8 夜
――アリアが学級委員長になってから、3分後。
(はぁ、緊張するな……)
急いで走ってきたアリアは、教官室の扉の前に立っていた。
部屋の中からは、教官の怒号が聞こえてくる。
息を整えたアリアは、コンコンコンと扉を叩く。
「入っていいぞ!」
ロバートの大きな声が扉越しに聞こえた。
「失礼します!」
アリアも大きな声を出すと、教官室に入った。
部屋の中には、10人以上の教官が机に向かって、イスに座っており、何人かは、担当しているであろう組の入校生を怒鳴っている。
「お! お前が、学級委員長に選ばれたか! とりあえず、うるさくて、声が聞こえづらいから、俺の近くに来い!」
「分かりました!」
他の教官が怒鳴っている声に負けないように、アリアも大きな声を出すと、ロバートが座っているイスまで近づいた。
「まぁ、お前は、実技試験で俺の攻撃を避けれたし、実力は十分だから、学級委員長を任せても大丈夫だろう! 弱いやつには、誰もついていかないからな! 学級委員長として、しっかり、4組をまとめろよ!」
「はい!」
「それじゃ、さっそくだが、今、4組の教室に、入校式で倒れたやつを含め、全員がいる状態だ! そいつらを連れて、校庭に整列させろ! 今から、10分以内だ! 余裕だろ?」
「はい! それでは、失礼します!」
「おう! 行ってこい!」
アリアはお辞儀をすると、建物の1階にある教官室を出て、2階にある4組の教室へ向かう。
「今すぐ、全員、校庭に集合してください!」
アリアは4組の教室に入るなり、大きな声で叫んだ。
4組の入校生たちは、疲れ切った顔をしており、動くのもつらそうである。
「10分以内に集合しないといけないので、急いでください!」
ノロノロと動いている4組の入校生たちに向けて、大きな声を出しながら、アリアは、4組の入校生を校庭に整列させた。
「よし! 10分以内に整列できたな! やっと、時間を守れたか!」
4組の入校生が整列し終わると、ロバートは腕を組みながら、そう言った。
「それじゃ、今から、レイル士官学校の周りを、5周走ってもらう! まず、お前たちは、剣を振るとか、部隊を指揮するとかの前に、体力がなさすぎる! それを、なんとかするための訓練だから、頑張れよ!」
ロバートがそう言うと、4組の入校生たちはレイル士官学校の周りを走り始める。
レイル士官学校の周りを1周、走ると、大体、3kmほどであった。
そのため、5周走ると、15kmほどである。
(体が重い……)
アリアは走りながら、そう思った。
午前中に腕立て伏せの姿勢を長時間続け、午後の入校式では長時間立った状態であったため、アリアの体は疲れ切っていた。
アリアは、周りを確認すると、限界なのか、入校生たちの多くがフラフラとしながら、走っている様子が見えた。
(これ、全員、走り切れるかな……)
アリアは、4組の入校生が走っている集団の後ろに移動すると、少し遅れている入校生を励ます。
そんなこんなで、2時間後。
4組の入校生たちは、レイル士官学校の周りを、5周、走り終えた。
途中、体力が限界で走ることができなくなった入校生を、ステラが担いで走ったり、余裕がある入校生が肩を貸して走らせるなどをして、なんとか、全員が走り切ることができた。
空はすっかり暗くなっており、校庭を照らすように松明が置かれていた。
「まぁ、今日はこんなもんで良いか! あんまりやらせ過ぎてもしょうがないしな! 学級委員長から明日の予定を聞いた後は、さっさと夕食を食べて、寝ろ! 分かったか?」
「はい!」
ロバートの言葉に、4組の入校生たちが大きな声で返事をする。
その後、アリアは明日の予定を教官室でロバートから聞き、4組の教室で、入校生たちに聞いたまま伝えた。
「それでは、皆さん。明日も頑張っていきましょう」
アリアは教壇に立ち、疲れた声で、そう言う。教室は、ロウソクが灯され、明るかった。
4組の入校生たちは、アリアから明日の予定を聞き終わると、急いで、夕食を食べるために食堂へ向かおうとした。
そのような状況で、一目で貴族と分かる男性がイスから立ち上がり、口を開く。
「少し待ってくれ! もしかして、君が学級委員長をやるのかい? 冗談だろ?」
その声を聞いた入校生たちが、足をとめる。
「私もやりたくありませんけど、そうみたいですよ」
アリアは教壇の上から、声の主のほうに顔を向けた。
「いつ決まったんだ!? 僕は聞いていないぞ!」
「入校式で最後まで倒れなかった人たちの中から、学級委員長を決めろとロバート大尉に言われて、その結果、私になりました」
「そんなのはおかしい! 学級委員長は4大貴族の一人であるこの僕、エドワード・ブラックこそ、ふさわしいと、皆も思わないかい!?」
エドワードは、大きな声を上げる。『そうだ、そうだ!』、『エドワード様こそ、学級委員長にふさわしい!』という声が、4組の入校生の一部からあがった。
4大貴族はアミーラ王国の中で、アミーラ王国の王家に次ぐ力を持った貴族であった。
ブラック家、ホワイト家、レッド家、ブルー家の4つが4大貴族である。
(あ、これ面倒なやつだ)
直感的にそう思った、アリアは口を開く。
「分かりました! ロバート教官に、エドワードさんが学級委員長をやりたいと言っていると伝えてきます!」
アリアは大きな声を出して、4組の教室を出ようとする。
その様子を見たサラとステラが、口を開く。
「アリア、待ちますの! 学級委員長は、あなたに決まったハズですわ! だから、その必要はありませんの!」
「サラさんの言うとおりですね。こんな、ひ弱な方が、4組の学級委員長になったら、4組の恥だと思います」
「なんだと!? 僕では、学級委員長を務められないと言うのか!?」
「そうですわ!」
「逆に、なぜ、大した実力もないのに学級委員長を務めようと思えるのか、私は不思議に思います」
サラとステラがそう言うと、『そのとおりだ!』、『入校式で倒れるような者には任せられない!』と平民の二人が、大きな声で叫ぶ。
その結果、午前中のように、また、サラとステラを中心としたグループとロバートを中心としたグループが一触即発の状態になった。
「皆さん、落ちついてください! また、ここで乱闘を始めたら、午前中のようになりますよ!」
アリアが大きな声を上げると、少し落ちついたようである。
ふぅと息を吐いたアリアは、ふたたび、口を開く。
「とりあえず、ロバート大尉に聞いてきますので、少し待っていてください!」
アリアはそう言うと、急いで、教官室へ向かう。
教官室に到着し、ロバートに事の次第を報告すると、アリアはロバートとともに、4組の教室へ戻った。
「お前ら、あんだけ午前中にやられたっていうのに、懲りないな! それで、エドワードは、アリアが学級委員長を務めるのが不満なんだろ? なにが不満なんだ?」
ロバートは面倒そうに、エドワードに聞く。
「私はアリアを認めていません! どう見ても、私より、弱そうではありませんか!? それならば、4大貴族の一人である私が、学級委員長を務めたほうが良いと思ったまでです!」
エドワードは自信を持って、ロバートに答える。
エドワードの言葉を聞いたロバートは、頭をかきながら、口を開く。
「まぁ、たしかに、有力な貴族の名前だけで、ある程度、学級委員長として、組はまとめられるだろう。だが、本当の実力がなければ、誰も、ついては来ない! そこで、ロバート! お前は、今日、入校式で倒れていたな! 倒れなかったアリアより、お前のほうが本当に実力はあると言えるのか?」
「くっ! ですが、少なくとも、アリアより、剣技の腕はあるつもりです!」
エドワードは、ひるみながら、そう言った。
その言葉を聞いたロバートは、ニヤリとする。
「ほう! 本当にそう思うのか? じゃあ、訓練場に移動して、アリアと試合をしてみろ! 審判は俺がしてやる!」
「望むところです!」
エドワードは立ち上がりながら、そう言った。
「よし! それじゃ、訓練場に移動するぞ! お前らも、アリアの実力を見る良い機会だから、訓練場に集まって、観戦しろ!」
「はい!」
4組の入校生は大きな声で返事をする。
その後、ぞろぞろと4組の入校生は、訓練場へと移動を始めた。
(え? 私の意見は?)
アリアはそう思ったが、サラに引っぱられ、渋々、訓練場へ向かった。
――10分後。
アリアは、訓練場で、木剣を構えていた。松明がそこら中に置かれ、訓練場は明るかった。
少し離れた場所では、エドワードが木剣を構えている。
4組の入校生たちは、そんな二人の様子を離れた場所から見ていた。
「よし! 準備ができたみたいだな! それでは、始めろ!」
アリアとエドワードの近くにいたロバートが大きな声を上げる。
(とりあえず、様子を見るか……)
アリアは、いきなり斬りかかるような真似はせず、エドワードの様子を見ていた。
「どうした!? 来ないなら、こちらからいくぞ! はぁぁぁ!」
エドワードは叫びながら、剣を振りかぶり、アリアに斬りかかる。
アリアとエドワードとの距離が縮まっていく。
(いや、遅すぎる! これじゃ、訓練を始まったころのサラさんのほうが、全然、マシだ!)
アリアはそう思いながら、上段からのエドワードの攻撃を、半身で避ける。
「なに!?」
アリアに避けられると思っていなかったのか、エドワードは驚きの声を上げた。
(……もう、様子を見る必要はないな。終わらせるか)
アリアはそう思うと、一回転して、横なぎに剣を振るう。
ブンという音とともに、剣を振り終わって無防備なエドワードの胴体に向かって、アリアの剣が迫る。
「グッ……」
アリアの攻撃が胴体に当たったエドワードは、うずくまってしまった。
「勝者、アリア!」
ロバートの大きな声が訓練場に響く。
あまりにも、あっけなく勝負がついてしまったため、4組の入校生たちは、ポカンとしている。
そんな4組の入校生たちの前に、ロバートは歩いていった。
「お前ら! アリアの実力は分かったか!? とはいっても、あっけなく終わったから、実力もくそもないか! まぁ、良い! これでも、アリアが学級委員長にふさわしくないと思うやつは、今、ここで、アリアと試合しろ!」
ロバートは大きな声を上げると、4組の入校生たちを見わたす。
4組の入校生たちは、下を向いたまま、誰も声を上げようとしない。
どうやら、アリアに挑もうとする入校生は、誰もいないようであった。
「誰もいないようだな! それじゃ、4組の学級委員長になったアリアを、しっかりと支えていけよ!」
「はい!」
ロバートの声を聞いた4組の入校生たちは、大きな声で返事をする。
その後、訓練場で4組の入校生たちは解散した。
アリアとサラとステラは、訓練場から食堂へ、急いで移動する。
「はぁ……やっと、ゆっくり、食事が食べられますの……」
机に向かって、イスに座ったサラは、夕食を食べ始める。
「本当に、そうですね」
ステラも夕食を食べながら、サラに同意した。
「もう、本当に今日は散々でしたよ……おまけに、学級委員長になってしまいますし……」
アリアは夕食を食べながら、ジト目でサラのほうを見る。
「大丈夫ですの! アリアが学級委員長に専念できるように、協力しますわ! ね、ステラ?」
「サラさんの言うとおりです。だから、学級委員長、頑張ってください、アリアさん」
「はぁ……分かりました」
アリアは諦めた声でそう言うと、夕食を食べる。
20分後、夕食を食べ終わった三人は、女子寮へ戻っていった。
三人は、女子寮に戻ると、今日着た軍服を洗濯し、女子寮にある大浴場で汗を流す。
その後、明日の準備をして、人がいるかどうかを確認するための点呼に出た後、三人は寝る準備をした。
「それでは、もう、寝ますの! おやすみなさいですわ!」
「サラさん、アリアさん、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
寝間着に着替えた三人は、そう言うと、すぐにベッドの上で、寝始めた。
長かった一日が、やっと、終わりを迎えた。
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