第6話「愛」

枕が変わると寝られない、と言うがどうやら僕はそのタイプらしい。いつもより目覚めが悪い。そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえる。

「ど、どうぞ」

「おはようございます、坊ちゃん。お召替えのお手伝いを…」

「あ、ごめんなさい、自分でやってしまった」

実家では自分で着替えていたから癖で着替えてしまった。

「ではせめておおぐしを整えさせていただきます」

「ごめん、なさい…」

髪を整えるといってもどうすればいいのだろう。人にやってもらうのは初めてだ。戸惑っていると鏡の前に座らせられる。

「誰かにやってもらうの、なかなか慣れないな」

それに坊ちゃんとか、呼ばれ慣れていないから変な感じだ。

「私も専属というのは初めてです。それはそうと坊ちゃん、お部屋のご用意ができております。お食事の後はそちらにご移動願います」

えっ、一晩で全部片付けたのか。優秀だな、ここの使用人は。だが、伯爵がここまでする理由がわからない。


食事の後、二階の例の部屋に案内される。

「おお」

物がたくさんあったあの部屋が片付くと広々として見える。あんなにほこりっぽかったのに綺麗に掃除されている。家具は無難にシンプルなデザインの物。だが壁紙とカーテンがないのが気になる。

「壁紙とカーテンは、坊ちゃんのお好きなデザインをお選びいただき、こちらでご用意いたします」

気を遣われているのだとわかる。昔から伯爵は僕の味方をしてくれていたが、どうしてそこまでするのだろう。

「伯爵も君も、なぜ僕なんかにそんなに優しくするの?いるだけでも迷惑だろ」

「それは坊ちゃん、私も旦那様も、そして奥様も、貴方様を愛しているからです」

「愛?」

「そうです。愛しておりますよ、坊ちゃん」

「ふうん」

愛、ね。なんだよそれ。意味がわからない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る