第14話「水晶」
適性属性と魔力量測定のため、僕はルドルフと教会に来た。
教会はいかにも宗教といった感じの、真っ白で神々しい建物だ。
神官さんに水晶のある所まで案内される。
移動中にルドルフが教えてくれたが、光と闇は希少属性で、適性を持つ者が少ないらしい。僕に光属性の適性があるかわからないから教えなかったのだそうだ。
…卑怯だと言ったのは訂正しよう。ちょっと卑怯だ。
わざと教えなかったわけではないのだろうが、卑怯なことに変わりはない。
光魔法を使えない相手に闇魔法を使ってくるあたりが。
王国民はミステル教という二神教を信仰していて、教会では光魔法に適性がある者の中でも「聖女」という特別な存在を保護しているらしい。
称号で待遇が決まる世界だ。羨ましいな、僕は追放される立場なのに。
「こちらの水晶に魔力を流してください。魔力量と適性を測定します」
言われるまま水晶に手をかざし、魔力を流す。
火属性なら赤、水属性なら青、土なら茶色、風なら緑、雷は黄色、光は白、闇は黒に光るらしい。
しばらくたっても何も色が変わらない。属性無しとかあるのだろうか。何やら神官さんが顔を引きつらせている。すごく不安だ。
「て、適性、全属性です!」
えっ?
僕も神官さんと同様、顔を引きつらせる。
「な、何かの手違いですよね?この水晶、壊れているのでは?」
全属性持ちなんて魔王を疑われてもおかしくないじゃないか。魔王だとバレたらどうなるか…
「全属性?ありえない、いやだがルイス様なら…」
ルドルフが不穏なことを呟いている。ねえ、嘘だよね?何かの間違いだと言ってくれ。
「全属性ということは、希少属性である光、闇にも適性が?」
「え、ええ。そういうことになりますね…」
混乱する神官さんと対照的にルドルフは冷静だ。確認すべきことを事務的に問う。
「魔力量はどのくらいでしょう?」
「えっあっそれは…132ですね、はい」
今確認したな、この人。まあ、僕も属性のことに気を取られて忘れていたけれど。
魔力量は人並みか。よかった。
魔力量は、100あればそこそこ、150で宮廷魔法師級、50を下回ると周囲から憐れんだ目で見られる。これで魔力量200超えとか冗談じゃ済まない。
それにしても、全属性は流石におかしい。水晶を変えて測り直してもらおう。
「す、すぐに別のものをご用意致します!」
神官さんは慌ただしく出ていった。
待っている間、ルドルフがすごく真剣な顔だったので気まずくて話しかけられなかった。いつもの軽口はどうしたんだ。
さっきの人が別の水晶を持ってきた。教会のなかで一番質の良い水晶なのだそうだ。
先ほどと同じように手をかざす。
「ま、また!?」
「結果は変わりませんね…」
つまり全属性持ちということ?
神官さんが怯えた目で僕を見る。怖いのはこっちだよ。これから周囲にどんな目をされるか不安でたまらないのだ。
「お、まえは、何者なんだ?」
混乱して敬語を忘れている。
「ルイス様はルイス様です。それ以外の何者でもありません」
ルドルフが少しの殺気を帯びながら言う。
「それと、このことは一切、口外なさらないように。もしも誰かに漏らしたら…」
ルドルフの殺気が大きくなる。またあの冷酷な目だ。
「この教会ごと潰します」
「ひっ」
ルドルフの迫力に圧倒されて神官さんは息を呑む。僕も立っているだけで精一杯だ。
殺意が自分に向いていないと分かっていても恐怖してしまう。あの強さを見た後だから余計に。
もうやめて、という意味を込めて軽く袖を引くと、一瞬ハッとしてから子犬のようにしゅんとしてしまった。
「申し訳ございません、怖がらせてしまいましたか」
「うん、怖かった」
殺気が引っ込んで神官さんがほっと胸を撫で下ろす。
ルドルフは、いつもは軽薄で冗談が多いけど、時々怖い。
ちょっと声が震えてしまったのはバレてないだろう、多分。
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