第16話「勉強」

今日はフェリシア様が遠征から帰ってくる。屋敷の者総出で出迎えだ。

遠くから護衛をつれたフェリシア様がやってくる。隣の護衛の人は鎧を着ているが、フェリシア様は白いローブを羽織っていた。僕たちの姿が見えると手を振りながら走って来た。

「ルイスちゃんっ!会いたかったっ!」

「わっ」

抱きしめられるなんて初めてだ。こういう時、どう反応すれば良いのだろう。

「あ、あの」

「いやよ!久しぶりに会えたんだから!」

まだ何も言っていないのだけれど。

さらにきつく抱きしめられる。伯爵が嫉妬の込もった視線で睨んでくるのでやめてほしい。

「ほ、ほら、伯爵が寂しそうですよ」

悔しそうな伯爵にフェリシア様は冷たく言い放つ。

「あらウィリアム。いたのね」

「なっ!?」「っ!」

伯爵も僕も衝撃を受ける。

「フェリシア…酷いじゃないか」

「すみませんすみませんすみませんっ!」

僕のせいで伯爵が忘れられていたなんて、申し訳ない。

フェリシア様は、その綺麗な姿に似合う仕草でふふっと笑う。

「冗談よ。世界で一番愛しているわ、ウィル」

「リシア…」

熱い視線で見つめ合う。どうしよう。二人だけの世界に入ってしまった。

きっと屋敷の使用人たちも同じことを思っているだろう。

「奥様、旦那様、昼食のご用意が整ってございます」

咳払いして気まずい空気を打ち破ったのはルドルフだ。

「おっと、そうだったね。じゃあ行こうか」


家族揃って食事をするのは一週間ぶりだ。

「今回の遠征はどうだった?」

伯爵がフェリシア様に問う。

「結構手こずったわね。怪我人は少なかったけれど」

「えっと、ホーンラビット、でしたっけ?そんなに強いのですか?」

「一匹一匹はそこまで強くないのだけれど、数が多いのよね」

「…冒険者に任せてはいけないのでしょうか?」

数が多いだけならわざわざ騎士団が出向く必要はないのではないか。

「我々騎士団は国民を守るのが仕事だ。他国との戦争だけでなく、魔獣の襲撃からも守ることで国民の信頼を得るのだよ。」

騎士団の面子というやつか。面倒だな。

今は平和で、他国との戦争が少ないこともあるので仕方がないのかもしれない。

それにしても本当に食事の量が多いな。毎食吐きそうになる。朝と昼はまだ良いのだが問題は夜だ。今まで食べた分が溜まっているのだろう、胃が受け入れられずに悲鳴をあげる。こっそりお手洗いで嘔吐しているのは…うん、言わないでおこう。


食事を終えると午後は地理の勉強だ。

将来はおそらくこの家を継ぐことになるので、魔術ばかりに専念してもいられない。僕では当主なんて務まらないと思っているのだが。


この世界は2つの大陸からなる。

我が国バルシャイン王国は大陸の西の端に位置しており、東にベルシュタイン帝国、北にディアナの森、海を挟んで西側にはスイレンという国があるらしい。

ベルシュタイン、スイレンとは国交があり、港街では他国の文化も取り入れている。他にも多くの国があるが主な貿易相手国はこの二カ国だ。

北の森には魔獣が多く住んでいて、危ないから入ってはいけないと教えられてきた。今回のホーンラビットたちもそこから出てきたのだ。

「そういえば、ディアナの森ってどこの国の領土なの?」

「良い着眼点ですね。実はこの森、どこの国にも所属していないのです」

「それって問題にならない?」

「問題はございません。王国と帝国は相互不可侵条約を結んでおります。その条文に、ディアナの森は開拓しない、という内容のものがあるのです」

どうやらこの国の上層部は優秀なようだ。だがどちらかが条約に背いて森に侵攻した場合、全面戦争は免れないだろう。

「スイレンという国は独自の文化が発展していて、妖術なるものが使われているそうです」

「魔術や精霊術とは違うの?」

「私も詳しくは知りませんが、精霊と似たようなものを召喚できるようです」

魔術でも精霊術でもない、妖術。いつか見てみたい。



※注意:この世界にもトイレはあります。そういうことにしておいてください…

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