14 解決

 盗品が入った袋と盗人を担いだアリアとステラとサラは、クラーフの居酒屋に到着した。

 その頃には、正午になっているようであり、裏道といえども、人が多く行き交っており、男を背負っている三人は、二度見されることが多かった。


「ふぅ~、やっと着きましたの!」


 サラは、クラーフの居酒屋の前で嬉しそうな声を上げている。


「それでは、クラーフさんの居酒屋に入りましょうか」


 ステラはそう言うと、盗品が入った袋と男を担いだまま、居酒屋に入っていく。


「分かりましたの!」


「はい!」


 サラとアリアも、ステラと同様に居酒屋の中に入っていった。

 その後ろには、カレンがおり、静かに二人の後をついていっていた。


 クラーフの居酒屋は、夕方からお店を開いているようであり、中はガラガラである。

 店の奥からは、仕込みをしているのか、具材を切っている音が聞こえてきた。


「すいません! クラーフさん、来ていただけませんか?」


 店内に入ったステラは、少し大きな声で叫ぶ。

 すると、具材を切っている音が止まり、店の奥からクラーフが、四人の下にやってくる。


「お! もう、盗人、捕まえたのか!」


 クラーフはそう言うと、近くにあったイスに座った。

 アリアとステラとサラも、盗品が入った袋と盗人を店の床に置くと、近くにあったイスに座る。


「それで、お願いなのですけど、空いている部屋を貸していただけませんか?」


「それって、ここで拷問するってこと?」


 クラーフはさらりと、ステラに向かって、そう言った。

 今まで、諦めて、おとなしくしていた盗人たちが、クラーフの言葉を聞いた瞬間、騒ぎ始める。

 だが、縄で全身を縛られ、口には布が巻かれているので、声にならない声を上げていた。


「いえ、拷問なんてしませんよ。ただ、持ち主に盗品を返すために、どこから盗んだのか聞くだけです」


「それなら良いけど、部屋が血で汚れるのだけは、勘弁してくれよ!」


「大丈夫です。例え、血で汚れたとしても、掃除しますので」


「おいおい……拷問する気があるじゃないか……」


 ステラの言葉を聞いたクラーフは、露骨にイヤそうな顔をする。


「まぁ、最悪はということです。それで、どこの部屋を使えば良いですか?」


「店の奥の突き当りにある部屋を使ってくれ。そこは、物置になっているが、そこそこ広さがあるから、大丈夫だろう」


「分かりました。それでは、遠慮なく使わせてもらいます。カレン、その盗人を連れてきて」


「分かりました」


 ステラに指示されたカレンは、クネクネと動いて逃げ出そうとしている盗人たちの服の襟をつかむと、そのまま引きずりだす。


「あ、サラさんとアリアさんも、一緒に尋問をしますか?」


 盗品の袋を持ったステラが振り返りながら、そう言った。


「いや、疲れたからいいですの……それより、なにかご飯が食べたいですわ」


「私も遠慮しておきます。ここで、サラさんと一緒にご飯を食べています」


 やっと緊張から解放されたサラとアリアは、グッタリとしながら答える。

 午前中に料理を食べたばかりだが、激しい運動をしたため、二人はお腹がペコペコであった。


「そうですか。それでは、サラさんとアリアさんは、先に昼食を食べていてください」


 ステラはそう言うと、カレンとともに店の奥に消えていく。

 サラとアリアは、ステラとカレンが店の奥の部屋に入った後、メニューを見ながら、クラーフに注文をした。


「いや、まだ、営業前なんだけど……まぁ、しょうがないか」


 クラーフは、少し面倒そうな顔をしながら、サラとアリアが注文した料理を作るために、店の奥の厨房に向かう。

 サラとアリアは、待っている間、疲れていたため、座りながら眠ってしまった。


 20分後、クラーフが料理を持って、机に並べ始める。


「二人とも、料理ができたぞ」


「ふわぁ~あですわ」


「いつの間にか寝ていました」


 サラとアリアは、クラーフの言葉で目を覚ますと、机に置かれた料理を食べ始めた。

 クラーフも、机に向かいイスに座ると、自分の分の昼食を食べ始めた。


「そういえば、二人のことを聞いていなかったが、ステラの友達か?」


「そうですの! 士官学校で同じ部屋で、同じ組ですわ!」


「私もそうですね!」


 サラとアリアは、料理を食べながら、クラーフに答える。


「そうか。ステラとは長い付き合いだけど、カレン以外の人を連れてくることは初めてだったからな。少し驚いた。」


「そうなんですの?」


「まぁ、珍しいことではあるな」


 クラーフはそう言うと、また、料理を食べ始めた。

 サラとアリアも、お腹が空いていたため、会話を切り上げると、料理を食べるのに集中する。

 その後、料理を食べ終わった二人は、すぐに、イスに座ったまま眠り始めた。


 クラーフは、昼食を食べ終えると、机に載っている皿を回収し、厨房に戻っていった。

 それから、30分後。


 尋問が終了したのか、ステラとカレンが店の奥の部屋から出てくる。


「すいません、クラーフさん。私たちに、なにか昼食を作っていただけませんか?」


「そう言うと思ったから、二人分の昼食を作っておいた。そこに置いてあるから、自分で持っていって食べてくれ」


「ありがとうございます」


 ステラはそう言うと、厨房の端に置いてあった二人分の料理を持っていく。

 店の入口の近くに盗人たちを置いてきたカレンは、すでに机に座っていた。

 ステラは、カレンの前に料理を置くと、カレンが座っている反対側に座る。


 その後、ステラとカレンは、昼食を食べ始めた。


「そういえば、お嬢様。あそこでよだれを垂らしながら寝ているお二方は、ご学友ですか?」


 カレンは、昼食を食べながら、ステラに質問をする。

 現在、サラとアリアは、口からよだれを垂らしながら、イスに座って、眠っていた。


「そうですね。士官学校で同じ部屋になった二人です」


「そうですか。やっとお嬢様にお友達ができて、私は嬉しい限りです」


「……せめて、表情と言動を一致させなさい。それでは、誰も信じませんよ」


 ステラは、仏頂面で話しているカレンにツッコミを入れる。

 対して、カレンはそれほど気にしていないようであった。


「バレてしまいましたか」


 カレンはそう言うと、会話を切り上げ、食事を食べることに集中する。

 ステラも、それ以上の会話をしようと思わなかったのか、黙々と食事を食べていた。


 それから、10分後。

 昼食を食べ終わった二人は、食器を厨房に持っていき、サラとアリアを起こした。

 

「……? 尋問は終わりましたの?」


 サラは寝ぼけた声で、ステラに質問をする。

 アリアはというと、ふわぁと言いながら、背伸びをしていた。


「はい、終わりました。なので、今から、盗人たちを治安部隊の詰め所に運んでいった後に、盗品を返して回りましょうか」


「分かりましたの!」


「それじゃ、さっそく、行きましょうか!」


 昼食を食べた後、眠ったため、サラとアリアは元気になっていた。

 三人はお会計を済ませた後、盗人と盗品が入った袋を担ぐと、クラーフの居酒屋を出ていく。

 その後ろには、カレンがついてきていた。






 30分後、クラーフの居酒屋を出た四人は、レイルの治安部隊の詰め所に来ていた。


「すいません。盗人を捕まえたので、引き渡したいんですけど」


 ステラは、盗人を担ぎながら、詰め所の受付にいた男性に話しかける。


「もしかして、平民街に出ていた盗人か?」


「はい、おそらく、そうです。盗品も回収してきたので、確認してください」


「分かった。少し、待っていろ」


 受付の男はそう言うと、詰め所の奥へ消えていった。

 三人は、盗品が入った袋と盗人を地面に置くと、近くにあったイスに座る。

 ついてきたカレンは、盗人が逃げないように見張っていた。


 しばらくすると、紙を持った治安部隊の男たちが何人か出てきて、盗品の確認をし始める。

 どうやら、被害届に書かれている物と盗品が一致しているか確認しているようであった。

 その間、アリアたちは、受付の男性に、身元確認のための質問をされていた。


 それから、30分後。

 確認が終わったのか、治安部隊の男たちは立ち上がると、縄で縛られている盗人たちを運んでいった。


「被害届に書かれていた物品と君達が持ってきてくれた盗品が一致する物が多かったから、間違いなく、あの男たちは盗人であることが分かった! 協力、感謝する! ところで、どこであの盗人たちを捕まえたんだ?」


 受付の男性が、イスに座って休んでいるステラに質問する。


「貧民街ですね」


「そうか……貧民街か。たしかに、治安部隊の者も、滅多なことでは行かないから、犯罪者が隠れるにはもってこいの場所ではあるな。まぁ、とにかく、今回は非常に助かった! 本来ならば、我々が捕まえなくてはいけないのだが、人員不足でな! 貴族街の警備に人が割かれていて、なかなか、平民街まで手が回らないんだ!」


 受付の男性は、残念そうな顔をしながら、ステラにそう言った。


「そうなんですか。ところで、盗品に関してなんですけど、一応、先ほどの盗人から持ち主を聞いているので、私たちが届けましょうか?」


「すまないが、そうしてくれると、ありがたい。我々では、いつ届けられるか、分からないからな。できるだけ早く、持ち主に返したほうがいいだろう。それと、一応、言っておくが、ネコババをしようとは考えないようにしてくれ。すぐにバレるからな」


「その点は、大丈夫です。先ほども話しましたが、私たちは士官学校の入校生なので、滅多なことはできませんから」


「分かった。それでは、頼むよ。盗品を返し終わったら、この詰め所に報告にきてくれ」


「分かりました」


 ステラの返答を聞いた受付の男性は、座っていた場所まで戻っていった。

 ステラは、寝ているサラとアリアを起こすと、盗品が入った袋を担ぎ、詰め所の外へ出ようとする。

 二人も急いで、盗品が入った袋を担ぐと、ステラの後を追う。カレンは、そんな二人の後ろをついていっていた。






 結局、盗品を持ち主に返し終わる頃には、夕方になっていた。


 三人は、治安部隊の詰め所と武器屋である『あさしん』の店主、ラルベルに報告した後、一回、レイル士官学校に戻ることにした。

 カレンは、レイルにある屋敷に戻り、三人のために食事などを準備してくれるようである。


「ふぅ~ですの。教官室に入るのは、緊張しますわ」


 サラは教官室の前で、心の準備をしていた。

 一応、今回の一件をロバートに報告したほうが良いと思った三人は、教官室の前に来ていた。


 教官室の中は、外から見えないので、ロバートが中にいるかどうかは分からない状況である。


「それじゃ、入りますよ!」


 アリアは気合いの入った声でそう言うと、教官室の扉をコンコンコンと叩く。


「どうした? なにか用があるのか?」


 今日の当直であった教官の声が、扉越しに聞こえた。


「はい! ロバート大尉に報告事項があります!」


 アリアは大きな声で答える。

 すると、誰かが歩く音が聞こえ、教官室の扉が開かれた。


「なんだ、アリアか。まぁ、とりあえず、お前ら、教官室に入れ」


 いつもと違い、疲れているのか、扉を開けて現れたロバートはそう言うと、教官室の自分の机に戻っていく。

 教官室には、休日にも関わらず、ほとんどの教官がおり、なにか仕事をしているようであった。


「失礼します!」


 アリアは大きな声を出すと、教官室に入る。サラとステラも、同様に大きな声を出して、教官室に入った。


「それで、報告事項とはなんだ? あと、今日は休日だから、大きな声を出さなくいいぞ」


 ロバートはイスに座ると、アリアに尋ねる。

 アリアはそれに対して、いつもどおりの声の大きさで答えた。


「実は……」


 アリアは、盗人を捕まえたこと、その後に盗品を持ち主に返したことなどを詳細に説明した。

 ロバートは、アリアから報告された事項を黙って、聞いている。

 アリアの報告が終わった後、ロバートは口を開く。


「はぁ……とりあえず、ケガはないようだから、良かった。休日にケガをしたら、シャレにならないからな。あと、貧民街は危ないから、あまり行かないように。冒険するのも、ほどほどにな。それでは、帰って良いぞ」


「分かりました」


 アリアはそう答えると、お辞儀をし、教官室を出ていく。

 後ろにいたサラとステラも、お辞儀をすると、アリアとともに、教官室を出ていった。


「怒られるかと思いましたけど、ロバート大尉は、意外と普通でしたね」


「というか、疲れ切っていましたの」


「やっぱり、ずっと怒鳴っているのは、疲れるのかもしれませんね。私は怒鳴ることがないので、分かりませんが。まあ、それは置いといて、私の屋敷に行きましょうか」


 アリアとサラとステラは、廊下でそのようなことを話していた。

 その後、三人は、レイルにあるステラの屋敷へ向かって歩き始める。

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