第27話「祝宴」

ディナーの用意が整ったのでルイス様をお迎えに上がる。

ノックをしても返事がない。また倒れているのだろうかと不安になる。

「失礼致します!」

見るとルイス様はソファで本を読まれていた。倒れていなくてほっとする。

「ルイス様、お食事のご用意が整いました」

「っ!びっくりした…」

近くまで行って声をかけるとルイス様は肩を振るわせる。

「ノックをしてから入って来なさいよ…」

濡れ衣を着せられそうになったのできちんと否定する。

「ノックはしたのですが、応答なさらなかったので」

「そうか。ごめん、気づかなかった」

本を読み耽っていて気づかなかったのだろう。

「とても集中して読まれていましたね」

「うん、すごく面白い。徹夜して読みたくなってしまうな」

本当に興味深そうなきらきらした顔をして仰るが、徹夜はしてほしくない。体調が心配だ。

「自重なさってください。徹夜してまた体調を崩したら、」

「冗談だ、徹夜はもうあれで懲りたよ」



「ルイスの合格、そして入学を祝して」

「「乾杯!」」

父上と母上が声高らかに乾杯する。

「ですから、まだ合格と決まったわけでは…」

「ルイス様」

声に振り向くとルドが人差し指を口に添える。今は黙って祝われておけということだろう。

そうだよな、邪魔しちゃだめだよな。あんなに楽しそうで、嬉しそうなのだから。

そう思って僕もお祝いモードに切り替える。

「ありがとうございます、僕なんかのために」

本当に、すごいご馳走だ。庶民のそれとはスケールが違うのだろうと、見たことがない僕でもわかる。

「当然じゃない、あとその僕なんかっていうの、やめてちょうだい」

そう言われてはっとする。いつもはそんなことは言わない母上だが、酒が入ると観察力が鋭くなるのだろうか。

「すみません…」

「そんな顔をするな。せっかくの祝いの席なのだから」

「…はい」

そうだ、お祝いモードを忘れていた。笑顔笑顔。

「合否がわかったら、正式に祝おう。プレゼントは今日はお預けだ」

あ、ちゃんと考えてあったのか。合格前提で祝われているのかと気が重かったので助かる。


「ありがとうございます、僕なんかのために」

(僕なんか、というのは口癖なのだろうか)

自己評価の低いルイスにルドルフは同情する。

フェリシアが指摘すると顔を曇らせるが、すぐに笑顔になる。そのぎこちない笑顔が作り物であることは誰が見ても明白だ。

ロイがこれに託けて酒を飲みたがっていたが、フェリシアやウィリアムと同じ席で、というわけにもいかない。雇われの身であって身分が下だからだ。同じく、ルドルフもルイスの視界の端で待機することしかしない。



祝宴の後、ご無理をなさっていないか訪ねてみる。

「お前も本当、鋭いな」

その顔は笑ってはいるが、嫌悪感が滲み出ていた。私に対するものか、それとも自分自身に対する自己嫌悪だろうか。

「お前が言ったんじゃないか、黙って祝われておけって。あれはそういうサインだろ」

確かにそうだ。だがあまりにご自身を卑下しようとなさるので止めたまでだ。

「奥様も仰っていましたが、ルイス様はご自分を過小評価しすぎです」

「…五月蝿いよ」

顔を背けて逃げるように足を早める。

こんなに冷たく当たられるのは初めてだ。今日のことでストレスが溜まっているのだろうか。

私にできることは、あるだろうか。



※タイトルからは想像もつかないドロドロ?した展開になってしまいました。

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