16 野外訓練
――アリアがレイル士官学校に入校してから、1ヶ月が経過した。
その間、4組はロバートの指導の下、体力をつけていった。
未だに、講義の際に寝てしまった者がいた場合には、腕立て伏せなどをしていた。
だが、体力がついてきたおかげか、少しだけ楽になっているような状況であった。
レイル士官学校の生活に慣れてきたアリアとサラとステラは、講義や訓練が終わった後の夜に、自主的に訓練をするようになっていた。
なぜか、その際に、平日は屋敷にいて暇なのか、カレンも訓練に参加していた。
そのため、アリアとサラは、カレンに毎回の訓練でボコボコにされてはいたが、メキメキと実力をつけていっていた。
また、休日も、三人で行動することが多かった。
そのため、王都レイルで遊んだ後は、ステラの屋敷に泊まるのが当たり前になっていた。
もちろん、夜は、カレンを含めた四人で訓練をし、そのたびにアリアとサラは、ボコボコにされていた。
そのような日々を過ごしていると、5月になり、シルヴァ訓練場での野外訓練が行われる時期となった。
シルヴァ訓練場は、アミーラ王国の東部の都市であるシルヴァに近い場所にある訓練場であった。
レイル士官学校を出発した入校生たちは、馬車に揺られながら、シルヴァ訓練場へ向けて移動した。
途中、なにもない場所で野営をしながら、進むこと、3日間。
レイル士官学校の入校生たちは、太陽が昇り始める頃、シルヴァ訓練場に到着した。
「お前ら! 馬車から降りて、さっさと天幕を設営しろ!」
「はい!」
4組の入校生たちは、ロバートの怒鳴り声が聞こえると、次々と馬車を降りて、一緒に積まれていた荷物をほどき、天幕を設営し始める。
「はぁ……馬車の移動で疲れていますのに、休む暇もありませんわね」
「そうですね。少しでも、休憩ができるように急ぎましょう」
サラとステラはそんなことを言いながら、馬車を降りて、急いで天幕の設営を始めた。
アリアはというと、4組の天幕設営の進捗を確認しつつ、遅れている入校生たちの手伝いをしている。
もう、この頃には、平民と貴族、関係なく協力し合うようになっていた。
というのも、そんなことを気にして、協力しなければ、ロバートの指導についていけないと、4組の入校生たちは理解していたからである。
そうこうしているうちに、4組の入校生たちの天幕が設営し終わったため、アリアはロバートに報告した。
「そうか! 分かった! それでは、すぐに訓練を始めるから、準備しろ!」
「はい!」
アリアは大きな声で返事をすると、4組の入校生たちの下に向かう。
4組の入校生たちは、天幕の設営をし終わった後、自分たちの天幕で休んでいる状況である。
(はぁ……私も、少しは休みたいよ)
アリアは、そんなことを思いながら、休んでいた4組の入校生たちに、訓練を準備するように伝えた。
それから、5分後。
訓練の準備を終えた4組の入校生たちは、天幕がある場所から離れた、訓練をする場所に整列をしていた。
走ってきたため、4組の入校生たちは、息を整えながら、ロバートのほうを向いている。
「よし、揃ったな! それでは、訓練を始める! 今からシルヴァ訓練場の周りを、12時までに、武器を持ったまま、5周走ってこい! 途中で、抜け道を通ったりするなよ! 近道ができそうなところには、教官がいるからな! それじゃ、行ってこい!」
「はい!」
4組の入校生たちは、大きな声で返事をすると、武器を持ったまま走り始めた。
どうやら、午前中は、レイル士官学校の入校生たちの全員が、この訓練を行うようである。
アリアからは、他の組の入校生たちが走っている様子が確認できた。
「ふぅ~、結構、重いですの!」
サラは、武器を持ちながら、アリアの近くを走っている。
「そうですね」
ステラは、いつもと変わらない表情で、サラの近くを走っていた。
「いや、全然、つらそうに見えませんの! そう思いますわよね、アリア?」
「はい! さすが、ステラさんですね!」
アリアは、顔から大粒の汗を流しながら、走っている。
アリアの周りを走っている入校生たちも、汗をかきながら、必死になって走っていた。
それから、三人は、シルヴァ訓練場を1周走り終えた。
その頃には、アリアとサラは汗だくになりながら、疲れた顔をしていた。
対して、ステラはというと、汗をかいてはいたが、いつもと変わらない表情である。
「というか、これ、急がないと、マズくないですか?」
アリアは、近くを走っていたサラとステラにそう言った。
明らかに、1周をするだけでも、1時間以上かかっており、このままの速度で走り続けていると、午前中に5周は走れなさそうである。
「そうですわね! 急いだほうが良いかもしれませんの!」
「アリアさんの言うとおりですね。急ぎましょう」
日頃の訓練の賜物か、サラとアリアは、疲れてはいるが、まだまだ走ることができそうであった。
もちろん、ステラは、疲れてすらいないようである。
こうして、三人は、走る速度を上げた。
それから、4時間後。
三人は、なんとかシルヴァ訓練場の周りを5周走り、走り始めた場所に帰ってくることができた。
「本当に死にそうですの……」
サラは、5周走り終えた瞬間、地面に膝をつき、動かなくなってしまう。
アリアも、息を荒げ、一言も発さずに、地面に膝をついてしまった。
「さすがに、疲れましたね」
ステラはというと、いつもと違い、疲れた顔をしているが、まだ余力を残しているという感じである。
そんな三人の近くに、ロバートが近づいてきた。
「おう! お前ら! ギリギリだが、間に合っているぞ! 喜べ!」
ロバートはそう言うと、どこかへ行ってしまう。
「とりえあえず、間に合って、良かったですの……」
「本当ですね……」
サラとアリアはグッタリしながら、そう言った。
その後、三人は、自分たちの天幕に戻り、休むことにした。
結局、午前中に走り切れたのは、レイル士官学校の全入校生の中で、アリアとサラとステラだけであった。
――三人がゴールしてから、2時間後。
4組の入校生たちは、死にそうになりながら、全員、走り切っていた。
だが、全員が全員、真面目に走ったようではなかったようだ。
「学級委員長! 天幕で休んでいるやつらを全員、俺の前に整列させろ!」
「はい!」
天幕で寝ていたアリアは、ロバートの声が遠くから聞こえた瞬間、覚醒し、大きな声で返事をする。
アリアは、天幕で寝ていたサラとステラを起こすと、急いで天幕の外に出た。
5分後、天幕で休んでいた4組の入校生たちは、ロバートの前に整列をする。
「この中に、真面目に5周走らず、近道をして楽をした者がいる! しかも、10人以上だ!」
ロバートは大きな声で、4組の入校生たちに向かって、怒鳴った。
(はぁ……やっぱり、近道を通った人はいるよな。だって、教官が入校生にバレないように、近道を監視していたから、気づかないで通っちゃった人は多そうだ)
アリアはそんなことを思いながら、ロバートのほうを向いている。
アリアとサラも、シルヴァ訓練場の周りを走るのがつらかったため、バレないように近道をしようかと考えたことは何回もあった。
しかも、パッと見ているだけでは、近道になりそうな道に、教官が監視していると分からない状況であった。
そこで、アリアとサラは、近道をしようとした。
だが、ちゃんと周囲を確認すると、何人もの教官が入校生たちにバレないように、隠れて監視しているのが分かった。
そのため、アリアとサラは、近道を通るのを諦め、真面目にステラと一緒に走ることにした。
だが、気づかなかった入校生たちは、どうやら、近道を通ってしまったようである。
もちろん、隠れていた教官が注意をすることはなく、入校生たちが走り終わった後に、担当教官に伝えたようであった。
「近道を通った者たちは、バレていないと思っているかもしれない! だが、近道の近くには、教官が隠れていたから、誰がいつ頃、近道を通ったか、バレているぞ! お前たちが、午前中に走り切れないことなんて、分かっていた! それでも、誰も近道を通らず、頑張っていれば、間に合わなくても許そうと思っていたんだぞ!」
ロバートはそう言うと、整列している4組の入校生たちの周囲を歩き始める。
「そこでだ! お前らには、これから、シルヴァ訓練場の周りを10周走ってもらう! もちろん、武器はつけたままでな! 今回は、4組の全員でまとまって走れ! 俺も一緒に走るから、近道はできないからな! それでは、準備ができ次第、走り始めろ!」
「はい!」
4組の入校生たちは、大きな声で返事をすると、急いで、武器を持ち、走り始めた。
今回は、ロバートがついてきており、近道をすることは不可能であった。
「お前ら! ダラダラと走るな! お互いに協力し合え!」
4組の入校生たちが必死に走っている中、ロバートが大きな声を上げる。
その言葉を聞いた4組の入校生たちは、遅れている者の背中を押して、なんとか走らせた。
(さすがに、昼食を抜いて走るのはキツイな)
アリアはそんなことを思いながら、4組の入校生たちの様子を確認する。
どの入校生も午前中の疲れと空腹のせいで、走るのがつらそうであった。
そんな中、ステラは疲れた顔をしていたが、積極的に周りの入校生たちの背中を押して、走らせている。
(なんで、制限時間内に走り切ったのに、また、走ることになっているんだろう? まぁ、そんなことを考えても、しょうがないか。今は、皆で走り切ることに集中しよう)
アリアは、内心では不服であったが、考えてもしょうがないので、4組の入校生たちを励ましながら、走った。
結局、夜になっても、シルヴァ訓練場の周りを10周することはできなかった。
明かりが一切ない暗い道を、4組の入校生たちは、フラフラになりながら走り、なんとか走り切ることができた。
「よし……今日は、このくらいで良いだろう。学級委員長、後はお前が指示して、休ませろ」
「はい」
アリアがかすれた声で返事をする。走っている間、アリアは、4組の入校生たちの気持ちが折れないように励ましていたため、声がかすれていた。
アリアの返事を聞いたロバートは、4組の入校生たちと一緒に走って疲れたのか、トボトボと歩いて、教官の天幕に戻っていく。
「それでは、皆さん、夕食を受領して、さっさと明日に備えて寝ましょう」
「…………」
4組の入校生たちは、アリアの声に反応するだけの体力が残っていないのか、夕食が置かれている場所に向かって歩きだす。
(まぁ、あれだけ、走ったら、体力なんて残っていないよな。実際に、私も、倒れそうだし)
アリアは、そんなことを思いながら、フラフラと歩いている4組の入校生たちの先頭を歩く。
数分後、夕食が置かれた場所に到着した4組の入校生たちは、自分の分の夕食を受けとり、自分たちの天幕へ戻っていった。
アリアとサラとステラも、自分の分の夕食を受けとると、自分たちの天幕へ戻り、夕食を食べ始める。
一応、一つの天幕に一つだけ、ロウソクが配られていたため、天幕の中は少しだけ明るかった。
「はぁ……もう、体が動きませんの」
サラは、天幕の中で、なんとか腕を動かして、夕食を食べている。
その横で、アリアは、軍で使われる簡易的なベッドの上に座りながら、黙々と夕食を食べていた。
「たしかに、今日の訓練は相当、大変でしたね」
今日の訓練はさすがに疲れたのか、ステラは珍しく疲れ切った顔をしながら、夕食を食べている。
「とりあえず、さっさと夕食を食べて、明日に備えて寝ましょう」
「それが、良いですわね」
「私も賛成です」
アリアの言葉に同意したサラとステラは、夕食を食べ終えると、自分のベッドの上ですぐに寝始めた。
(はぁ……明日は、もう少し楽だと良いな)
アリアはそんなことを思いながら、ロウソクの火を消すと、自分のベッドで横になって、すぐに寝る。
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