17 偵察訓練

 ――次の日の朝。


「よし! お前ら、集まったか! 今日の訓練は、偵察訓練だ! 三人一組を作り、シルヴァ訓練場を教官に見つからないように進んで、目標となっている場所の状況を確認してこい! 確認が終わったら、ここに戻ってきて、俺に報告しろ! 期限は午前中までだ! 分かったか!」


「はい!」


 一晩経過したことによって、ある程度、回復した4組の入校生たちは、大きな声で返事をする。

 ロバートも、昨日の夜とは違い、元気があった。

 アリアが周囲を確認すると、他の組も、この訓練を行うようである。


 こうして、アリアとサラとステラは、シルヴァ訓練場で偵察訓練を行うことになった。

 偵察訓練は、シルヴァ訓練場を巡回している教官たちに見つかってはならなかった。

 実際の戦場であれば、見つかった瞬間に、殺されるか捕まるからである。


 そのため、シルヴァ訓練場に生えている木々に隠れながら、目標に向かう必要があった。


 三人は、地図で目標の場所を確認すると、木々に隠れながら、シルヴァ訓練場を進み始める。


「なかなか、進めませんの……」


「そうですね。教官たちが歩き回っているせいで、静かに移動しないと、すぐにバレそうです」


「サラさん、アリアさん。ここは、慎重に行きましょう」


 三人は、木々に隠れながら、少し離れた場所の様子を伺っている。

 そこでは、教官たちが巡回をしているので、進むのは難しそうであった。

 そんな状況で、三人が進めないでいると、いきなり教官たちが動きだす。


(様子を伺っているのが、バレたか!?)


 アリアは、そんなことを思いながら、教官たちの様子を確認する。


「アリア、ステラ! 逃げましょうですわ!」


 サラは焦っているのか、小声でそう言うと、急いで、逃げようとした。

 だが、ステラがサラの手をつかみ、強引に逃げないようにする。


「落ちついてください、サラさん。私たちはバレていませんよ」


「本当ですの!?」


 サラは驚きながら、ステラの指し示したほうを確認した。

 そこでは、教官たちが、どこかの組の入校生たちを追いかけているようであった。

 その後、教官たちが怒号を上げながら、どこかへと行ってしまう。


「どうやら、私たちが見つかったワケではないようですね! 良かったです!」


 アリアは、安心すると、サラとステラのほうを向く。

 ステラはいつもと変わらない表情であったが、サラはアリアと同様に安心したようである。


「そうですの! まったく、焦りましたわ!」


「どこかの組の入校生を追っていったみたいですね」


 サラとステラは、アリアにそう言うと、動き出す準備を始めた。

 アリアも、動き出す準備を始める。


「教官たちがいないうちに、移動してしまいましょう!」


「分かりましたの!」


「そうですね」


 三人は、小声でそう言うと、静かに移動し始めた。






 ――三人が偵察訓練を開始してから、2時間が経過した。


 その間、三人は、なんとか見つからずに進むことができていた。

 道中、教官に見つかった入校生たちが捕まり、どこかへ連れていかれるのを何度も見かけた。


 そんな状況で、現在、三人は、目標の近くにいた。

 さすがに、目標周辺は、教官たちの数が多く、三人は進めずにいた。


「これ以上進むのは、無理そうですわ……どうしますの?」


 地面に伏せた状態であるサラは、横にいるアリアのほう顔を向ける。

 周囲に木々があるとはいえ、立った姿勢でいれば、すぐに見つかるような状況であった。

 そのため、三人は、教官にバレないように茂みの中で伏せている。


「もう少し近づきたいですけどね。でも、捕まってしまっては、元も子もないので、ここから見える情報だけでも、報告しますか」


「私もアリアさんの意見に賛成です。この状況で、目標にさらに近づくのは、自殺行為だと思いますね」


「分かりましたの。それじゃ、戻りましょうですわ」


 アリアの案に、ステラとサラは賛成をした。

 三人は、そのままの体勢でゆっくりと茂みの中を後退し始める。


 そのとき、突如、目標の周辺にいた教官たちが騒ぎ始めた。

 アリアは、騒ぎになったほうに顔を向ける。

 すると、エドワードの組が教官たちと戦っている姿が見えた。


 どうやら、エドワードの組は、教官たちに見つかり、逃げるのを諦めて戦うことにしたようである。


「……なんか、教官たちがエドワードさんの組のほうに行きましたね。今なら、なんとか目標に近づけそうですよ?」


 アリアは、伏せたまま、すぐ後ろにいるサラとステラに小声で伝えた。

 サラとステラは、伏せたまま、アリアの近くに来ると、騒ぎになっているほうを確認する。


「たしかに、アリアの言うとおりですわね! せっかくだから、行きましょうですわ!」


「エドワードさんが勝手に囮になってくれましたね。今のうちに、さっさと目標に近づいてしまいましょう」


 こうして、三人は、教官たちがエドワードの組に気をとられている間に、目標に近づくことができた。

 その後、目標とされる場所の状況を確認すると、すぐにロバートの下へと戻っていった。






 ――2時間後。


 三人は、ロバートの下へと無事に到着していた。

 途中、何度か、教官に見つかりそうになったが、なんとか、見つからずに戻ることができた。

 三人は、ロバートに目標となっていた場所の状況を報告する。


「見つからずに、無事に偵察できたようだな! お前たちには、そのまま昼食を受けとって、自分の天幕で食べることを許可する!」


「ありがとうございます!」


 三人は、大きな声で返事をする。

 その後、三人は、昼食を受けとり、自分たちの天幕に戻っていった。

 アリアは、天幕に到着すると、昼食を自分のベッドに置いて、他の天幕の様子を確認しにいく。


「あれ?」


 アリアは、近くにある4組の入校生たちの天幕を確認したが、誰もいなかった。


(全員、教官に捕まったのかな?)


 アリアはそんなことを思うと、自分の天幕に戻っていった。

 天幕の中に入ると、サラとステラは、すでに昼食を食べている状況であった。

 アリアも、自分のベッドの上に座ると、昼食を食べ始める。


「それで、アリア? どのくらいの人数、帰ってきましたの?」


 サラはベッドの上に座って、昼食を食べながら、アリアに質問をした。

 アリアは、昼食を食べるのをやめ、サラのほうを向く。


「一人も帰ってきていませんね。多分、教官に捕まったのかもしれません」


「そうかもしれませんわね。それか、帰ってくるのに時間がかかっているかですわ」


「いや、その可能性は低いと思います。日中に見つからずに、偵察をするのは難しいので、全員捕まっていると思いますよ」


 ステラは、昼食を食べながら、サラのほうを向く。


「まぁ、たしかに日中は明るいですし、正直、ワタクシたちがあそこまで目標となっている場所に近づけたのは、運が良かった気がしますの」


「私もそう思います。正直、敵地の奥深くに、日中に偵察しに行くのは、自殺行為としか思えませんしね」


 ステラはそう言うと、昼食を食べ続ける。

 サラとステラの会話が終わったことを確認したアリアは、口を開く。


「とりあえず、昼食を食べ終わったら、ロバート大尉に確認してきますね」


「分かりましたの」


「お願いします」


 サラとステラの返事を聞いたアリアは、昼食を食べるのに集中する。

 10分後、昼食を食べ終わったアリアは、ロバートのいるであろう天幕へ向かった。


「お! アリア、どうした?」


 ちょうど、昼食を食べ終わったのか、ロバートが天幕の中から出てくる。

 アリアは、ロバートに駆けよった。


「いえ、学級委員長として、4組の入校生がどこにいるのか気になりまして」


「ああ! 伝えるのを忘れてた! あいつらは、全員捕まって、捕虜になっているぞ! ちょうど、今、迎えにいくところだから、お前たちも連れていったほうが良い気がするな! 俺は、ここで待っているから、サラとステラをここに連れてこい!」


「分かりました!」


 アリアは大きな声で返事をすると、急いで、天幕へと戻っていった。

 その後、昼食を食べ終わっていたサラとステラと一緒に、ロバートの下へ向かう。

 三人は、ロバートと合流すると、ロバートの先導の下、歩きだした。


 10分後、三人は、4組の入校生たちが捕まっている場所まで到着した。

 4組の入校生たちは、全身を縄で縛られ、口には布が巻かれている。

 また、教官にやられたのか、全員がボコボコにされていた。


 ロバートが到着したのを確認した教官たちは、地面に転がされている4組の入校生たちを縛っている縄を解き始める。

 数分後、自由になった4組の入校生たちは、アリアの号令の下、ロバートの前に整列をした。


「これで、偵察に失敗して、敵に捕まったらどうなるか、分かっただろう! 一応、分かっているかどうかを確認するために、エドワード、お前が代表して、どうなるかを前に出て答えろ!」


「はい!」


 エドワードは大きな声を出すと、列から抜けて、ロバートの横に立つ。

 明らかに、エドワードは、4組の他の入校生たちに比べて、ボコボコにされていた。


(うわぁ……見てるだけで、痛そうだ)


 アリアは、エドワードを一目見るなり、そう思った。

 エドワードは、顔面が腫れており、見るからに痛そうである。


「偵察に失敗すれば、私のようにボコボコにされます! まだ、これでも良いほうで、実戦であれば、拷問をされて、殺されていると思いました!」


「そのとおりだ! エドワード、列に戻れ!」


「はい!」


 エドワードは大きな声で返事をすると、自分の元いた場所に戻っていく。


「まぁ、お前らも、捕虜の気持ちを少しは理解することができただろう! 戦場では、敵に見つかった瞬間、自分は死んだと思ったほうが良いぞ! 分かったか?」


「はい!」


 4組の入校生たちは大きな声で返事をする。

 それから、ロバートに率いられた4組の入校生たちは、シルヴァ訓練場を歩きながら、状況によって、どのような行動をしなければならないかを教えられた。


「実際、偵察は、かなり難しい! ましてや、日中に敵陣の中に入りこむのは、至難の業だ! どうしても、日中にやらなければいけないときでも、ある程度、近づくだけで良いからな! 重要なのは、少しでも情報を持ち帰ることだ!」


 ロバートは、シルヴァ訓練場にある森の中を歩きながら、4組の入校生たちに向かって、そう言った。

 一度言葉を区切って、ロバートは続ける。


「情報がないと、軍として動けないからな! お前たちは、士官として、得られた情報を分析して、指揮をしたり、作戦を計画する必要がある! そんな重要な情報を取るために、偵察に行くやつらは、能力的に高いのはもちろん、命をかけていることを忘れるな! あと、情報を活かすも殺すも、士官次第だからな! それだけ、士官は責任が重い! お前らも、そのことを肝に銘じておけよ!」


「はい!」


 4組の入校生たちは大きな声で返事をする。


(たしかに、ロバート大尉の言うとおりだ! 後方部隊に行けたとしても、判断を一つ間違えただけで、部隊が全滅しても、おかしくはない! だから、一つ一つの訓練で頑張ろう!)


 ロバートの言葉を聞いたアリアは、そう思いながら、歩いていた。

 ふと、サラのほうを見ると、真剣な顔をしている。

 どうやら、サラも士官の責任の重さを認識したようであった。


 アリアはサラのほうを向いた後、ステラのほうに顔を向ける。


(まぁ、ステラさんは、ロバート大尉が言っていたことを当たり前に思っていそうだな。実際、表情もいつもと変わらないし。というか、前々から思ってたけど、ステラさんって、絶対、命をかけた戦いを何度もくぐり抜けているよな。そうじゃなきゃ、危険な状況でも、あんなに落ちついていられないよ」


 アリアはそんなことを思いながら、ステラの顔を見ていた。

 ステラは、アリアの視線に気がついたのか、小声で話しかけてくる。


「たった一つの判断の間違いで、死んでしまうことがある。それが、戦場です。死なないためにも、訓練を頑張りましょうか」


「はい!」


 アリアは、小声で返事をすると、ロバートのほうに注目をする。


 その後、夜になり、4組の入校生たちは、ふたたび、偵察訓練をすることになった。

 日中とは違い、周囲が暗く、日中に行った偵察訓練の反省を活かせたおかげか、4組の入校生たちの中で、3組がロバートに斥候の結果を報告することができた。


 残りの4組の入校生たちの組も、捕まってはしまったが、目標となっている場所にかなり近づくことができたようであった。


 こうして、シルヴァ訓練場で行われた野外訓練は終了した。

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