を読んでいるところも」
「も、もうその辺でいいから!」
そんなに褒められると恥ずかしい。顔を手で覆う。
「そういう可愛らしいところも好きですよ」
「からかうなよ…」
あれ、途中からルドの好きなところを言ってたのか?
それを自覚するとまた恥ずかしさが込み上げる。
※今回はBLっぽくなりました。主従の愛としても受け取れるかな?多分。
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