第9話「噂」

「うーん」

壁紙とカーテンのデザインを決めるよう言われているのだが、種類が多すぎる。

「ルドルフ、君はどれがいいと思う?」

「そうですね…これがいいと思います」

「うーん、なんか微妙」

「どれがいいかと尋ねられたのは坊ちゃんでしょうに。そんなにご不満ならご自分で選んだらどうですか」

と拗ねてしまった。

「ご、ごめん」

結局悩みに悩んだあげく、最初にルドルフが指した物にした。


これで部屋の設備は整った。今度は服を買いに行こうという話になり、伯爵と街に買い物に出た。一度来たことがある場所だ。顔を覚えられているのだろう。人の視線が痛い。

男二人の会話が聞こえる。

「なあ、伯爵様の隣にいるのって…」

僕のことだ。体が強張る。

「伯爵様の養子らしい。ほら、この前ここに来てたろ?あの時は随分と酷い格好だったな」

「へえ、俺は多分その時いなかったな。つーか誰なんだ、あの子は?伯爵様と全然似ていないじゃないか」

「それがな、噂じゃ、伯爵様が拾った奴隷らしい」

大柄な方が声を潜めて言う。

「えっ奴隷!?」

「しっ!声がでかい!」

「お、おう。すまん」

声を潜めたところでこの距離では丸聞こえなのだが。

「しかし、奴隷を養子にするなんて伯爵様も物好きだよな」

黙れ。

「おい聞こえるぞ…まあ変わっているとは思うな」

黙れ黙れ黙れ。

「伯爵様も前から変人だとは言われていたけれど、ここまでとは思わなかったぜ」

「っ!黙れ!」

耐えきれず叫ぶと伯爵がこちらを見る。

「ルイス!」

「っごめんなさ、」

「私にじゃなくて、そちらの方に謝りなさい」

「…すみませんでした」

「い、いやこっちも悪かったっすよ、本当、すんません…」

不服そうにしていると伯爵が尋ねてくる。

「不満そうだね」

「だって、僕のせいで伯爵まで悪く言われるのは、」

「筋違いじゃないかって?」

こくりと頷く。

「気持ちはわかるが、我慢も大事だよ」

「はい、気をつけます…」

感情の制御ができていないのだと反省する。


歩いていくと、屋台が少なくなり、飲食店や服飾店が増えてきた。赤い屋根の店の前で止まる。

「ここは私の行きつけでね」

そう言いながら伯爵は扉を押し開ける。

「お邪魔するよ」

「あら伯爵様!お待ちしておりました。あら、今日は可愛いお連れさんもいらっしゃるのね!」

「ああ、私の甥、いや、息子だ。この子に見合う服を用意してやってくれ」

「かしこまりました。この店の子供服を全てお持ちしますわ!なんてったって伯爵様はうちのお得意様ですから!」

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