第17話「感情」

朝起きると、ルドルフがすでに部屋の中にいた。

「おはようございます、坊ちゃん」

そう言って目を細める。

ズキッ

「おはよう…」


「坊ちゃんは本当に可愛らしいですね」

ズキズキッ


「正解です、流石坊ちゃん」

ズキンッ


「よくできました、坊ちゃん」

「っ!」

頭を撫でようとするルドルフの手を振り払う。

「坊ちゃん…?」

「何だその目は、何なんだ…!」

蕩けるような、甘く、温かい目。

「苦しいんだ、胸が。その目で見られると」

悪感情を向けられているわけではないのに、ズキズキと胸が痛む。こんな感情は今まで味わったことがない。

「やめろよっ、痛いのは、苦しいのは嫌なんだよっ!何だこれ、何なんだこの感情はっ!」

柄にもなく大声で叫んでしまった。まだ痛む胸を押さえる。

ふわっと空気が揺らぐ。気づけば僕は、ルドルフの腕の中にいた。壊れ物を扱うようにそっと抱きしめられる。

「ルイス様、私は貴方を愛しています」

耳元で囁く。

「これは、愛ゆえの眼差しなのです。そしてルイス様、貴方のその胸の苦しみもまた、愛ゆえの感情なのです」

「だったら、いらない。こんなに苦しいなら、愛なんていらない」

そもそもなぜそこまで僕なんかを愛すのか。ただの他人なのに。

「そうですね、貴方様には、愛はまだ苦しいだけかもしれません。ですがルイス様、その苦しみこそが心地良いのです」

「え…?」

「きゅうっと胸が締め付けられて、誰かを愛おしいと思う。その気持ちを相手と共有できたら、とても心地が良いのです」

僕を腕の中から出して肩に手を置く。あの蕩けそうな目が僕に向く。

「ですからルイス様も、もっと私を愛してください。その気持ちを、私に伝えてください」

伝えると言っても、どうやって伝えれば良いのだ。

「…では、私のお願いを聞いてくださいますか?」

遠慮しているのか、伏せ目がちになる。

「うん」

「私のことは、愛称でルドと、そう呼んでいただきたいのですが…」

そんなことで良いのか。

「分かった、ルド」

ルドは顔を上げると花が咲くように笑顔になる。

「はい、ルイス様、愛しております」

ああ、苦しい、痛い。その眼差しに、愛に、溺れて、流されて息が詰まる。ルドもこんな気持ちなのだろうか。

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