第2話「追放」
「ルイス・アシュトン、本日をもってアシュトン子爵家を追放とする」
「…承りました」
もう何を言っても無駄だ。
「化け物」
「人殺しだ!」
「忌々しい魔王め」
「兄弟を殺すなどあり得ない」
使用人の冷たい視線と飛び交う罵声から逃れるように、ルイスは家を飛び出した。
僕じゃない、僕じゃないのに!
犯人は神だ、などと言う戯言を、誰が信じるだろう。だがそれは紛れもない事実であった。少なくとも、現場にいたルイスにとっては。しかし、大多数の人間は信じない。この世界において、神は天上の存在。地上に姿を現さない故に信仰の対象となり得るのだ。
ふと、立ち止まり考える。
これからどうしよう。
行くあてもない。この身一つで飛び出して来てしまった。
あまり遠くに行くと危ない。領地の北側にはディアナの森がある。魔獣が多く住まう場所だ。あそこには入ってはいけないと、幼い頃から伝えられてきた。
とりあえず南に向かって進む。街の商店街に来た。
すぐ近くに店があるというのに、服も食べ物も買うお金がない。
ああ、お金くらい持ってくればよかった。
今更自分の短絡さを悔やむ。
下を向いて歩いていたので誰かにぶつかってしまった。
「す、すみません」
そのまま目を合わせずに横に避ける。
「ルイス?」
「…伯父上」
名前を呼ばれ顔を上げると、伯父であるランバート伯爵が立っていた。何とも決まりが悪い。
ただならぬ様子に伯父上が察したのか、深刻な、悲しそうな顔をする。
「ルイス、少し話をしよう」
「は、はい」
僕は、伯父上の屋敷に連れてこられた。
「何があったのかは、大体想像がつく。また私の愚弟が何かしたのだろう?」
ランバート伯爵の屋敷。僕は伯父上、伯爵と向かい合っていた。
「その、実はーー追放されてしまいました」
伯父上は左手で顔を押さえる。
「あの馬鹿!」
違う。違わないけど、違う。伯父上はただの弟の暴挙だと思っている。実際、僕の言うことを信じてくれなかったし横暴ではあるのだが、ただ追い出したのではない。
深呼吸をして告げる。
「僕、兄上を殺しました」
伯父上が驚く。
「兄弟殺しです。流石にこれは、貴方でも庇えないでしょう?」
これまで僕が何かされるたび庇ってくれた伯父上だが、今回は大義名分がある。しかも身内を殺すなど最も重い罪だ。僕はやっていないのだが、周囲が認めないならもういっそ、殺人犯として生きてもいい。忌み嫌われて当然だ、僕は魔王なのだから。
「諦めてはいけないよ」
「…え?」
「今の君は、何かを諦めた目をしている」
「…わかりますか」
「私はこれでも騎士だ。自分を諦めたような目は何度も見てきている」
かなわないな、と思った。同時に、この人ならわかってくれるんじゃないか、と。
だから、全てを打ち明けることにした。
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