第7話「悪夢」

黒い稲妻が、街を襲う。なかには燃えている家もある。どこか、見たことがあるような街。そして自分はその街に愛着を持っている。そのはずなのに、僕はそこに火を放つ。

赤い炎が押し寄せる。

「嫌だ!」

「きゃあ!」

人々の逃げ惑う声が聞こえる。

「もうやめて!」

「お願いだからやめてくれ!」

「助けて…」

僕だってやめたいよ、こんなの望んでないよ!誰か、誰か止めてよ、!

「ーーっ!」

悪い夢を見た。たぶん、僕が魔王になった夢だ。

「僕は、魔王になんてならない」

布団を握りしめる。

世界の破滅なんて望んでいない。人を痛ぶって楽しいわけがない。

「絶対にならない、絶対にだ…」


朝食の席。

「おはよう、ルイス」

「おはよう」

「おはようございます。伯爵、フェリシア様」

「…父上と呼んでくれてもいいんだよ」

伯爵が寂しそうに仰る。

「き、急に父上、母上とお呼びするのは気が引けますから」

フェリシア様も頬を膨らませている。なんだか申し訳ない。

こんなに豪華な料理は初めてだ。

「ルイスちゃん、顔色が悪くない?ちゃんと眠れてる?」

「す、少し寝付きが悪くなっただけです。枕が変わると寝られないたちなので。慣れれば大丈夫だと思います」

実は悪夢を見ました、なんて言えない。弱みは見せられない。心配は、かけたくない。


食堂から部屋に戻る途中、

「坊ちゃん、嘘はいけません」

「え?」

「昨夜はうなされていたでしょう。少し寝付きが悪い、程度ではありませんよ」

それを聞いてうっとたじろぐ。そんなところまで見ているのか。専属使用人って怖いな。

「…見逃して、くれない?」

「いいえ、駄目です」

「伯爵には、言わないでほしい。心配かけたくないから。お願い」

強く訴えるとルドルフは溜息をつきながらも了承してくれた。

心配をかけたくない、というのは言い訳だ。本当は怖いだけなのだ。伯爵に失望されるのが。

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