13 盗人捕縛
――10分後、いきなり襲いかかってきた男の案内によって、ステラとアリアとサラは、盗人がいるであろう場所まで到着した。
「ほら、ここだ!」
男は、ボロボロな建物を指差す。
「ありがとうございました。それでは、帰っていただいて結構です」
「分かった!」
男は、やっと解放されて嬉しいのか、そそくさと逃げ出した。
そんな男の様子を見ながら、ステラが思いついたかのように、口を開く。
「あ、忘れていましたが、お仲間を連れて、私たちを襲撃しないでくださいよ。そうなると、こちらも、手加減できなくなりますので」
「そんな真似しねぇよ! それじゃあな!」
男は背中を見せたまま、手を振ると、どこかへ消えてしまった。
男を見送ると、ステラは、アリアとサラのほうに振り向く。
「それでは、行きましょうか。ただ、すぐに戦える準備をしておいてください」
「分かりましたの!」
「はい!」
サラとアリアは、返事をすると、鞘を握り、いつでも剣を抜ける体勢になった。
そんな二人の様子を確認したステラは、盗人がいるであろう建物の扉をコンコンコンと叩く。
その瞬間、扉がすさまじい勢いで開いた。
「はぁ……危ないですね」
ステラは事前に予想していたのか、後ろに下がる。
すると、建物の中から、剣を構えた三人の男が出てくる。
男たちの血色は良く、清潔な衣服を着ていた。
「なんだ、子供か! 焦って、損したぜ!」
男たちの一人が、笑いながら、そう言った。
緊張していた男たちの雰囲気が緩んでいくのを、アリアは感じる。
「それで、なんの用だ? 訪ねる家でも間違えたのか?」
男の一人が、ステラに質問をした。
まるで、警戒していないような態度である。
逆に、サラとアリアは、いつ戦いが始まっても良いように、気持ちの準備をしていた。
「いえ、最近、レイルの平民街で窃盗を繰り返している盗人が、ここにいるのではないかと思いまして。捕まえるために、こうして来たということです」
ステラは、いつもと変わらない、落ちついた声で、そう言う。
そんなステラの言葉を聞いた瞬間、男たちの間に緊張が走るのが、アリアには手に取るように分かった。
「俺たちが、その盗人だって? まったく、子供の冗談は面白いな!」
言葉とは裏腹に、男の一人は持っている剣を強く握る。周りにいる男二人も、剣を強く握っているようであった。
「今の反応で、あなたたちが件の盗人であるということは、十分に分かりました。おとなしく、治安部隊の詰め所に行って、自首していただけませんか?」
「バカが! 自首するワケないだろう! それに、お前たちみたいな子供が、俺たちを倒せるとでも思っているのか!?」
ステラの言葉を聞いた男の一人が、そう吐き捨てる。
どうやら、交渉は決裂したようであった。
「はぁ……面倒ですけど、やりますか。サラさん、アリアさん、一応、言っておきますが、殺さないでくださいよ」
「わ、分かりましたの!」
「もちろんです!」
サラとアリアは、ステラの言葉を聞くと、そう答える。
どうやら、サラは、先ほどと同様に緊張しているようであった。
「なにをゴチャゴチャ話していやがる!」
ステラと話していた男が、いきなりステラに襲いかかる。
ステラは無駄のない動きで、剣を鞘から抜くと、迫ってきている男の剣に、自分の剣を打ちつけた。
バンという金属音とともに、男は剣を持ったまま、のけぞる。
その音からも、ステラの攻撃が相当な威力であったというは分かった。
「クソッ!」
男は後ろに下がると、手がしびれてしまったのか、そのまま剣を落としてしまう。
地面に剣が落ちると、カランカランという音がした。
「アリアさん、サラさん。私はこの人を縄で縛るので、他の二人をお願いします」
「やってやりますの!」
「分かりました!」
サラとアリアは、ステラの言葉に対してそう答えると、剣を抜き放ち、男たちに斬りかかる。
それから、10分後。
男たちを無力化した三人は、建物の中に入り、盗まれたであろう品物を次々と袋に詰めていた。
無力化された男たちはというと、縄で縛られ、外に転がされている。
「うわぁ~! この宝石、キレイですの!」
サラは、青い小さな宝石を見ながら、声を上げた。
建物の中には、どこで盗んだのかは分からないが、貴金属などが多くある。
「サラさん、キレイだからって、自分の物にしないでくださいよ。これは、持ち主に返す物ですからね」
「わ、分かっていますの! そんなはしたない真似はしませんわ!」
サラは大きな声を上げると、袋の中に、青い小さな宝石を入れた。
(……やっぱり、ダメだよね。ちゃんと、元の持ち主に返そう)
アリアは、慌てているサラの様子を見ながら、そう思った。
5分後には、盗まれたであろう物を袋に詰め終わる。
三人は、袋を担ぎながら、建物の外に出た。
「それで、ステラ。この盗人たちはどうしますの?」
「連れていきます。どこから盗んだのかを聞かないと、持ち主に返せないので」
「もしかして、担いでいきますの?」
「そうですね」
「……はぁですわ」
サラは男たちを見ながら、ため息をつく。
その後、三人は男を一人ずつ担ぐと、盗品が入った袋を持ちながら、歩き始める。
その際に、男たちが抵抗したため、ステラが男のお腹にパンチをして、おとなしくさせていた。
「……重いですの」
サラは男を担ぎながら、愚痴をこぼす。
(久しぶりだな。誰かを担ぐのは)
アリアは、歩きながら、そんなことを思っていた。
ハミール平原の戦いで、アリアは負傷した兵士を後方まで運んだことがあった。
あの時とは違い、矢も炎の魔法も飛んでこないので、男を背負っているとはいえ、落ちついていた。
ステラは、男を担いでいるが、特になにも思っていないようであり、いつもどおりの表情で歩いている。
30分後、三人は貧民街の入口に到着した。
だが、そのまま、貧民街を出られるワケではないようである。
「待っていたぞ、お前ら! さっきはよくもやってくれたな!」
先ほど、三人の道案内をした男が大きな声を上げた。
その周囲には、30人ほどの男たちがいるようである。
「わわわ! ヤバいですの! ヤバいですの!」
男たちを見たサラは、慌てながら、大きな声を上げていた。
対して、アリアとステラは落ちついている。
(焦っても、仕方がないか。ここは、やるしかない)
アリアは男たちを見ながら、そう思った。
かなりマズい状況だが、男たちを倒せなければ、貧民街を抜けられそうにない。
「アリアさん、サラさん。少し、数が多いですけど、死なないように頑張りましょうか」
ステラは落ちついた声でそう言うと、男と盗品が入った袋を投げ捨て、剣を構えた。
ステラの様子を見たアリアも、男と袋を地面に置くと、静かに剣を構える。
「もう! やるしかありませんの!」
サラも、男と荷物を投げ捨てると、急いで剣を構えた。
「お前ら、油断するなよ! いくぞおお!」
「おう!」
リーダーらしき男のかけ声で、一気に男たちが、声を上げながら三人に襲いかかる。
「こちらもいきますよ」
「分かりましたの!」
「はい!」
三人はそう言うと、雄叫び上げながら、男たちに向かっていこうとした。
だが、そのとき、突如、三人の目の前に、空からメイド服を着た女性であるカレンが降り立つ。
「まったく、お嬢様の帰りが遅いので、探しましたよ」
明らかにメイドがしてはいけない目つきをしたカレンは、ステラに話しかける。
「あら、カレン。ちょうど、良いところに来ましたね。この方たちを片づけてくれませんか?」
「分かりました。少し、お待ちください」
カレンはそう言うと、男たちのほうに向き直る。その手に、武器らしき物はなく、丸腰の状態であった。
いきなり空から降ってきたカレンに、サラとアリアは理解が追いつかず、口をポカンと開けたまま、立ち止まっていた。
「な、なんだ、お前は! 丸腰でこの人数とやりあえると思っているのか!?」
いきなり現れたカレンに戸惑いながら、男の一人が大きな声を上げる。
「はい。余裕だと思いますが?」
カレンはそう言うと、声を上げた男に向かって歩いていく。
「こ、このやろう!」
カレンの態度が気に障ったのか、男が走り出し、上段から斬りかかる。
男の攻撃に対して、カレンは驚きもせずに、右手を上げた。
「あ、危ない!」
アリアは思わず、大きな声を上げる。
誰が見ても、男の攻撃をカレンが防げそうにはなかった。
だが、次の瞬間、信じられない出来事が起こった。
カレンが、上段からの男の攻撃を、右手で受け止めたのである。
しかも、その手からは、一滴の血も流れていなかった。
「は?」
あまりにも現実離れしたことが起こったため、カレンに斬りかかった男が、素っ頓狂な声を上げる。
男たちとアリアとサラは、意味が分からず、口をあんぐりと開けて、カレンを見ていた。
「まったく、いきなり斬りかかるなんて、無作法ですね」
カレンはそう言うと、右手に力を入れ始める。
それと同時に、カレンが握っている剣が変形をし始めた。
「うわぁ! 放せ! 放せ!」
剣の変形を見た男は、叫びながら必死で剣を引っぱる。
だが、カレンの握力がすさまじいのか、剣はビクともしていなかった。
数秒後、剣は握り潰されてしまい、潰れた部分から先が曲がり、使い物にならなくなっていた。
「お、お、俺の剣が……」
カレンが剣から手を放すと、男は、使い物にならなくなった剣を持ちながら、後ろによろめく。
そんな男にカレンは歩いて近づき、蹴りを放った。
「う、うわあああああああ!」
その瞬間、男は叫び声を上げながら、周りにいる男たちを巻きこみ、10mほど蹴り飛ばされる。
男は地面を転がり、なんとか停止した後、微動だにしなくなってしまった。
「な、なんだ、お前は!?」
リーダーらしき男は、声を震わせながら、そう言った。
常識外れの力を持ったカレンに対して、恐れを抱いているようである。
男たちも、体を震わせながら、カレンに注目していた。
「ただのメイドですが?」
「お前みたいな化け物が、メイドのワケがないだろう!? お前ら、相手は一人だ! 囲んで、一気に攻撃しろ!」
リーダーらしき男の声に反応した男たちは、我に返ったようであり、急いで、カレンを包囲する。
対して、カレンは動きもせず、その様子を眺めていた。
「へへ! これで、お前は手も足もでないだろう!」
リーダーらしき男は、勝ち誇ったかのような声を上げる。
カレンの周囲にいた男たちも、余裕が出てきたのか、笑っていた。
「この程度で、そう考えるとは……おめでたいですね」
カレンはそう言うと、目にも止まらぬ速さで動き、次々と男たちを素手で倒していった。
あまりにも、動きが速すぎるため、男たちはまともに抵抗できないまま、倒されていく。
「うわあああああ! こんな化け物に勝てるワケがない! 逃げろおおおお!」
男たちの一人が叫ぶと、続々と男たちが逃げ始める。
「おい! お前ら、逃げるな!」
リーダーらしき男が叫ぶが、効果はないようであり、あっという間に男たちは逃げていく。
「お嬢様、あとは、一人になりましたが、どうしますか?」
カレンは、座りながら、後ずさりしているリーダーらしき男を前に、そう言った。
「そうですね……一応、その人には、盗人の場所まで、案内してもらいましたし、腕一本折るぐらいで良いですよ」
「殺さなくても、良いのですか?」
「いえ、殺してしまうと、今後、貧民街に出入りできなくなる可能性があるので、やめておきましょう。それでは、カレン、頼みましたよ」
「分かりました、お嬢様」
カレンはそう言うと、逃げようとしたリーダーらしき男の右腕を持つ。
「おい! やめろ!」
リーダーらしき男は、必死で抵抗するが、カレンの力が強すぎるのか、意味がないようである。
カレンは、そのまま、両手で男の右腕を持つと、木の枝を折るかのように、骨を折った。
パキという音とともに、リーダーらしき男の右腕はいとも簡単に折れてしまったようである。
「うわああ! 俺の右腕が!」
リーダーらしき男をカレンが放すと、その場にうずくまってしまった。
「さて、カレンが片づけてくれたことですし、とりあえず、クラーフさんの居酒屋に行きましょうか」
ステラはそう言うと、剣を鞘に納め、盗品が入った袋と盗人の一人を担ぐと、歩きだす。
「ちょ、待ってほしいですの!」
「置いていかないでください!」
我に返ったサラとアリアは、剣を鞘に納めると、急いで、袋と男を担ぎ、ステラの後を追いかけた。
その後ろを、カレンが、無言のまま、ついていく。
こうして、カレンの助けで、無事に貧民街を抜けられた三人は、クラーフの居酒屋に向かった。
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