第3話「勧誘」
僕は伯父上に、ほとんど全てを話した。
「まずは、えっと…」
「ゆっくりでいいよ」
僕は毎晩、兄上にお茶を淹れるのが仕事だった。
その日もハーブティーを用意して兄上の部屋へ行った。
ノックをしても返事がない。おかしいと思って部屋に入る。
「あに、う、え」
腹部から出血している兄上と、一人の少女がいた。
「その子ははっきりと、自分は神だと名乗りました。“破壊神シヴァ”だと。彼女が兄を殺したと言いました。そして消えて行った。そこを通りかかった使用人が父に報告したのです」
その使用人も父上も、神が消えた後の現場しか見ていないのだ。僕が殺したと思って当然だろう。
「僕じゃないんです。本当なんです。この目で見たから。信じてもらえないでしょうけど、彼女が、神が兄を刺し殺したんです」
話している間は、不思議と落ち着いていた。
「…信じよう。ルイスがそう言うのだからな」
「信じて、いただけるのですか?」
そんなに簡単に信じられる話ではないはずなのに。
「ああ、信じよう」
「ところでルイス、うちの息子にならないか」
「え?」
「どうせ行くあてもないのだろう、ならうちに来ればいい」
「で、ですが」
それでは色々と問題がある。奥様のフェリシア様が許してくださるかわからない。そもそも、僕のような役立たずがいればこの家に面倒をかけることになる。
「とは言え、口約束では不安だろうから、魔術誓約書(マギーアイト)を書こう」
魔術誓約書(マギーアイト)。焼き消しても契約自体を消すことはできず、どんな契約書よりも拘束力を持つ。
どんどん話が進んでしまう。
「あ、あの、少し、考える時間をいただけますか」
「ああ、もちろんだ。すまないね、気が急いてしまった」
下を向いて考え込む。
伯爵家に僕のような役立たずがいても何もメリットがない。
でも、断ってどうする?住む場所も食べる物もない中で生き延びられるのか?不可能ではないにしても過酷すぎる。僕は臆病で忍耐力もない屑だから、そんな過酷な道は選びたくない。それに、伯父上のご厚意を無下にするわけにもいかない。縋れるものがあるのなら、縋ってしまおう。
「…分かりました。ご厚意に甘えさせていただきます。ですがまず、奥様に確認をとった方がよろしいのでは?」
「それもそうだな。フェリシアに聞いて来るよ。君はここで待っていなさい」
ランバート伯爵が出て行った後の応接室。
「一番大事なことは、結局話せなかったな」
そう言って自嘲する。魔王なるものに任命されてしまった。そんなことを言えば、伯父上にも追い出されるに決まっている。隠したところでいずれわかると言うのに、怖くて言い出せない。そんな臆病な自分が、大嫌いだ。
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