第24話「入学試験 前編」
今日はいよいよ魔法学院アストルの入学試験だ。初めて校舎を訪れたが、流石、王立なだけあって広さが尋常じゃない。筆記試験の会場まで辿り着くのに時間がかかってしまった。試験開始に間に合ってよかった。
「では、始め!」
試験官の号令で一斉に解き始める。
最初のページを開いてしばらく固まった。次へ、また次へとページをめくる。最後までめくってから再び固まる。
…問題文が頭に入ってこない。
うう、やっぱり勉強してくるんだった。
ーー時は遡ること数時間前。会場に向かう馬車の中。
「緊張する?」
「…はい、少し」
「ルイスはルドルフとの訓練、頑張っていたみたいだね」
「はい、実技試験の対策はばっちりです」
「ところで、筆記試験の勉強はしたのかい?」
「「あ」」
しまった。術式とやらをやりたくなさ過ぎて脳内からすっかり抜け落ちていた。
「ルドルフ、指導係のお前が忘れてどうする」
伯爵、父上が呆れている。
「面目ありません…」
だがもう受験届も出してしまった。やっぱり受けるのやめます、とはいかない。
「はあ、仕方がない。乗りかかった船だ、いやこの場合は馬車、かな。このままダメ元で試験を受けよう」
「「はい…」」
ルドと二人で意気消沈したのであった。
筆記試験の結果は散々に終わり、実技試験の会場に移動する。
実技試験は特殊な闘技場で行われる。一つ目は、的に魔法を当てる試験。もう一つは受験者同士による模擬戦闘だ。
と、その前に魔力量測定と適性検査がある。そう、適性属性を検査するのだ。また全属性と出たらどうしよう、というかそう出るに決まっている。なんとか誤魔化せないだろうか。
「ルイス・ランバートです」
名前を名乗ってから水晶に手をかざす。風魔法を放つ前の魔力の状態に持っていけば風属性と出たり…一か八か、やってみるしかないな。
どきどきしながら魔力を流し、結果を待つ。
「おおっ!二属性持ちとは!風属性と水属性だ」
全属性とという結果は免れた。だが二属性持ちは珍しいから注目されてしまうだろう。なんだか複雑な気分だ。
最初は的当ての試験だ。
各々が自分の得意な技を的に当てる。派手に外してしまう者もいれば、しっかり真ん中に当てる者もいる。
なんか、思ったより的が小さいな。火力調整はあまり得意ではないのだが、大丈夫だろうか。
「次、ルイス・ランバート」
「はい」
名前を呼ばれて前に出る。
大丈夫、できるだけ小さく、少ない魔力で…
『レ・フレイム』
「あっ」
他の受験者の二倍くらいの大きさの火球が的を焼き尽くす。
これは、やってしまった…
「す、すみません、本当にすみません、弁償します…」
血の気が引いている試験官に謝る。
「お、おう」
と曖昧な返事をされてしまったのでどうすればよいか迷っていると、周りから視線が集まっていることに気づく。
まずい、注目されている。嫉妬、恐怖、懐疑。入学前から人に好奇の目を向けられるのは避けたい。
「では、3トリア払ってもらおうか」
声のしたほうを振り向くといかにも学院長、といった雰囲気の男性が立っていた。
「が、学院長!?なぜこちらに?」
試験官が白くなった顔をさらに白く、もはや青くして尋ねる。
「私が来てはいけない理由がどこにある?私は生徒たちの実力を見に来たのだよ」
やはり学院長だった。この人が父上の知り合いの…
「あの、こちら、3トリアです。本当に申し訳ございませんでした…」
急いで財布から金貨を取り出す。3トリアで許してもらえるなら安いほうだ。本当に、申し訳がない。
「うむ、確かに受け取った。学院はこの件をこれ以上追及しないと約束しよう」
意外とあっさり許してもらえた。優しい方だ。
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