第18話「術式」

学院の入学試験は記述式の「魔法理論」と実践式の「実技」に分けられる。魔法が使えるだけではなく、理解できなければならないのだ。

というわけでルドルフが以前言っていたじゅつしきとやらを学習しているのだが…

「わからない…なぜここにこの術式が必要なんだ?そもそも術式って何?」

さすがのルドルフも、これには苦笑いしか返してくれない。

「もう嫌だ…魔法嫌い…!」

涙目になっているのを隠すため、机に突っ伏す。

「本来ならば理論を覚えてから実践に移行するのですが…致し方ありませんね。方針を変えましょう」

理論が分からず挫折しかけていた僕を見て、実技を重点的に伸ばすことにしたルドルフは中級魔法、『カーディナル』を見せてくれる。

深紅の炎があたりに広がり僕たちを囲う。

「この魔法は、相手を拘束するだけでなく、水属性攻撃の防御にも使えます」

「それともう一つ、この『カーディナル』には大きな特徴があります。欠点とも利点とも言えますが」

欠点にも利点にもなり得る?どう言うことだろうか。

「それは、周囲の酸素を消費することです。相手にかける場合には徐々に呼吸困難にさせ、じわじわと敵を追い詰める効果があります。ですが、防御に使用した場合は自身の首を締めることになります」

諸刃の剣だな。

「ところでルドルフ、そろそろ苦しいのだけれど…」

「っ!申し訳ございません、すぐに術を解きます」

魔術が解除されると、大きく息を吸い込む。危うく倒れるところだった。一瞬くらっと来た時は焦った。

でも、見たところで発動の条件が分かるわけでもない。結局は理論に帰結するのである。

ルドルフに言われた通り、まずはそこにあった花瓶を囲むように魔力を操作する。

そして、火属性の魔法を放つ時の魔力の状態に持っていく。強く魔力を込めると『カーディナル』が…

発動しない。何が間違っているのだろうか?

それからルドに何度も実演してもらい、試行錯誤を繰り返した。

そして記念すべき111回目(数えている訳ではないが)…

「できた…!」

花瓶を囲む時の魔力の形、というか模様?が違ったのだ。魔力の状態も、初級魔術より火属性に近づけないと駄目だった。ルドルフが言うには、精密な魔力操作の結果らしい。よくわからない文字の羅列を覚え込むよりこっちの方が性に合っている。ルドルフの判断は正解だった。

「あの、一つ、宜しいでしょうか…」

ルドルフの顔が曇る。

「ん?」

「私のことはルドとお呼びくださいと、先日申し上げたのですが…覚えてくださっていますか…?」

「っ!」

忘れていた、完全に忘れていた…!あの時約束したのに!

「ごっごめん!本当にごめんっ!申し訳ない、ルド…」

「良いのです。すぐに距離を詰めるのは難しいでしょうから…」

悲しそうに俯く。ああ、僕は何を…!

「ち、違うんだ!僕は…」

何とか誤解を解かなければ。もう正直に言ってしまおう。

「正直に言うよ、ルド。僕は、君との約束を忘れてしまっていた。ごめんなさい」

頭を下げて謝る。ルドは、許してくれるだろうか、こんな愚かな僕を。

「頭を上げてください。忘れてしまうのは仕方がありませんから、貴方様が謝ることは何もございませんよ」

顔を上げるとルドは、寛大な笑みを浮かべていた。つられて僕も笑顔になる。

安心したところで、ずっと言おうと思っていたことを思い出す。

「ところでルド、お願いがあるのだけれど」

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