第26話「スティリア・ヴァー・エクレット」
「ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ」
「おかえり」
「おかえり〜!」
母上にハグをされるのは、未だに恥ずかしい。
いつもはルドだけなのに今日は父上と母上もいらっしゃる。なぜかシェフまでいるのだが。
厨房で問題でも起きたのだろうか。
「父上、母上、何かあったのですか?」
「いや、問題はないが。なんだ、私の出迎えは不満かい?ぐすん」
「うそ、ルイスちゃん反抗期!?」
「い、いえ不満ではありません。ただ、父上と母上に揃って出迎えられるのが意外だったので」
僕は嫌だなんて言っていない。父上も母上も気が早い。
「まあ、旦那も奥方も坊ちゃんが大好きですからな」
シェフのロイがにっと笑う。
「それで、ロイはなんでいるんだ?」
ずっとニヤニヤして教えてくれない。ルドが代わりに答える。
「坊ちゃん、今夜はご馳走ですよ」
割といつもご馳走な気がするが。でもどうしてだろう?
「ルイスの入学祝いだ」
「たくさん食べなさい!」
入学祝いって…
「お二人とも、気が早すぎますよ、まだ合格したかどうかは…」
「ルイスが受かっていないわけないだろう。なあ」
父上がルドに同意を求める。
「ええ、私の教え子ですから」
ルド、お前までそんな盲信をするのか。大体、筆記試験は散々だったと伝えただろうに。
「その自信がどこから来るのか知りたいね」
「ルイス様、私にだけ辛辣では…」
しゅんとするルドにマウントを取るお二人。うん、騎士団長の威厳のかけらも無いな。
今はまだ夕方なのでディナーまで時間がある。今日は思考を変えて小説を読んでみよう。
書斎には自由に出入りして良いと許可をいただいている。
本棚には性格が出る、と言うが、父上は色々な種類の本を読まれている。ほとんど全てのジャンルが揃っているのではないか。むしろ探究心旺盛で色々なことを取り入れる、と言う性格が伺える。
「呪い愛」と言う題名が目に留まってその本を手に取る。
「呪い愛」 スティリア・ヴァー・エクレット
この人も変わった名前だ。どんな物語だろう。
巧妙な情景描写と独特の世界観が、僕を空想の世界へと引き込む。
呪術という、魔法とは別の術が存在する世界で呪いにかかった少年が少女と出会う。
少年は呪いのせいで言葉を発することができない。その少年に初めてできた友達が少女、という設定だ。
周囲から腫れ物のような扱いを受けて来た少年は少女と出会い、呪いを解く方法を探っていくなかで愛と言うものを知る。
つい自分の境遇と重ねてしまう。
愛、か。これからこの少年は少女に愛されるのだろうか。あるいは少女を愛すのだろうか。愛とは、何なのだろうか。
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