第12話「灯火」
「今日は実際に魔法を使ってみましょう。この天才魔法師ルドルフがお教えしますよ」
「…」
「そこは『自分で天才って言うかよ!』って突っ込んでくださいよ…」
「ご、ごめんなさい」
「ちなみに日常においては、魔法と魔術の違いははっきりと分かれていないのでどちらで呼んでも大丈夫です。ただし物の名前、例えば宮廷魔法師などは正式名称が決まっているので注意してください」
ややこしいな。なぜ大人は呼び方を統一してくれないのだろう。
魔法の発動には、魔力を感じることが重要だそうで、まずは自分の魔力を認識することから始める。
「魔力の源は体の中心にあります。周辺よりも少し熱を帯びている所が魔力源です。そこから全身をめぐらせて指の先に魔力を集め…」
『レ・フレイム』
ルドルフが指先に火を灯す。
「おお〜」
魔法は初めて見たので感心して思わず拍手する。
体の中心、お腹の下のあたりに意識を向ける。確かに少し熱い。その熱を全身へめぐらせる。
魔法はイメージが大事だ。自分の指先に炎が灯っているところを強くイメージし、魔力を込める。
『レ・フレイム』
ぼっと音がして火が灯る。
「できた…!」
と思ったらすぐに消えてしまった。
「最初はこれで十分です、これから練習していきましょう」
ルドルフの指導の下、僕は各属性の初級魔法を習得していった。それぞれの魔法を順に発動していく。
『レ・フレイム』
『ル・ウォルタ』
『レ・グラヴェル』
『リ・ヴェント』
「上出来です、ルイス様は才能がありますね」
そう言って微笑む。
「…だと、いいな」
才能なんてない、何もできない屑だと言われてきた。実際そうだった。僕に魔法の才能はあるのだろうか。
「では失礼致します。おやすみなさいませ、坊ちゃん」
今日一日の仕事を終え、ルドルフは新しい主人について思案する。
「一日であれほど上達するとは…」
ルイスには才能がある。魔法を維持できる時間こそ短いものの、常人ならば習得に一週間はかかる四つの初級魔法を、たった一日で覚えてしまったのだ。
「将来は大魔導師かもしれないな」
まだ見ぬ未来の主人に思いを馳せ、誇らしい気持ちになる。
だが本人は、才能があると言われても喜ぶ様子はなかった。
それは謙遜というよりむしろ、自分を卑下しているように見えた。
これまでの様子から、ルイスがアシュトン家でどのような扱いを受けてきたのかは予想がつく。
常に劣等感を抱え、他人に迷惑をかけることを嫌い、少しでも相手の機嫌を損ねるとほぼ反射的に「ごめんなさい」と口にする。
ルドルフという専属執事がついていながら全てのことを一人でやろうとする。
先日はどう言うわけか、夜にお茶を淹れるとかでキッチンに立ち入ってちょっとした騒ぎになった。
その時のルイスは虚ろな目をしており、
「あ、そっか、もうやらなくていいのか」
とつぶやいたかと思えば、そそくさと部屋に戻ってしまった。
ルイスは、いつも暗い顔をしている。目に光がない。
「きっと、ルイス様の心は闇に覆われてしまっているのでしょうね…」
照らして差し上げたい、その心に、火を灯して差し上げたい。それは魔法のように簡単にはいかないことだ。それでも、いつかきっと。
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