23 救出
ステラとアリアとサラは剣を持って走っていた。
軍施設の入口に立っていた二人の兵士は、いきなり現れた三人に驚いているようである。
そんな兵士に、ステラとアリアが襲いかかった。
二人の兵士は、慌てて、持っていた槍で、ステラとアリアを突こうとする。
だが、苦し紛れの攻撃に当たるようなステラとアリアではなかった。
ステラは、槍の攻撃を難なく避けると、そのまま、兵士の首を斬り飛ばす。
アリアはというと、突き出された槍の横をすり抜け、兵士の足を斬りつける。
「ぐわぁ!」
アリアに足を斬りつけられた兵士は、体勢を崩してしまう。
そんな兵士の首に向かって、アリアは一気に剣を振り抜く。
その瞬間、兵士の胴体と体は、分かれてしまっていた。
「この剣、斬れ味が良いですね! スパッと斬れましたよ!」
「まぁ、ラルベルさんの武器屋に置いてある剣は、品質が良い物が多いですからね。私も、今回使っている剣は、ラルベルさんの武器屋で買った物です」
アリアは、剣を振り、剣についた血を地面に飛ばす。
ステラの剣は、血すらついていないようである。
二人は、兵士を倒しても、特になにも思ってないようであった。
「あわわわ!」
対して、サラは、アリアとステラの横に転がっている兵士の死体を見て、震えてしまう。
そんなサラに気がついたアリアとステラが、サラに近づく。
「サラさん、大丈夫です! すぐに慣れます!」
「嫌でも慣れますよ。というか、震えているヒマはないと思いますが」
ステラがそう言うと、ジャンジャンという銅鑼の音が鳴り響き始めた。
どうやら、軍施設の内部にある物見の櫓から、戦闘の様子が見えていたようだ。
銅鑼の音とともに、怒鳴り声があちらこちらから聞こえ、軍施設が騒がしくなる。
しばらくすると、武器を持った大勢の兵士が軍施設の入口に集まってきた。
「ハハハ、これは楽しそうですね! サラさん、アリアさん、頑張りましょう!」
ステラはテンションが上がっているのか、笑顔になりながら、大勢の兵士に向かって突っこんでいく。
「もう、やるしかありませんの! うわあああですわ!」
覚悟が決まったのか、サラも雄叫びを上げながら、走っていった。
「はぁ……終わったとき、私、生きているかな……」
アリアはそう言って、ため息をつくと、剣を握りしめ、サラとステラの後を追う。
こうして、三人は、カレンが人質を救出している間、時間稼ぎをすることになった。
――30分後。
「ああ! もう、ヤバいですの! やられそうですの!」
サラは、大声を上げながら、剣をブンブンと振るっている。
どうやら、カレンたちとの日々の訓練の成果が出ているのか、敵の兵士に遅れをとってはいなかった。
だが、敵の兵士の数が多すぎるため、包囲されないようにするので精一杯である。
ステラはというと、
「もう、最高ですね! どんどん敵が来ますよ!」
なにが楽しいのかよく分からないが、テンションが上がっているようである。
群がっている敵を、バサバサとステラは斬り捨てていた。
そのあまりの凄まじさに、敵の多くは、ステラと戦うのを躊躇しているようである。
圧倒的に有利な状況でも、死ぬ可能性がある相手とは戦いたくないようであった。
そのため、敵の兵士は、まだ、戦えそうなアリアとサラに向かっていき、攻撃しようと考えるようになっていた。
結果、アリアとサラの周囲に敵の兵士が集中する事態になってしまった。
「サラさん! 頑張りましょう! きっと、あと少しでカレンさんたちが来るハズです!」
サラと背中合わせになりながら、アリアは励ましの言葉をかける。
「そうだと良いですわ! というか、もう剣を振りすぎて、腕が動かなくなってきましたの!」
サラはそんなことを言いながら、近づいてくる敵の兵士を倒していた。
(実際、私も腕が少し、しびれてきたな。こんなに、ずっと連続で剣を振り続けるのは、初めてだ)
アリアは、戦場で戦っていたため、長時間にわたって戦うことには慣れていた。
だが、戦場では、敵、味方ともに入り乱れて戦っていたため、アリアは隙をみて、休むようにしていた。
そのため、今回のように、剣を振り続けるのは、アリアにとって、初めての経験であった。
そんな状態で、サラとアリアは必死に戦い続けている。
数分後、目に見えて、アリアとサラの動きが悪くなってきた。
実力的には、アリアとサラが勝っているが、とうとう、腕のしびれがシャレにならなくなっていた。
(これは、ステラさんに助けを求めないとマズいな!)
アリアは、しびれた腕でなんとか戦いながら、ステラのいるほうを向く。
「ステラさん! こっちに来れますか!?」
「行きたいのは、山々ですけど、こっちも敵が多くて難しそうです!」
アリアの言葉が聞こえたのか、ステラが大きな声で返事をする。
(……マジか)
アリアは、心の中で落胆をした。
このままいけば、腕が動かなくなり、敵の兵士に倒されてしまうのは必然であった。
「……サラさん。最後まで戦い抜きましょう」
「もちろんですの! アリア! まだ、諦めないでくださいまし!」
アリアの声に諦めが感じられたのか、サラは戦いながら、励ましの声をかける。
絶望的な雰囲気の中、アリアとサラは戦い続けた。
そのような状況で、突如、軍施設の奥が騒がしくなり始める。
怒号と戦闘音がどんどんと大きく聞こえてきた。
それに伴って、三人を倒そうとしていた敵の兵士たちが、次々と反転していく。
周囲の敵の兵士が少なくなったため、ステラは、チャンスだと思ったのか、一気に敵の兵士たちを薙ぎ払い、アリアとサラの下に来ることができた。
「お待たせしました、サラさん、アリアさん! どうやら、カレンは、人質救出に成功したみたいですね! あと、ひと踏ん張りですよ!」
「助かりましたの、ステラ!」
「はい! 頑張ります!」
敵の兵士が減ったこととステラが来てくれたことによって、アリアとサラは、少し休みながら戦うことができるようになっていた。
諦めかけていたアリアも、元気を取り戻したようである。
また、腕のしびれが引いてきたことによって、アリアとサラは、次第に動きが良くなっている状況であった。
とはいえ、厳しい状況であることには変わりなかった。
三人が、そのまま、軍施設の入口で戦っていると、カレンを先頭にした一団が近づいてくる。
「お嬢様方! お待たせしました!」
「カレン、遅いですよ!」
「やっと、来ましたの!」
「カレンさ~ん!」
三人は、カレンの声が聞こえると、大きな声で叫んだ。
よくよく見ると、カレンは両肩に、太ったおじさんを担いでいるようである。
「それでは、私は、城壁の門を開けてきますので、この人たちをお願いします」
三人と合流したカレンは、地面に太ったおじさん二人を投げ捨てると、凄まじい速度で、コニダールの城壁の門へと走っていった。
二人の太ったおじさんは、意識がないようである。
三人は、意識のない太ったおじさん二人を見下ろしていた。
「……ステラ、この太ったおじさんは、健闘むなしく、亡くなったってことにして、ここに置いていきませんか?」
「ステラさん、私もそれで良いと思います」
「カレンには、道中でやられてしまったと伝えておきますね」
三人の意見は一致したようである。
おじさん二人を地面に置いたまま、三人は、コニダールの城壁の門を目指して、走ろうとする。
「コラコラ! 連れていってあげなさい! そんなんでも、将官は将官だからな!」
三人が声のしたほうに振り向くと、そこには、剣を持ったマットがいた。
「父上! ご無事でしたの!?」
「マットさん!」
サラとアリアは、すぐにマットに近づく。
マットの顔を見たサラは、安心した顔になっていた。
「感動の再会は、アミーラ王国に帰った後でな! とりあえず、その二人を頼んだぞ! さぁ、王子! 急ぎましょう!」
「分かった!」
金髪が特徴的な若い青年であるクルト・アミーラは、返事をすると、マットに連れられて、走っていく。その周囲には、近衛騎士団と思わしき人たちがいた。
軍施設の奥からは、使節団の人と思われる数人が、急いで走ってくるのが見えた。
その後ろを大勢の兵士が追いかけている状態である。
「とりあえず、もう時間がありません! ここは、ジャンケンで負けた二人が、このおじさんを背負っていくことにしましょう! いきますよ! ジャンケン、ポン!」
アリアは、チョキを出しながら、結果を確認した。
サラはチョキであり、ステラがグーであった。
「ああああ! 嫌ですのおお! 絶対、重いですわ!」
サラは、頭を抱えながら、叫んでいる。
(いや、普通に私も嫌なんだけど)
アリアは、サラの様子を見ながら、そう思った。
「それでは、サラさん、アリアさん。おじさん二人を頼みましたよ」
ステラはそう言うと、使節団の人たちを逃がすために戦っている近衛騎士団の加勢にいった。
「サラさん、迷っている暇はありません! おじさんを背負って、逃げましょう!」
アリアは、剣を鞘に納めて、地面に転がっているおじさんの一人を背負うと、走りだした。
(うわ! なんか、変な匂いがする! しかも、重いし! 軍人なら、もっと体を絞ってほしい!)
アリアは思わず、おじさんを投げ捨てたい衝動に駆られたが、グッと我慢して走る。
「ああああああああ! もう、最悪ですのおおおお!」
サラがイラついた声で叫びながら、おじさんを背負って走っている。
どうやら、アリアと同じく、気分が良いものではないようであった。
二人は逃げている使節団の人たちに混じって、頑張って走った。
だが、太ったおじさんを背負っているため、ジリジリと遅れてしまう。
コニダールの城壁の門に近づく頃には、逃げている使節団の集団の中で、最後尾になってしまった。
「アリア! もう、いよいよヤバいですの! このおじさんを捨てないと、私たちまでやられてしまいますわ!」
「そうですね! 非常に残念ですが、捨てましょう!」
サラの言葉を聞いたアリアは、言葉とは裏腹に嬉しそうな声を上げながら、おじさんを捨てようとする。
そんなサラとアリアに、集団の最後尾で戦っているステラが声をかける。
「頑張ってください、サラさん、アリアさん」
ステラが近くにいるのを確認したサラは、振り返りながら叫ぶ。
「ステラ! 良いところに来てくださいましたわ! 背負うのを変わってほしいですの!」
「待ってください、サラさん! 代わってもらうのは、私です! これだけは、譲れません!」
「ワタクシだって、譲れませんの!」
「……そもそも、誰も、代わるなんて言ってないんですけど」
ステラがつぶやいた言葉は、二人の耳まで届いてないようである。
それほど、サラとアリアにとって、おじさんを背負って走るのは苦痛であった。
おじさんを背負うくらいなら、戦っていたほうがマシなようである。
「まったく、君たちのような可憐な女性が言い合いをしている姿は見るに耐えないね!」
サラとアリアが走りながら、言い合いをしていると、最後尾で戦っていたミハイルが近づいてきた。
ミハイルは、白い髪を後ろで結んだ若い男性である。
「それじゃ、あなたが、ワタクシの代わりに、おじさんを背負ってほしいんですの!」
「あ! それは、良い案ですね! お願いします!」
サラとアリアは、走りながら、ミハイルにおじさんを渡そうとする。
ミハイルは、それをヒョイと避けると、二人から少し離れた。
「僕が、そんな太ったおじさんを背負うワケがないだろう! それでは、君たちの健闘を祈る!」
ミハイルはそう言うと、追いかけてくる敵の兵士数人を、持っている剣で、薙ぎ払う。
その威力は凄まじく、斬りつけられた敵の兵士たちは、矢のような速度で飛んでいき、後ろを走っている兵士を巻きこんで、見えなくなってしまった。
サラとアリアは、ミハイルがあまりに強かったので、後ろを向きながら、驚いていた。
「さすがです、ミハイルさん。4大貴族であるホワイト家の当主といえば、ナルシストで有名ですが、近衛騎士団長に任命されるだけの腕はありますね」
「……なんだか、言葉に棘を感じるよ。まぁ、周りにいる人間が、美しい僕に嫉妬しまうのは、当然のことだから、しょうがないことだ! そんな美しい僕の活躍を見ていてくれよ!」
ステラの言葉を聞いたミハイルはそう言うと、追いかけてくる敵の兵士たちを追い払い始める。
そうこうしているうちに、コニダールの城壁の門までアリアたちは到着していた。
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