第10話「服飾店」
「なんてったって伯爵様はうちのお得意様ですから!」
そう言って店員さんは奥の部屋に行ってしまった。ありったけの服を探しているのだろう。ばたばたと音が聞こえる。
しばらくして店員さんが戻ってきた。と思ったら急に腕を掴まれる。
「ほらほらこっちへ来てちょうだい!貴方に似合いそうな服がたくさんあるわよ!」
「えっ、えっちょっと」
試着室に押し込まれてしまった…
それから
「これは?」
「これはどう?」
「これも似合う!」
「これも可愛いっ!」
と色々な服を着せられ、脱がされ…そろそろ帰らせてほしい。切実に。
「…すまないが、そろそろ決めさせてもらえるかな?」
伯爵が助け舟を出してくださる。
「あら、私ったらごめんなさい。可愛い子が来たからテンションが上がっちゃってつい…貴方もごめんなさいね、着せ替え人形にしちゃって」
「えっ、あ、はい」
びっくりした。急に話しかけられると思わなかった。
「さあルイス、どれがいいんだい?」
今まで試着した物はどれも高級そうだった。
「決められません、どれも僕にはもったいない品ばかりで…」
「よし、じゃあ全部買おう!」
「え!?そ、それはさすがに伯爵にご迷惑が…」
「ははは、冗談だよ。ほら、選んでごらん」
よかったあ。本気で全部買いそうだもんな、この人。
ほっと胸を撫で下ろす。
本当にどれも素敵なのだけれど。
それでも選ばなくてはいけないので、とりあえず一番手前にあったスーツにネクタイスタイルの一式を選ぶ。
「お買い上げありがとうございます。30トリアでございます」
トリアとはここ、バルシャイン王国の通貨で、1トリアは100キアに当たる。服一着あたりの相場は23トリアくらいだ。
…思ったより高かった。伯爵に申し訳ない。
「そんなに気にしなくていいんだよ。自分の欲しい物は欲しいと言いなさい」
欲しい物。
「あ、あの!書斎を見せていただきたい、のですが…」
誰かに頼みごとをするなんて初めてで最後の方は声がすぼまってしまった。
遠慮がちに見上げる僕に対して伯爵は、柔らかく微笑んだ。
「じゃあ、帰ったら見せてあげるよ」
「すみません、僕なんかのために色々と」
「すみませんじゃなくてありがとう、だろ?」
その言葉に、僕も微笑む。
「は、はい、ありがとうございます」
「また来てね、可愛いお客さん!」
※1キアは日本円で1円です。そうなると相場にもよりますが1トリアが1ドルくらいですね。まあ、今だと0.6ドルくらいにしかなりませんが…
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