18 定期試験

 ――6月になり、定期試験の時期になった。


 レイル士官学校では、6月と12月に定期試験があり、卒業する3月には卒業試験があった。

 6月の定期試験は、大きく分けて、筆記試験と実技試験の二つに分かれている。

 この定期試験は、成績に大きく関係するため、レイル士官学校の入校生たちは気合いを入れて、準備していた。


 もちろん、後方部隊を希望しているアリアは、少しでも良い成績をとろうと必死になって勉強をしていた。


「はぁ……分量が多すぎる」


 アリアは、女子寮の部屋で勉強をしながら、愚痴を言う。

 レイル士官学校の筆記試験は、覚えなければいけないことが多く、かなりの時間、勉強する必要があった。


 そのため、アリアとサラとステラは、普段の講義と訓練が終わった後、夜中まで勉強をし続ける生活を送っていた。この時期は、消灯時間を自由に自分たちで決めることができた。

 たまに、実技試験のための訓練をしていたが、ほとんどの時間を勉強に費やしていた。


「たしかに、多いですわね……」


 ベッドの近くにある自分のイスに座りながら、サラは勉強をしている。

 ステラも、静かに勉強をしているようであった。


「まぁ、あと二日頑張れば、とりあえず筆記試験も終わるので、我慢ですね」


 ステラは、勉強で疲れ切っているアリアとサラを励ます。

 二人は、はぁとため息をつくと、机に向かって、勉強を続ける。


 

 二日後、我慢の日々も終わり、筆記試験を迎えることになった。

 4組の入校生たちは、教室の自分のイスに座り、静かにしている。

 机の上には、すでに、問題用紙が置かれていた。


「よし! 今から、筆記試験を始める! 知ってのとおり、問題数が多いから、時間切れにならないように気をつけろよ! それでは、始め!」


 ロバートの声を合図に、4組の入校生たちは、筆記試験を始める。


(とりあえず、問題を確認するか)


 アリアは、問題用紙をパラパラとめくり、内容を確認した。

 日々の勉強のおかげか、ほとんどの問題は、解けそうである。


(よし! 時間切れにならないように、頑張るぞ!)


 アリアは、そんなことを思いながら、次々と問題を解いていく。

 4組の教室には、入校生たちが黙々と鉛筆を動かす音だけが響いている。

 その後、アリアは午前中の試験を無事に終えることができた。


 筆記試験は、午後にもあり、アリアはそれも難なくこなすと、夕食を食べるために食堂へ向かう。


「はぁ……やっと、筆記試験が終わりましたね」


 アリアは、食堂のイスに座りながら、夕食を食べている。

 机を挟んだ向かい側には、サラとステラがいた。

 ステラはいつもと変わらない表情で夕食を食べていたが、サラはアリアと同様に疲れ切った表情をしている。


「本当にそうですの……もう、今すぐ、寝たいですわ」


「でも、明日からは実技試験がありますよ? 今日、体を動かしておかないと、厳しい気がしますが?」


「そうですわよね……はぁ、夕食を食べた後、訓練するしかありませんわ」


「私も付き合うので、頑張りましょう。今日は、カレンにもほどほどにするように言っておきますね」


「ありがとうですの。アリアも、訓練をしますわよね?」


「はい。体を動かしておかないと、ダメな気がするので」


「それでは、夕食を食べた後、少し休んで、訓練場に行きましょう」


「分かりましたの」


「分かりました」


 ステラの言葉に、サラとアリアは返事をする。

 その後、三人は夕食を食べ終わると、女子寮の自分たちの部屋に戻った。

 部屋に戻ると、すでに、カレンが訓練をするための準備をして、待っていた。


 カレンは、どういう手段を使ったのかは分からないが、レイル士官学校を自由に出入りできるようである。しかも、メイド服を着ているワケではなく、いつも大尉の階級だと分かる軍服を着ていた。


 アリアとサラは、カレンのことについて、ステラに質問したりしていたが、はぐらかされるだけであった。本人に、質問したこともあるが、『秘密です』と言われ、教えてもらえなかった。


「カレン、準備をしてもらって悪いのだけど、少し休ませてくれませんか?」


 部屋に入って、開口一番、ステラはカレンに向かってそう言った。


「承知しました。それでは、私はいつもの場所で待っています」


 カレンはそう言うと、三人のために準備した木剣を持って、部屋を出ていく。

 どうやら、先に訓練場へ向かったようである。

 三人は、女子寮の部屋にある自分のイスに座ると、休憩をし始めた。


(あ~、もう、ベッドの上に横になって、寝たいな)


 アリアはそんなことを思いながら、休憩をしていた。

 サラはというと、連日の勉強によって疲れているのか、イスに座ったまま、頭を上下させている。

 半分、寝ているような状態であった。


 ステラは、机の上で本を広げて、読書をしているようである。

 読書をするときは、いつもお気に入りのブックカバーをつけているため、どのような本を読んでいるかは分からなかった。






 ――30分後。


 短い時間ではあるが、休憩を終えた三人は、訓練場へ向かう。


「ふわぁあ……眠いですの」


 サラは、ううんと背伸びをしながら、歩いている。

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 アリアも眠かったので、目をこすりながら、転ばないように歩いている。


「サラさん、とりあえず、訓練が終わったら、お風呂で汗を流して、さっさと寝ましょう」


「それが良いですわね」


 アリアの言葉にサラは同意すると、また、あくびをした。


「私も疲れたので、そうします」


 ステラは、アリアの横を歩きながら、そう言った。

 どうやら、表情には出ていないが、ステラも疲れているようである。

 数分後、三人は訓練場に到着した。


 明日、実技試験があるためか、訓練場では多くの入校生たちが自主訓練をしているようである。

 訓練場は、松明があるため、昼間よりは暗かったが、訓練をするには問題がない明るさであった。

 訓練場に入った三人は、訓練場の端の目立たない場所で、鉄製の剣を素振りしているカレンに近づく。


「お待ちしていました。それでは、訓練を始めましょうか」


 三人に気づいたのか、カレンは素振りをやめる。

 それなりの時間、素振りをしていたハズだが、カレンの顔には汗が流れていない。


「あ、そうそう。今日は、実技試験の前だから、軽めでお願いしますよ、カレン」


「承知しました、お嬢様」


 カレンはそう言うと、鉄製の剣を地面に置き、代わりに準備してた木剣を四本持つ。

 三人は、カレンから木剣を一つずつ受け取ると、訓練を開始した。

 アリアの相手は、ステラである。


「ふう! はああ!」


 アリアは、気合いの入った声を出しながら、ステラに斬りかかった。

 ステラは、そんなアリアの剣を受け止める。

 パンという木剣が打ちつけ合う音が響く。


「今度はこちらから、いきますね」


 ステラはそう言うと、アリアの剣を弾き、斬りかかる。

 最近、ステラの剣に慣れてきたアリアは、ステラの攻撃を受け止めることができた。


「やっぱり、日頃から訓練をしていないと、どんどんと剣の腕が落ちますね」


「そうですね。最近、あまり訓練をできていませんでしたから、しょうがないです」


 ステラの言葉に、アリアは剣で攻撃を受け止めながら、同意する。

 その後、二人はいつもの感覚を取り戻せるように、お互いに剣を振るっていた。

 そんなとき、突如、少し離れた場所でカレンと訓練していた、サラの悲鳴が聞こえた。


「うわあああですの!」


 カレンに剣で吹き飛ばされたのか、サラが地面をゴロゴロと転がっている。

 もう見慣れた光景であったので、アリアとサラはなにも思わなかった。

 だが、サラは違うようである。


「カレンさん! もう少し、手加減をしてくださいまし!」


 起き上がったサラは大きな声で、カレンに向かって、そう言った。


「……? これでも、いつもより、相当、手加減していますが? 最近、訓練をしていないせいで、サラ様の剣の腕が落ちているのでしょう。さぁ、どんどんと剣を振っていきましょう」


 カレンはそう言うと、サラに向かって斬りかかる。

 サラは、焦りながら、剣を構え、必死の形相でカレンの攻撃をさばいていた。


「ああ! もう、これじゃ、いつもの訓練と変わりませんの! こうなったら、全力でやってやりますわ!」


 サラは、カレンの連続攻撃を、なんとかさばきながら、大きな声を上げている。


「なんだか、サラさん、大変そうですね?」


「そうですね。まぁ、カレンなりに手加減はしてくれていると思いますが、サラさんにとっては、全然、手加減になってないかもしれませんね。とりあえず、こちらはこちらで訓練をしましょう」


「はい、ステラさん」


 アリアは、ステラの言葉に返事をすると、ふたたび、剣を構える。

 結局、四人の訓練は、21時まで続いた。

 そのため、サラとアリアは、クタクタになってしまった。


 訓練が終わり女子寮に戻った三人は、お風呂場で汗を流し、夜の点呼に出た後、すぐに眠った。






 ――次の日の朝。


 レイル士官学校の入校生たちは、実技試験を受けるために、訓練場に集まっていた。

 魔法部隊の士官を目指す5組と6組の入校生たちは、屋内訓練場ではなく、屋外訓練場に集まっているようである。


 屋内で魔法を使った場合、建物に損害が出る可能性が高いため、5組と6組は屋外訓練場で実技試験を受けるようであった。


 1組から4組の入校生たちは、木剣を振り回すだけなので、屋内訓練場に集まっている。

 実技試験は、組を担当する教官と一対一で試合を行い、どれだけ戦えたかで点数が決まることになっていた。


「よし! 今から、実技試験を行う! 名前を呼ばれた者は、木剣を持って、俺と試合をしろ! 分かったか?」


「はい!」


 訓練場で整列していた4組の入校生たちは、ロバートに向かって、大きな声で返事をする。

 その後、ロバートが、4組の入校生たちの名前を呼び、実技試験が始まった。

 ロバートが試合をしている間、試合をしていない4組の入校生たちは、屋内訓練場の壁のほうに整列をして、座ることになっている。


 その際、ロバートが4組の入校生と試合をしている様子を観戦することができた。


「どうした! お前の実力はそんなものか?」


 ロバートは大きな声を上げながら、剣で連続攻撃をしていた。

 試合をしている入校生はというと、ロバートの攻撃を防ぐので、精一杯のようである。

 必死な形相で、耐え続けていた。


「そんなんじゃ、戦場で死ぬぞ!」


 ロバートはそう言うと、試合をしている入校生の木剣を弾き飛ばし、お腹に向かって、蹴りを入れた。

 ゴンという鈍い音が響き、それだけで威力が高いことが分かる一撃である。

 その蹴りによって、試合をしていた入校生は戦闘不能になってしまい、近くにいた教官の手によって、担架で運ばれていった。


 そのような調子で、ロバートはどんどんと4組の入校生たちを戦闘不能にしていく。

 数十分後には、訓練場に残っている4組の入校生は、アリアとサラとステラだけになっていた。

 他の4組の入校生たちは、全員、ロバートの手によって、戦闘不能にされ、担架で運ばれていった。


「はぁ……あとは、お前らだけか」


 善戦をしたエドワードが戦闘不能にされ、担架で運ばれていった後、ロバートは三人を見ながら、そう言った。

 ロバートは、露骨に面倒そうな顔である。

 どうやら、三人と試合するのが、面倒なようであった。


「いや、試合をしても良いんだけどよ。お前らが知ってるかどうかは分からないが、俺も、よく訓練場で自主訓練をしてるんだ。だから、いつも訓練場で訓練しているお前らの実力は、大体、分かっているんだよな。まぁ、なにが言いたいかというと、お前らと試合するんだったら、木剣じゃなく、刃引きされた鉄製の剣を使って、ある程度、本気を出さないといけないから、俺にとっては、面倒なんだよな」


 ロバートは、右手で木剣を回転させながら、左手で頭をかいている。

 本当に、三人と戦うのは面倒そうであった。


「だから、お前らの実技試験の点数は満点にしておくから、試合をしなくても良いか? まぁ、お前らがどうしても試合をしたいってなら、試合をしても良いけどな」


「はい! それで、お願いします!」


 三人は同時に大きな声を上げる。

 こうして、定期試験が終了した。


(なんか、分からないけど、ラッキーだな)


 アリアはそんなことを思いながら、サラとステラと一緒に昼食を食べにいく。

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