第25話「入学試験 後編」
実技試験の二つ目は模擬戦闘だ。受験者同士で魔法を撃ち合う。もちろん、勝者には点数が加算されるが、ここで重視されるのは技術や戦略だ。戦闘の様子が評価対象となる。
整理券を受け取り、指定の位置に並ぶ。その場で対戦相手を決めるのは、直前まで対策ができないようにするためだろう。
皆、魔法の技術が高い。中には上級魔法を使う人もいて、おおっと会場がどよめいた。
中級魔法も初級魔法も一つずつしか使えない僕とは比べ物にならない。
できれば自分より強い人とは当たりたくないな、と考えていると僕の番がくる。
相手は…
「…格上じゃないか」
相手を見て引け目を感じる。格上、というのは実力ではなく家格のことだ。コンラート侯爵家次男、ディーノ・コンラート。実力はさておき、家柄が上だと相手が負けた時に色々と恨まれそうで怖い。
いや、だめだ、ルドに教わったじゃないか。戦闘中は余計なことは考えない。自分の敗因、相手の勝因を潰すことだけに集中だ。深呼吸をして気持ちを整える。
普通の戦闘ならば始まった瞬間に距離を詰め、『インパクト』で不意をつくのもいいが、今回は得策ではない。大事なのは中身だ。自分の技量を見せる場でもある。
とはいえ、相手の実力を把握しきれていない。まずは様子見だな。
火、水、土、風の初級魔法を一つずつ放つ。
全て対になる属性で打ち消される。それも完璧にだ。ここでどれか失敗してくれれば相手の適性が分かったかもしれないのだが。
「ほう、なかなかやるじゃないか!」
コンラートが喋りだす。
「今度はこっちから行くぜ」
そう言うとコンラートは術式を編み始める。
「俺の適性は火属性だ。消し炭にしてやるよ」
適性を自ら教えてくれるとはありがたい。術式が組み終わり、僕の周りが光ったかと思うと凄まじい爆発が起こる。
だが僕は無傷で立っていた。
『アクアマリン』であたりを水で覆い、相殺したのだ。
火属性の魔術がくることは分かっていたので事前に発動できる状態にしてあった。爆発寸前まで疑っていたが。
「『フラルゴ』に耐えるか。だが俺は最上級魔法も使えるんだ。これは防げるか?」
そう言うと今度は詠唱を始める。ルドから聞いたことがある。難しい魔術ほどちゃんとした口頭での詠唱が必要になると。
まずいな、最上級なんて受け止め切れる自信がない。こうなったら…
僕は転移でコンラートの近くまで行き、口に無理矢理指を突っ込む。
『インパクト』
「があっ!?」
何が起きたのかと混乱するコンラートに説明する。
「口の中で小さな爆発を起こしました。これでもう詠唱はできません。ご安心ください、威力は最小限にしてあります」
口から血を流しながらもごもごと何か言っているが、無視して『ル・ウォルタ』をいくつも叩き込む。この勝機を逃す僕ではない。
十発くらい打ち込むとコンラートは水圧に押されて倒れる。
もう反撃はできないだろうが一応闇魔法『アビス』で拘束して戦意を削いでおく。
「もういいですか」
「まりゃりゃ、まりゃやりゅりゅ(まだだ、まだやれる)!」
必死に抵抗しているが魔法を発動する様子はない。審判を見る。
「しょ、勝者、ルイス・ランバート!」
勝敗が決したので拘束を解く。
「貴様、覚えていろよ!」
コンラート様はそれを捨て台詞に去っていった。怒らせてしまっただろうか。あとで色々言われるだろうか。戦いが終わると一気に不安が押し寄せる。
だが、今更考えても仕方がない。コンラート様が僕を恨んでいないことを祈ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます