第19話「お願い」
「ルド、お願いがあるのだけれど」
愛称で呼ばれたことに心の中で悶えていると、お願い、という言葉が聞こえる。
ルイスがお願いするとは珍しい。
「何ございましょう?」
ルイスは言いにくそうに顔を歪める。
「そ、その、食事の量なんだが…減らすよう言ってもらえないかな」
食事、と言われてピンと来た。
毎晩、ルイスがトイレで嘔吐しているのをルドルフは知っている。
それでもすぐにウィリアムに訴えなかったのは、ルイスが両親に気を遣っていると気づいていたからだ。
自分を押し殺すルイスを、ルドルフは心配していた。
だがルイスが自ら訴えてきたのだ。自分の気持ちを吐き出してくれたことに少し安心する。
「僕としては、普通に一人分でいいのだけれど」
「かしこまりました。そのようにお伝えします」
「うん、助かる」
ルイスの元を去ったルドルフは、早速ウィリアムの所に来ていた。
「旦那様、坊ちゃんからのお願いです」
ウィリアムはルイスに甘い。ルイスの名前を出せばたいていは承諾する。そのことをルドルフは理解していた。
「お食事の量を減らしてほしいそうです。一人分で十分だと仰っています」
それを聞いてウィリアムは自分の行いを悔いる。
「無理をさせてしまったか…」
「ご許可をいただけますか?」
「当然だよ、ロイに食事は三人分にしろと伝えてくれ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「そうか、四人分作れと仰せつかっていたので不思議に思っていたが、坊ちゃんの分じゃったか」
「…材料は無駄にならないでしょうか、急に調理する量が変更になりましたが」
「なあに、心配いらん。使用人の賄いが増えるだけじゃ。もちろん、お前さんの分もな」
ロイは、材料のことまで考えているのか、とルドルフの気配りに感心する。
ロイは長年ランバート家の料理人を務めているが、特にこのルドルフという執事は優秀だ。
それこそ、一人でコース料理を全て作れてしまいそうなほど。
それだけ人望があるのに専属とは勿体無い、とロイは考えているのだが本人と当主が納得しているのだ。口出しはできまい。
「ところでルドルフ君よ、いい酒が入ったんじゃが今夜こそは飲まないか?」
「申し訳ございません、お酒には弱いので」
「またフラれてしまったか」
前に一度飲んだのだがそれ以降断られ続けている。
もっとも、ロイ自身の酒癖が悪いことに本人は気づいていない。
(この方は酒に酔うとすぐに泣きついて厄介なので避けたいところだ…)
そう、泣き上戸なのである。
「儂は嫁もおらんし料理ができるだけの凡人じゃ!世の中のカップルが羨ましいわ!特に旦那と奥方のいちゃいちゃなんぞ目の前で見せられたら悲しくなるじゃろ!人前でするな!」
などと喚く。
その場にいた者は八つ当たりの的になり、何時間も拘束されてしまうのだ。
使用人たちの間に噂が広まると酒を飲み交わす仲間が減り、今では一人寂しく、ぶつぶつ文句を言いながら飲んでいるのである。
それでもロイは諦めずに使用人たちにアタックを続けている。
(全く、困ったご老人だな)
ルドルフは心の中で少し失礼なことを考えた。
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