24 コニダールからの脱出
使節団の最後尾を走っていたアリアたちは、コニダールの城壁の門に到着した。
カレンの手によって、城壁の門はすでに開かれている状態である。
すでに、逃げ出した使節団の大部分の人たちは、城壁の門をくぐり抜けて、コニダールの外にいるようであった。
「お嬢様! 私は、使節団の方々を馬車まで案内します! あとで合流してください!」
「分かりました!」
カレンが城壁の上から叫んだ言葉を聞いたステラは、大声で返事をする。
ステラの返事を聞いたカレンは、次の瞬間、いなくなっていた。
「サラさん、アリアさん! 自力でカレンと合流するしかなさそうです! 大丈夫ですか?」
「大丈夫なワケありませんの! さすがに、キツイですわ!」
「私も、夕方に食べた料理を吐きそうです!」
コニダールの軍施設で時間稼ぎのために戦い、その後、太ったおじさんを背負って走り続けていた二人の体力は、限界であった。
それでも、二人は、必死になって走っている。
三人の後ろでは、ミハイルが凄まじい速度で剣を振るい、追撃をしてきている敵の兵士たちを足止めしていた。
だが、いくらミハイルが強くても、一人では限界があった。
先ほどから、ミハイルと戦わないで、すり抜けていた敵の兵士たちが無防備なアリアとサラを追いかけていた。
その兵士たちは、ステラが防いでいたので、なんとかなっている状況である。
敵の兵士たちも歩兵だけではなく、馬に乗った騎馬兵も多くなっていた。
(さすがに、このままだとマズい気がする!)
アリアは、走りながら後ろを確認する。
後ろには、騎馬兵たちが迫ってきているのが見えた。
誰がどう見ても、太ったおじさんを背負っているアリアとサラは危険な状況である。
そこで、アリアは、起死回生の一手を思いつく。
(そうだ! 騎馬兵の馬を奪えば良いんだ! そうすれば、太ったおじさんを背負う必要もなくなるし、逃げ切れる可能性も高くなるしで、一石二鳥の案の気がする!)
アリアは、すぐにステラに向かって、大声を上げる。
「ステラさん! 騎馬兵の馬を奪いましょう!」
「それは、良い案かもしれませんね!」
ステラはそう言うと、アリアとサラの後ろに回りこみ、攻撃をしてきた騎馬兵を斬り伏せる。
騎馬兵に乗っていた兵士は、反撃できずに地面へと落ちていった。
ステラは、そのまま乗せていた兵士がいなくなった馬に飛び乗る。
「サラさん! おじさんを渡してください!」
「ふぇ? ハッ! 分かりましたの!」
サラは、おじさんを背負って走るのに集中していたため、反応が一瞬遅れたが、馬に乗ったステラにおじさんを渡す。
ステラは、おじさんを受けとると、馬に乗せ、アリアのほうに近づく。
「アリアさん!」
「お願いします!」
アリアは、ステラに向かって、背負っていたおじさんを投げる。
ステラは、おじさんを空中でキャッチすると、馬に乗せた。
すでに、三人は、コニダールの城壁の門をくぐり抜けている状況である。
「サラさん! 私たちも馬を手に入れて、ステラさんを追いましょう!」
「分かりましたの!」
ステラの返事を聞いたアリアは、騎乗している敵の兵士を剣で斬りつけ、馬を奪う。
アリアは、奪った馬の上から走っているサラに向かって、手を伸ばす。
「サラさん!」
「アリア!」
サラは、伸ばされたアリアの手をつかむ。
アリアは、サラを引き上げ、自分の前に乗せ、握っていた手綱を渡す。
「はい、サラさん! あとはお願いします! 私は後ろから追ってくる敵を倒しますので!」
「えっ? もしかして、ワタクシに馬を走らせろってことですの?」
「はい! 私は、馬を走らせることができませんので、お願いします!」
「いや、ワタクシも無理ですの!」
「ええ!? サラさん、できないんですか!? クレアさんが、馬に乗れていたので、当然、できるものだと思っていました!」
「クレア姉様は、自分で練習して覚えましたの!」
「とりあえず、頑張ってください!」
「ああ、もう! どうなっても、知りませんの!」
サラはそう言うと、馬を走らせることに集中する。
アリアはというと、後ろから迫ってくる敵の騎馬兵をなんとか防いでいた。
サラは、前方を走っているステラに追いつこうと、馬の手綱を握り、今まで見てきた使用人たちの馬を操る姿を思い出しながら、馬を走らせる。
だが、そんなもので馬を走らせることはできず、どんどんとステラから離れていってしまう。
「ハハ……もう、どうにもなりませんの」
サラは馬を操ることができず、よく分からない方向に進んでいるため、半ば諦めた感じになってしまう。
しかも、敵の騎馬兵の多くが、ステラのほうではなく、サラとアリアのほうに向かって来ていた。
「ちょ、サラさん! 諦めないでください!」
アリアは、襲いかかってくる騎馬兵たちを倒しながら、叫ぶ。
そんな状況で、アリアは、遠くにいるステラのほうを向く。
ステラは、なにかを叫んでいるようであったが、暴走する馬のせいで、遠く離れていたため、聞こえなかった。
そのまま、どんどんとステラとの距離は広がってしまう。
ついに、アリアとサラからは、ステラの姿が見えなくなってしまった。
二人を乗せた馬は、気の向くままに走っているようである。
そんな状態がしばらく続くと、先ほどまで、魂が抜けて呆けていたサラが口を開く。
「……この機会に謝りたいことがありますの」
「なんですか!? 謝る暇があるなら、サラさんも戦ってください!」
アリアは、飛んでくる矢を叩き落とすと同時に騎馬兵たちを倒しているため、忙しかった。
「……実は、お腹が空いたとき、たまに、女子寮の部屋に隠されていたアリアのクッキーを食べていましたの」
「あああああ! なんか、クッキーが減っている気がするなと思ったら、犯人はサラさんだったんですか! でも、大丈夫です! 私も、サラさんに謝らないといけないことがあるので!」
「なんですの?」
さすがに、なにもしないのはマズいと思ったのか、サラも剣を抜いて、周りにいる騎馬兵たちを攻撃し始めていた。
「実は、お風呂場にサラさんと一緒に行ったとき、たまに、サラさんのシャンプーを使っていました!」
「ちょっと! あのシャンプー高いんですのよ!」
「良いじゃないですか! これで、おあいこですね!」
「いや、アリアのクッキーより、ワタクシのシャンプーのほうが圧倒的に高いですの!」
アリアのクッキーは、20枚入りの一箱で1000ゴールドほどである。
対して、サラのシャンプーは、一個を買うのに、2500ゴールドもするものであった。
「やっぱり、そうなんですね! 道理で、良い匂いがすると思いました!」
「そうそう、良い匂いがって、そんなんじゃはぐらかされませんの! アリアが使ったシャンプーの代わりに、クッキー20枚を要求しますわ!」
「え~、嫌です!」
アリアは、ぶんすか怒っているサラに向かって、そう言った。
その後、二人は、言い合いをしながら、飛んでくる矢と騎馬兵たちの攻撃を防いでいた。
だが、どんどんと敵の騎馬兵を増えてきており、中には、馬に乗ったまま魔法を使う魔法騎馬兵もいた。
矢も厄介であったが、炎の魔法攻撃は、それ以上に厄介であった。
剣で斬り払えば、魔法攻撃を防げるには、防げるが、一発でも当たってしまうと、そこから一気に燃え広がるので、神経を尖らせながら、対処していた。
アリアは、戦場で嫌というほど炎の魔法攻撃を見ていたため、落ちついて対処している。
だが、サラはというと、
「うわああ! 危ないですの! 燃えますの! ひいいいい!」
必死で剣を振って、炎の魔法攻撃を防いでいた。
初めて見る炎の魔法攻撃に、サラはビビってしまっているようである。
このような状況で、二人は、暴走する馬に乗りながら、必死に戦っていた。
周囲には、敵の騎馬兵たちしかいないようである。
――20分後。
二人は、敵の騎馬兵たちに追われながら、なんとか生き残っていた。
だが、馬を攻撃されないようにしていたため、敵の攻撃がさばききれず、何度か攻撃を受けてしまっていた。
かろうじて、致命傷は避けているが、二人の着ている服は、血で赤く染まっていた。
誰がどう見ても、あと少しで二人は倒れそうであった。
「はぁ……なんか、こんなことばかりだな~、私の人生」
「マズいですの! アリアが良くないことになっていますわ! アリア! 諦めないでくださいまし!」
「とはいっても、厳しくないですか、サラさん?」
「それはそうですけど……諦めたら終わりですわ! 生き残るためには、戦うしかありませんの!」
サラは、諦めかけているアリアを励ましながら、戦う。
先ほど、魂が抜けて呆けていたサラの姿は、すでになかった。
よく分からないが、どうやら、サラは闘志がみなぎっているようである。
対して、アリアは、敵の騎馬兵たちと戦って倒してはいるが、先ほどの元気はないようであった。
そうして、サラがアリアを励ましながら、戦っていると、後方から、悲鳴が聞こえてきた。
「なんですの?」
サラは、横にいた敵の騎馬兵を倒すと、後ろを向く。
なんと、そこには、同じ馬に乗ったカレンとステラがいた。
どうやら、ステラが馬を走らせることに集中し、カレンが敵の騎馬兵たちを血祭りにしているようである。
「アリア、アリア! あそこ、あそこ!」
「なんですか?」
意気消沈しているアリアは、サラの指差した方向を見る。
ステラとカレンの姿を確認したアリアは、先ほどまでとは違い、笑顔になっていた。
「サラさ~ん、アリアさ~ん! 助けに来ましたよ!」
サラとアリアを確認したステラは、大きな声で二人に聞こえるように叫ぶ。
二人は、空いた手をブンブンと横に振って、喜びの声を上げる。
数秒後、ステラとカレンは、合流することができた。
ステラは、馬を操り、サラとアリアを乗せた馬と並走している状態にする。
すると、カレンが、サラとアリアを乗せた馬に飛び移った。
代わりに、サラの服の襟をつかんだカレンは、ステラが乗っている馬のほうにサラを投げる。
「あわわわ!」
いきなり投げられたサラは、剣を持ちながら、空中に浮いていた。
そんなサラの腕を、ステラは片手でつかむと、馬のほうに引き寄せる。
サラは、死に物狂いで、ステラが乗った馬につかまると、いそいそとよじ登り、馬の背に乗ることに成功していた。
馬の背になんとか乗ることができたサラは、ステラのほうを向く。
「いきなり、投げるなんて、ひどいですの!」
「サラ様、申し訳ございません。ですが、今は、そのようなことを言っている場合ではないのでは?」
「ハッ! そうでしたわ! 敵がいますの!」
カレンに文句を言おうと思っていたサラは、気を取り直すと、迫ってくる敵の騎馬兵を追い払うため、剣をブンブンと振り回す。
「とりあえず、このまま、アミーラ王国まで戻りますよ! それで、良いですね?」
「分かりましたの!」
「はい、カレンさん!」
「それで良いです!」
カレンの言葉に、三人は元気良く返事をする。
ステラとカレンは、馬を走らせながら、戦ってくれているため、先ほどよりも、状況は好転していた。
だが、依然として、敵の騎馬兵からの攻撃は激しく、矢と炎の魔法が飛んできている状況である。
そんな状況で、四人が逃げていると、炎の魔法攻撃がサラの巻き髪の片方をかすめた。
すると、すぐにサラの巻き髪が燃え始める。
「あああああ! 私の巻き髪が!」
サラはチャームポイントの巻き髪に火がついて、パニックになっていた。
そんなサラを見たカレンが馬を近づけ、サラの巻き髪の根元に向かって、剣を振るう。
結果、ザクという音とともに、サラの巻き髪が根元から、地面に落ちていく。
おかげで、サラが火だるまになることは避けられた。
「……カレンさん、ありがとうですの」
「いえいえ、お礼には及びません」
カレンはそう言うと、馬を操って、少し離れた場所に移動する。
サラは、地面に落ちて、燃えてしまった巻き髪を名残惜しそうに見ていた。
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