12 ヒャッハー系との戦い

 ――アリアたちがラルベルの武器屋を出てから、10分後。


 現在、アリアとサラは、ステラの先導の下、裏道を歩いていた。


「それで、ステラ。ワタクシたちは、どこに向かっていますの?」


「情報収集をするために、私が知っている居酒屋に向かっています」


「居酒屋ですか?」


 ステラの言葉を聞いたアリアが首をかしげる。

 サラもアリアと同様に首をかしげていた。


「はい、居酒屋です。そこの店主は、お客さんから聞いた情報を分析して、情報屋みたいなこともしているんですよね。実際、このまま、やみくもに探しても、見つからないと思うので、そこから盗人に関する情報を仕入れようかと思いまして」


「そうなんですのね」


「盗人に関する情報があると良いですね」


 サラとアリアは、納得したような顔で、ステラにそう言った。

 

 そこから、暗い裏道を歩くこと、10分後。

 三人はお目当ての居酒屋に到着した。

 まだ、午前中ということもあり、店内には、お客さんが誰もいないようである。


「すいません! クラーフさん、いますか?」


 ステラは、居酒屋の中に入ると、大きな声でそう言った。

 アリアとサラは、ステラに続いて、居酒屋の店内に入る。

 ステラの声が聞こえたのか、店の奥のほうで、誰かが動く物音がした。

 

 それから、待つこと、2分間。

 三人の目の前に、30代くらいの中肉中背で、目つきが鋭い男性であるクラーフが現れた。


「お! ステラじゃないか! 今日は、こんな朝早くにどうした?」


 クラーフは、寝起きなのか、髪がボサボサで眠そうである。


「クラーフさんに聞きたいことがありまして。最近、ここら辺で窃盗が多発しているみたいですけど、その犯人に関する情報を知っていますか?」


「まぁ、知らなくはないが、立ち話もなんだし、飯でも食べながら話そうか。そこの二人も飯がいるなら作るが、どうする?」


「食べますの!」


「絶対、いります!」


 朝からまだ、なにも食べていないサラとアリアは、大きな声でそう答えた。

 その様子を見たクラーフは、苦笑している。


「すごい食いつきだな! それじゃ、飯を作ってくるから、そこらにあるイスに座って、待っててくれ!」


 クラーフはそう言うと、店の奥に歩いていく。

 三人は、近くにあったイスに座り、料理ができあがるのを待つ。

 店の奥からは、食材を切っている音や炒めている音が聞こえてくる。


 そのうちに、アリアとサラは、レイル士官学校の生活で疲れていたため、座りながら、眠りについてしまった。

 20分後、料理ができたようであり、クラーフが、机の上に人数分の料理を並べ始める。


 料理を並べる音が近くでしたため、サラとアリアは、目を覚ます。


「おいしそうですの! いただきますですわ!」


「これは食べるしかありませんね! いただきます!」


 サラとアリアは、机に置かれた料理を見た瞬間、そう言って、食べ始めた。


「おいおい! そんなに急がなくても、料理は逃げないぞ!」


 クラーフは笑いながら、イスに座る。

 アリアとサラが夢中で料理を食べている中、クラーフとステラも料理を食べ始めた。


「それで、ここら辺で出る盗人の話だっけか? 一応、俺が知っているのは、客が話していたようなウワサ程度のものだが、それでも良いか?」


「はい。なんの手がかりもないよりは、マシなので、教えてください」


 クラーフとステラが料理を食べながら、話し始める。

 サラとアリアはというと、食べるのに夢中になっていて、話を聞いていないようであった。


「まず、やつらは単独犯ではないようだな。同じ時間帯に、窃盗に入られたという証言が何件もある。あと、やつらの居場所だが、ここから近い貧民街に潜伏しているんじゃないかと、俺は思うな」


「その根拠は?」


「最近、貧民街に流れ着いた男たちがいるそうだ。だが、それにしては、身につけている衣服に穴が開いていないし、血色も良いみたいだぞ。どう考えても、怪しいだろう?」


「そうですね。貧民街に流れ着くということは、その日、生きれるかどうかの生活をしているハズです。おそらく、その男たちが、盗人たちでしょう。あと、なにか手練れがいるとかの情報はありますか?」


「いや、それは分からないな。だから、やつらと戦うときは気をつけろよ。俺が知っている情報は、こんなところだな」


「情報、ありがとうございます。それで、この情報の報酬は、どうしますか?」


 ステラはそう言うと、料理を食べるのをやめ、懐に手を入れる。


「いや、今回はいらない。俺の店が狙われる可能性は低いけど、それでも、悩みの種は一つでもなくしておきたい。ステラたちが、盗人を捕まえてくれるっていうなら、願ったり叶ったりだからな」


「そうですか」


 ステラは、懐から出した札束をしまうと、料理を食べ始めた。

 アリアとサラは、食べ終わり、眠くなったのか、イスに座りながら、そのまま寝ている。

 10分後、ステラは食事を食べ終えると、寝ていたアリアとサラを起こした。


「ハッ! 寝てしまいましたの!」


「すいません! 寝てました!」


「大丈夫ですよ、二人とも。必要な情報は、クラーフさんから聞いたので、盗人を捕まえるために、貧民街に行きましょう」


 口からよだれを垂らしながら寝ていた二人に、ステラはそう言うと、居酒屋から出ようとする。


「待ってくださいまし!」


「置いていかないでください!」


 サラとアリアは、よだれを服のすそでふきながら、急いでステラを追いかけた。






 ――クラーフの居酒屋を出発してから、20分後。


 三人は、貧民街に到着していた。清潔な衣服を身にまとっている三人は、完全に貧民街では浮いている。


 王都レイルは、大きく分けて、三つの区域で構成されていた。

 一つ目は、アミーラ王国の国王であるハインツ・アミーラがいるレイル城を中心とした貴族街である。

 貴族街には、レイルに屋敷がある貴族が住んでおり、平民は一人もいなかった。

 

 二つ目は、平民が住んでいる平民街である。

 ここには、平民が営む商店などがあり、レイル士官学校も平民街の外れにあった。

 基本的に、平民のほとんどが、平民街に住んでおり、貴族が住むことは、ほとんどない。

 たまに、貧乏になってしまった貴族が住むくらいである。


 三つめは、なんらかの理由で、平民街や貴族街に住むことができなくなった者が住む貧民街であった。

 貧民街にいる者は、基本的に貧しいので、その日を生き残るので精一杯である。

 また、なにかあった場合でも、レイルの治安部隊が助けてくれることはないので、自衛することが求められる。

 

 そのため、力のない者たちは、なにか起きた場合に、協力してなんとかしているような状況であった。

 貧民街に住んでいる者は、生きるのもやっとの生活をしている者が多い。そのため、貧民街は治安が悪い状況である。


 そんな貧民街を三人は、歩いていた。

 ステラはいつもと変わらない表情で、歩いている。

 対して、アリアとサラは、いきなり襲われてもいいように、周囲を警戒しながら歩いていた。


 実際、三人は貧民街で浮いており、明らかに普通ではない男たちの注目の的になっている。


「……ステラさん、あと、どのくらいで、盗人がいる場所まで着きますかね?」


 アリアは、前を歩いているステラに話しかけた。それに気づいたのか、サラもステラのほうに近づく。


「盗人がいる正確な場所は分かりません。ただ、情報が向こうからやってくると思うので、このまま、貧民街を歩き回りましょう」


「え? 正確な居場所が分からないんですか? それに、情報が向こうからやってくるって、どういうことですか?」


 当然、クラーフから盗人の正確な居場所を聞いており、そこに向かっていると思っていたアリアは、驚きながら、ステラに質問をする。

 サラも声には出さないが、驚いた顔で、ステラを見ていた。


「そのままの意味ですよ。そんなことより、アリアさん、サラさん、戦闘準備をしてください。どうやら、情報がやってきたみたいですよ?」


 ステラはそう言うと、鞘から剣を抜き放ち、構える。

 サラとアリアが、ステラの向いているほうに顔を向けると、近くに、剣を持っている五人の男がいることが分かった。


「とうとう、ヒャッハー系のヤバい人たちが出ましたの!」


「なんですか、それ?」


 サラは大きな声を上げながら、剣を急いで構える。アリアも、サラの言葉にツッコミを入れながら、剣を構えた。


「お嬢さんたち、ここは観光するような場所じゃないぞ! まぁ、運が悪かったと思って、諦めてくれや!」


 男たちのリーダーらしき男が、大きな声を上げる。

 このような状況に対して、アリアは戦場で戦っていたので、なんとも思わないが、サラは違うようだ。

 サラは、剣を構えながら、ガクガクと膝を揺らしており、顔からは冷や汗が流れている。


「さすが、戦場で生き残っただけあって、アリアさんは落ちついていますね。ところで、サラさん? とても戦えるような状態に見えませんけど、大丈夫ですか? なんだったら、休んでいても良いですよ?」


 いつもと変わらない表情をしたステラは、アリアとサラのほうに振り向く。


「だ、だ、大丈夫ですわ! これでも、モートン家の娘ですの! ヒャッハー系に負けたとあったら、クレア姉様に笑われますわ!」


 全然、大丈夫そうではないサラが、動揺しながらステラに向かって、そう答えた。


「……まぁ、死なないように、頑張ってください、サラさん」


「あ、当たり前ですの!」


 いろいろと諦めたステラの言葉を聞いたサラは、気合いの入った声を上げている。

 そんな中、三人がずっと話しているのが気に入らないのか、男の一人が声アリアたちのほうを向いているステラに襲いかかった。


「はぁ……」


 ステラはため息をつくと、右手で持った剣で男の剣を弾き飛ばし、空いている左手で男のみぞおちを殴る。


「うぇ……」


 みぞおちを殴られた男は、そのまま膝をついてしまう。

 あまりにも、ステラの動きが速かったため、男たちはなにが起こったのか分からず、ポカンとしている。

 対して、アリアとサラはそれなりに鍛えていたので、動き自体は目で追うことができた。


(ステラさんって、もしかして、相当、強いのかも!)


 アリアは、ステラの無駄のない動きを見て、驚く。

 サラも、ステラの実力の高さに驚いているのか、目を見開いている。


「あ、言うのを忘れていましたが、殺さないように注意してください。殺してしまうと、貧民街を出るのが難しくなってしまうので」


 ステラは、膝をついた男を見下ろしながら、アリアとサラが聞こえる声の大きさで、そう言った。

 男たちは、ステラの声で我に返ったのか、険しい顔をしながら、剣を握っている。


「くそ! お前ら、やっちまえ!」


 男たちのリーダーらしき男が叫ぶと、一気に三人に襲いかかってくる。

 相当な実力の差があるのか、アリアとサラは向かってくる相手の攻撃に対して、なんなく対処し、次々と殺さない程度に倒していた。


 サラはというと、


「はぁあああああ! ひやああですわあああああ!」


 よく分からない叫び声を上げながら、必死になって、戦っている。

 サラの迫力に相手はひるんでいるのか、サラの攻撃に対して、防戦一方になっているようである。

 それから、3分もしないうちに、五人の男たちは戦闘不能になって、動けなくなっていた。


「やりましたの! 初めての実戦での勝利ですわ!」


 サラは、なんとか戦闘不能にした男の前で、跳び上がりながら、喜んでいる。

 そんな様子を横目に見ながら、ステラは、座りこんでいるリーダーらしき男に近づく。


「すいません。お聞きしたいことがあるのですが、最近、貧民街に流れ着いた、清潔な身なりをした人たちを知りませんか?」


「知るか! 自分で探せ!」


「困りましたね。こちらとしても、手荒な真似をしたくないのですが」


 ステラはそう言うと、剣を抜き放ち、男の右手に添える。


「それでは、話していただけるように、あなたの右手から斬り落としていきますね。次は、左手。その次は、右足を斬り落としていきますので、なるべく早く話したほうが身のためですよ?」


「わ、分かった! お前らに言っても、どうせ場所なんて分からないだろうから、俺が案内する!」


 ステラの目を見て、本気でやると思ったのか、リーダーらしき男は急いで、大きな声を上げた。


「話が早くて助かります。それでは、案内していただけますか? ただ、案内する際に、私たちを誤った場所に誘導して、殺そうとしたら、その瞬間、あなたを殺しますので、気をつけてください」


「分かってるよ! お前がその気になれば、すぐに俺を始末できるってことはな! それじゃ、案内するから、ついてこい!」


 リーダーらしき男は、なんとか立ち上がると、歩き始めた。

 三人は、その後ろをついていく。

 男の後ろには、ステラがおり、変な動きをした瞬間に、男を斬り殺せるように準備をしていた。

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