第32話「痛み」

廊下に出ると、気配を感じる。悪意、害意。僕はそういった負のーーいや攻撃的という意味ではプラスかもしれないがーー感情に敏感なのだ。恐る恐る先に進むと、コンラート様と数人の取り巻きたちが立っていた。

何をされるのだろう。ニヤニヤと嫌な笑みを向けてくるので不安になる。

「一緒に来てもらおうか」

突然腕を掴まれる。目の前の景色が変わったかと思うと、薄暗い部屋に連れてこられていた。

「ふん、転移魔法を使えるのがお前だけだと思うなよ」

「さすがはディーノ様!」

「素晴らしい才能です!」

取り巻きたちが何か言っているが耳に入ってこない。

どうしよう、どうやってこの状況を打開しよう?

「おーっと。この先には行かせないぜ?」

焦って部屋を出ようとすると取り巻きたちに道を塞がれる。

ならば転移魔法で、と魔法を構成するが、壊れてしまう。

どうしてだ?何が起こった?

「残念だったな。この空間では魔法は使えない。この魔道具で結界を張っているからなあ」

魔法が、使えない?

僕の唯一の抵抗手段である魔法を取り上げられてしまってはもう何もできない。部屋の出口は塞がれ、ひ弱な僕が力で勝てる訳もない。

「それとこの部屋の近くを通るやつは少ないんだ。声を上げても助けは来ない」

コンラート様は更に口角を上げて僕をジリジリと壁際に追い詰める。

「さあ、俺に恥をかかせた報いを受けてもらうぞ!」

「っ!」

壁に叩きつけられて腹部を何度も殴られる。

痛みに耐え切れなくなってうずくまると今度は上から踏み付けられる。

「さあお前ら、やれ」

今までドアの前で逃げ道を塞いでいた者たちが僕に近寄る。

「試験では良くもボコボコにしてくれたな!」

「ディーノ様に恥をかかせやがって!」

「クリスティア様にも気に入られるとは、気に食わねえ!」

「目障りなんだよ、雑魚が!」

様々な罵声を浴びながらふと、こいつら、手慣れているな、と思った。

魔法を封じる結界、声を上げても届かない部屋。服で隠れる部分しか攻撃してこない。それに何度も同じ場所を狙ってくる。

僕がこんなに冷静なのは、父によくされていたからだろう。少しでも気に食わないことがあると、拳が飛んできた。八つ当たりだったのだろう。

こういう時は、何も考えないようにするのだ。無感情になって全ての言葉に耳を塞ぎ、全ての痛みから意識を背ける。

久しぶりの痛みは、思ったより強い。

しばらくして腹部に痛みではない違和感を感じると何かが喉まで上がってきた。

こふっという聞いた事のない音がして、吐き出したものは赤い色をしていた。

「おいおいまじかよこいつw」

やりすぎたと反省する素振りもなく痛ぶり続ける。ああ、早く終わってくれないかな。

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