11 外出

 ――土曜日の朝の点呼から、1時間後。


 無事に休日を勝ち取ることができたアリアとサラとステラは、王都レイルを観光していた。


「やっぱり、レイルはすごいですね! サリムよりも人がいっぱいいますよ!」


 軍服から私服に着替えていた三人は、王都レイルの大通りを歩いている。

 大通りには、大勢の人が行き交っており、露店などで賑わっていた。


「それで、今日はどうしますの?」


 サラが歩きながら、アリアに話しかける。

 アリアは、サラのほうに顔を向けた。


「とりあえず、今週は満足にご飯を食べられていないので、なにか食べたいです!」


 アリアが元気良く、答える。

 月曜日以外、朝食をまともに食べていないため、今週は実質的に1日2食しか食べられていなかった。

 しかも、急いで食べることが、大半であり、ゆっくりと食事を食べることができなかった。


「うう~んですわ……ワタクシ、あまりレイルで食事ができる店を知りませんの……」


 サラが難しい顔をしながら、アリアのほうを向いて、そう言った。

 そうして、サラが困っていると、アリアの横を歩きながら、二人の話を聞いていたステラが口を開く。


「私の知っている店であれば、ご案内できますけど、どうですか?」


「本当ですの? ちょうど、当てもありませんし、ステラに案内してもらいましょうですわ! アリアもそれで、良いですわよね?」


「はい、ステラさん! お願いします!」


 アリアは、ステラのほうを向いて、そう答えた。

 こうして、三人は、ステラの案内の下、食事ができるお店へと歩いていった。






 ――10分後。


「本当に、こんな場所に食事ができる店がありますの?」


 サラは周囲を確認しながら、ステラに質問する。

 現在、三人は、大通りから外れた裏道を歩いていた。

 大通りに比べ、道の幅は狭く、建物の陰になっている場所が多いため、全体的に暗い。


「はい。安くて、量があって、おいしい店があります」


 ステラは、サラとアリアの前を歩きながら、落ちついた声で答える。


「それは願ってもないことですけど、ちょっと、ここら辺は危なそうじゃありませんの?」


 サラは、ステラに近づき、小さな声で質問した。

 裏道ということもあり、ガラの悪そうな人が歩いており、治安は良くなさそうである。


「そうですね。たまに、金品目当てに、襲われたりすることがあります」


「ええ!? メチャクチャ危ないところじゃありませんの! ステラ、アリア! 早く、大通りに戻りましょうですわ!」


 サラは小声でそう言うと、今まで歩いてきた道を引き返そうとした。


(サラさんの言うとおり、戻ったほうが良いかも)


 サラとステラの会話を聞いていたアリアは、口を開く。


「サラさんの言うとおりだと思います! ステラさん、一回、大通りに戻りましょう!」


 アリアも小さい声でそう言うと、サラとともに、大通りへ戻ろうとする。


「大丈夫ですよ。そんなに不安なら、食事をする前に武器を買いに行きましょう」


 ステラはそう言うと、右手と左手でアリアとサラの服の背中をつかみ、強引に引きずり始めた。


「ちょ、待ってほしいですの!」


「力が強すぎる!」


 サラとアリアはそんなことを言いながら、ステラに引きずられていく。

 ステラが二人を引きずりながら、数分間、歩くと、お目当ての武器屋についたようである。

 武器屋の入口の扉の上には、『あさしん』という文字が書かれた看板が掲げられていた。


「かなり怪しいお店ですわ! そもそも、本当に、この建物はお店ですの?」


 ステラが手を放すと、サラは立ち上がり、服をパンパンと叩きながら、そう言った。

 お店の建物には、看板と入口の扉しかなく、窓がなかったため、店の中の様子は分からない。


「たしかに、見た目では、普通の家と変わりませんけど、れっきとした武器屋ですよ。さぁ、行きましょうか」


 ステラはそう言うと、お店の入口の扉を開ける。

 入口の扉には、ベルがついているのか、カラン、カランという音が聞こえてきた。

 サラとアリアも、ステラの後ろをついていき、店の中に入る。


「ようこそ、あさしんへ! お、ステラではないか! なにか、武器がいるのか?」


 幼い見た目をした小さい女性であるラルベルが、店に入ってきたステラへ話しかける。


「はい。ちょっと、護身用に武器を買おうかと思いまして」


「そうか! 存分に選ぶが良いぞ! それはそうと、ステラの後ろにいる二人は誰じゃ?」


 ラルベルは、机の近くの座っていたイスから飛び降り、アリアとサラのほうに近づく。


「レイル士官学校で同じ部屋になったアリアさんとサラさんです」


「そうか! ワシの名前は、ラルベル! よろしくな!」


「サラ・モートンですの! よろしくですわ!」


「アリアです! よろしくお願いします!」


 サラとアリアはそう言うと、ラルベルと握手をした。

 ラルベルが小さいため、サラとアリアは自然に見下ろすような状態になっている。

 サラは、ラルベルと握手し終えると、ステラの手を握り、店の端へ移動した。


 アリアも、ステラとサラが移動した場所まで歩いていく。


「ちょっと、ステラ! あの幼女は、もしかして、どこかから誘拐されてきた子供とか言わないですわよね?」


 サラはラルベルに聞こえないように、小さい声でステラに尋ねる。


「いえ、違います。ラルベルさんは、正真正銘、この武器屋の店主ですよ」


「いや、店主って、幼すぎますの! 10歳か、そこいらの幼女にしか見えませんわ!」


「そうですよ! なんだか、犯罪の匂いがします!」


 サラとアリアは、小声でステラにそう言った。

 ラルベルは、誰がどう見ても、武器屋の店主には見えないような見た目をしている。


「ああ見えて、ラルベルさんは70歳を超えていますよ」


「ええ!? ウソですわよね!?」


「信じられないです!」


 サラとアリアは思わず、大きな声で驚いてしまった。

 ハッとしたアリアがラルベルのほうに顔を向ける。


「ウソではないぞ! ワシは、今年で73歳じゃ! どうだ、恐れ入ったか!」


 三人の会話が聞こえていたのか、ラルベルは、サラとアリアに近づくと、腰に手を当てて、胸をはった。


「絶対、ウソですの! 73歳のワケがありませんわ! やっぱり、どこかから誘拐されてきた幼女ですの!」


「そうに違いありません!」


「違うわ! ええい、面倒だ! 少し待っておれ!」


 サラとアリアが信じる気配がなく、業を煮やしたラルベルは、店の奥へ歩いていく。

 数分後、ラルベルが身分証らしき物を持って、アリアたちの下に帰ってきた。


「ほれ! 昔の身分証ではあるが、証拠にはなるじゃろ!」


 ラルベルは、アリアたちに向けて、身分証を差し出す。

 サラとアリアは、差し出された身分証に顔を近づける。

 そこには、ラルベルの生年月日などが書かれており、たしかに、ラルベルが今年で73歳であることが分かった。


「……本当みたいですね。というか、これ、軍の身分証じゃありませんの?」


「たしかに、私たちの持っている軍の身分証とそっくりですね」


「当たり前じゃ! ワシは元々、軍にいたのだ! ただ、お主たちが生まれる前には、辞めておったと思うがな!」


 ラルベルは、身分証を懐にしまうと、そう言った。


「はぁ……なんか、いろいろと信じられませんけど、もういいですわ」


「はい……私もサラさんと同じ気持ちです」


 サラとアリアは、ラルベルを見ながら、そう言った。

 二人は、納得できていなかったが、これ以上、突っこんだ話をすると、ろくなことにならなさそうであったため、疑うのをやめた。


「分かれば良いのじゃ! それで、護身用の剣じゃろ? そこら辺に置いてあるのから選ぶと良いのじゃ!」


 ラルベルは、三人にそう言うと、先ほどまで座っていたイスがある方向に歩きだす。


「それでは、それぞれ、好みの剣を選びましょうか」


 ステラは、サラとアリアにそう言うと、店に置かれている武器を見にいく。

 気は進まなかったが、帰るのを諦めたサラとアリアも、店に置かれた武器を一つずつ見ていく。


 30分後、三人は、気にいった剣を持って、お店のカウンターに集まっていた。

 お会計は、ステラから始めるようである。


「その剣は、50万ゴールドじゃな!」


「はい、分かりました」


 ステラはそう言うと、懐から、50万ゴールドの札束を取りだし、ラルベルに渡す。


「ご、50万ゴールド!? ステラ、お金持ちですわね!」


「信じられません!」


 いきなりポンとステラが大金を支払ったので、サラとアリアは驚いていた。

 対して、ステラはキョトンとした顔をしている。


「いや、この店の剣の中では、安いほうの部類ですよ。ちなみに、サラさんの持っている剣が、多分、100万ゴールドで、アリアさんの持っている剣が500万ゴールドのハズです。そうですよね、ラルベルさん?」


「そうじゃな! ワシの店には、品質が良い剣しか置いてないから、それくらいは、平気でするぞ!」


 ステラとラルベルの言葉を聞いたサラとアリアは、お互いに顔を見合わせた。

 二人が知っている剣の値段ではなかったため、とても買えるような代物ではなかった。


「……ワタクシ、今、2万ゴールドしか持っていませんの。だから、この剣は買えませんわ」


「私も、3万ゴールドしか持っていないので、買えません……」


 二人はそう言うと、元にあった場所に剣を戻そうとする。

 そんな二人に、ステラが声をかけた。


「お金、貸しましょうか?」


「いや、大丈夫ですの。例え、貸してもらっても、100万ゴールドなんて、すぐには返せないので遠慮しておきますわ」


「私に至っては、500万ゴールドなので、考える必要もありませんね」


 ステラのほうにアリアとサラが振り向くと、そう言った。

 そんな二人を不憫に思ったのか、ラルベルが声をかける。


「まぁ、待つのじゃ、二人とも! 二人が持っている剣は、タダでやろう!」


「え? 良いんですの?」


「冗談ですよね?」


 まさか、高額な剣を無料でもらえるワケがないと考えたサラとアリアは、ラルベルのほうを向く。

 ラルベルは、イスから飛び降りると、二人に近づいた。


「いや、冗談ではないぞ! ただ、少しばかり、お願いをしたいのだが、大丈夫かの?」


「お願いですの?」


「そうじゃ! 最近、この場所の近くで、窃盗が多発していてな! お主らには、その盗人を捕まえてほしいのじゃ! 盗人がいるとなると、ワシは安心して、眠れんのでの! 頼むのじゃ!」


 ラルベルはそう言うと、顔の前で手を合わせる。

 サラとアリアは、そんなラルベルの様子を見て、顔を見合わせた。


「それは、軍に通報すれば、良いのではないですか?」


 アリアはラルベルに向かって、そう言った。

 通常、都市には、治安を維持している軍の部隊がいるので、そこに通報すれば、すぐに対応してくれるハズである。


「いや、レイルの治安部隊は忙しくてな! 力のある貴族の通報なら、すぐに動くが、平民の通報じゃと、待たされて、そのうちに忘れ去られるのが、ほとんどじゃ! だから、軍は頼れん! そこで、お主らに頼みたいのじゃ!」


「どうしますか、サラさん? 私は、盗人を捕まえて、500万ゴールドもする剣をもらえるのであれば、受けても良いと思います!」


「うう~んですの……」


 お金に目がくらんでいるアリアとは違い、サラは悩んでいた。

 盗人を捕まえるのは良いが、返り討ちにあって、ケガをするか、最悪、死んでしまっては元も子もないためである。


「サラさん。軍人にとって、困っている人を見捨てるのは、正しいことだと思いますか? 私は違うと思います。なので、困っている人を助けて、ついでに、高価な剣をもらえる、このお願いを聞き入れるべきだと思います」


 ステラは、サラに近づくと、そう言った。

 どうやら、その言葉によって、サラの考えは決まったようである。


「分かりましたの! ステラの言うことが正しいですわ! 盗人を捕まえますの!」


「おお! ありがとうなのじゃ!」


 ラルベルは、サラの手をつかみ、ブンブンと上下に振って、喜んでいた。

 こうして、アリアとサラとステラは、盗人を捕まえることになった。

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