第15話「二人」

ルドルフは、罪悪感に苛まれていた。ルイスを怖がらせてしまった。目の前で神官を脅すべきではなかったのだ。瞳に恐怖の色が浮かんでいた。その後はすぐに機嫌を直したが、あれは失態だった。

自分のしたことに頭を抱えつつルドルフは、ウィリアムに報告へ向かう。

ふうっと深呼吸して気持ちを切り替える。きちんと三回ノックをし、返事があってから入る。

報告するのは今日の授業内容、ルイスの魔力量と適性の測定結果についてだ。

「全属性?そんなことがあり得るのかい?」

ーーやはり旦那様もお疑いになるか。

ルイス坊ちゃんならばあり得る、とその時は思ったが、よく考えれば魔法を習得する速さとこれとは別問題だ。

「正しく測定できていない可能性が高いかと」

「だとすると、水晶に問題があったんじゃないかな?」

「…もう少し詳しく調べてみます」

問題がなかった、とは言い切れない。あの時点で見抜けなかった私の能力不足だ。不甲斐ない。

「よろしく頼むよ。ところでルイスのことだが、あれはちょっとお前に懐きすぎじゃないかね?」

仕事モードからプライベートモードに切り替わる。

「息子がなかなか懐いてくれなくてお父さん寂しいっ!」

「私もまだあまり懐かれてはいませんよ。まあ、坊ちゃんが心を開くのは私の方が先でしょうけれどね」

「お前、それは主人に対する物言いか?」

二人で笑い合う。


長年の信頼が、二人の関係を築いている。主従関係だけでなく、友人として、気のおけない関係。双方の性格もあってのことだろう。どちらも冗談が好きで明るい性格だ。だがもう一つ共通点を挙げるとすれば、二人は仕事のことになると厳しくなる。

模擬戦でも手を抜かないルドルフと、深謀遠慮で敵を欺くウィリアム。戦には厳しい二人なのであった。

「はぁ、息子に振り向いてもらえないのなら、フェリシアに癒してもらうとするか…」

「そういえば、そろそろ奥様が戻られる頃ですね」

「ああ、明日には帰ってくると聞いたよ」

フェリシアは数少ない光魔法の使い手として騎士団に重用されている。といっても、ウィリアムとは部隊が違うので共に行動することは少ない。

ウィリアムは第三騎士団だが、フェリシアが所属するのは第五騎士団で、今は魔獣討伐に遠征していた。

「旦那様、次の資料をお持ちしました」

二人で他愛のない会話をしていると、無表情の侍女が入ってくる。

終わりの見えない執務作業にウィリアムも苦労しているようである。まだ帰らない妻に向かって叫ぶ。

「我が愛しのリシア、早く帰って来てくれ〜!」



※次回、忘れられていたフェリシア様の登場です。ごめんね、フェリシア様…

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