レイル士官学校を目指す

 屋敷のお風呂から上がったアリアとクレアは、現在、屋敷の食堂にいた。


「うわぁ! おいしそうです!」


 アリアは、目の前に出された料理に目を輝かせている。

 そんなアリアを使用人たちは、微笑ましく、見ていた。


「たしかに、久しぶりの料理だから、いつもにも増して、おいしそうに見えるな!」


 クレアも、目の前に出された料理を見て、そう言った。


「とりあえず、早く、食べましょうですわ! もう、我慢できませんの!」


 サラは、クレアのほうに顔を向ける。

 どうやら、クレアが帰ってくるまで、夕食を食べないようにしていたようだ。


「それもそうだな! さっそく、食べようか! いただきます!」


「いただきますですわ!」


「いただきます!」


 三人は、そう言うと、食事を食べ始めた。


「おいしいです! 今まで、こんなにおいしい料理を食べたことがありません!」


 アリアは、あまりのおいしさに感動している。


「それは、良かった!」


 アリアのほうを向きながら、クレアがそう言った。

 アリアは、夕食を夢中になって、食べている。

 アリアとサラとクレアは、ときおり、会話をしながら、夕食を食べた。


 20分後、三人は、夕食を食べ終わっていた。


「そういえば、サラって、来年の4月にレイル士官学校に入る予定だよな? 勉強はともかく、剣の訓練は大丈夫なのか?」


「もちろん、大丈夫ですわ!」


 サラは立ち上がると、自信ありげに答える。


「本当か? それじゃ、今から、アリアと試合してみろ!」


「え? 今からですの?」


 まさか、夕食を食べた後に、剣の試合をすると思っていなかったサラは、キョトンとした顔をしていた。


「そうだ! アリアも、サラのために、試合をしてくれないか?」


 クレアが、アリアのほうに向く。

 軍の上司であり、いろいろとお世話をしてくれたクレアの頼みのため、アリアには断る選択肢がなかった。


「分かりました! 私で良ければ、サラさんのお相手をさせていただきます!」


「ありがとう、アリア! それじゃ、さっそく、中庭に行くか!」


「待ってくださいですの! まだ、ワタクシは試合をするなんて、言ってませんわ!」


 クレアによって、勝手に話が進められていたので、サラが抗議の声を上げる。


「なるほど。さっきの言葉はウソだったワケか。そうではなかったら、ちょっと、試合するくらい大丈夫だよな? しかも、アリアは、サラよりも年下なんだぞ。年下の相手に負けると、サラは思っているのか?」


「違いますわ! ただ、夕食を食べた後に動きたくありませんの!」


「なに情けないことを言っているんだ! 戦場では、敵が、いつ襲ってくるのか分からないんだぞ! とりあえず、アリアと試合をして、さっきの言葉がウソじゃないことを証明してみろ!」


「もう、分かりましたの! 試合をしますわ!」


 サラは観念したのか、アリアと試合することにした。


「よし! それじゃ、中庭に行くぞ!」


 クレアは、サラとアリアを連れて、屋敷の中庭へ移動し始める。






 ――10分後。


 アリアとサラは、木製の剣を構えていた。


「一応、言っておくけど、木製の剣とはいえ、当たったら痛いからな! ちゃんと、集中しろよ!」


「分かっていますの!」


「分かりました!」


 クレアの注意に対して、アリアとサラが元気良く、返事をする。

 今回の試合の審判役を、クレアがやってくれることになっていた。

 二人の準備が完了したことを確認したクレアは口を開く。


「それでは、始め!」


「いきますの!」


 クレアの声を聞くなり、サラがアリアとの距離を一気に詰めた。

 どうやら、サラはアリアになにもさせずに、勝負を決めたいようである。

 サラは上段から、アリアに向けて、剣を振り下ろす。


 ピュンという音とともに、アリアの頭に、サラの剣が近づいてくる。


(……剣の振りは、悪くないけど、遅いな)


 つい最近まで、戦場で命をかけて、戦っていたアリアからすると、あくびが出そうなほど、サラの剣の振りは遅かった。

 アリアは、サラの上段からの剣の攻撃を、余裕を持って、避ける。


「なッ!」


 まさか、アリアに攻撃を避けられると思っていなかったのか、サラは驚いた声を上げた。

 アリアは、そのまま、サラから少し離れると、クレアのほうを向く。

 クレアは、アリアの視線に気づいたのか、親指で首を斬る仕草をする。


(容赦なく、やれってことですか)


 アリアは、クレアのほうを向き、頷くと、サラのほうに顔を向けた。


「はああああですわ!」


 サラはというと、アリアがよそ見をしていた隙になんとか、攻撃をしたいのか、剣を振りかざしている。

 アリアは、振りかざされる剣に、自分の剣を当てた。

 その結果、パンという甲高い音とともに、サラの剣が弾き飛ばされる。


「あ!」


 サラは剣を弾かれ、短い声を上げていた。

 アリアは、動きが止まったサラの脇腹に向けて、剣を振るう。


「ぐへぇ!」


 脇腹にアリアの剣が当たったサラは、そのまま腹を抱え、吐きそうな顔をしながら、うずくまってしまった。

 クレアが宣言するまでもなく、アリアの勝利である。


「どうだ、サラ? まだまだ、自分が、弱いことは分かっただろう。もっと、剣の訓練をしたほうが良いよ」


 クレアは、うずくまっているサラの近くにきていた。

 アリアは、黙って、その様子を見ている。


「……分かりましたわ」


 サラはそう言うと、なんとか立ち上がった。

 クレアは、サラに手を貸すと、そのまま、サラの部屋へ連れていった。

 その後、クレアは、自分の部屋にアリアを招く。


「いや、悪いな! 妹と試合をしてもらって!」


「いいえ、大丈夫です」


 アリアの答えを聞くと、クレアは、ベッドに座りながら、お酒をゴクゴクと飲んだ。

 アリアは、その様子を、イスに座りながら見ている。


「プハー! やっぱり、酒は最高だな!」


 クレアはそう言って、自分のベッドの近くの棚にお酒を置く。


「それでさ……アリアにお願いがあるんだけど、大丈夫か?」


「私ができる範囲であれば、大丈夫です。それで、お願いとは、なんですか?」


 アリアは、クレアの顔を見つめる。

 クレアは、少しバツが悪そうな顔をしていた。


「いやさ、こんなことをアリアに頼むのは、心苦しいんだけどさ、サラの剣の訓練相手をしてくれないか?」


「え? 私に頼むよりも、クレアさん自身が、サラさんの訓練相手をしたほうが良いのではないですか?」


 アリアはキョトンとした顔をしながら、クレアにそう言った。


「いや、もちろん、私がサラの訓練相手をできれば、それが良いのは間違いない。だけど、明日から、今回の戦争の報告書とかの書類仕事をしないといけないから、なかなか、サラとの訓練のために、時間が取れないんだ。その点、アリアは多少なら、時間があるだろう? だから、頼む!」


「そういうことなら、分かりました。ただ、私がサラさんの訓練相手になるかは、微妙ですよ? 私は、誰かに剣を本格的に教わっていないので、完全に我流ですし」


「大丈夫だ! さっきの試合で大体、アリアの剣の実力は分かった! さすが、最前線で生き残っただけの実力はあると思ったな! それに、戦場で必要なのは、キレイな剣技じゃない! 相手をいかに効率良く、倒せるかの一点だけだ! サラには、アリアとの訓練を通して、そのことを学んで欲しい!」


「分かりました。それでは、サラさんの訓練相手を務めさせていただきます」


「頼んだぞ!」


 クレアはそう言うと、また、お酒を飲み始める。

 アリアは、今、クレアに話そうか迷ったが、今後、クレアが忙しくなることが分かったので、士官学校に入りたいことを相談しようと決めた。


「クレアさん、前に話してくれた士官学校の件なのですが、入校を目指そうと思います」


「そうか、分かった! アリアの人生だ! 士官を目指すのなら、私は応援するよ! ところで、士官学校に入るためには、試験があるけど、勉強は大丈夫か?」


「え? 試験があるんですか?」


 アリアは驚きながら、クレアの顔を見る。

 クレアはというと、呆れた顔をしていた。


「はぁ……貴族は、試験なしで入れるけど、平民は試験があるんだよ。というか、常識だと思ってたけど、知らなかったのか?」


「はい、初耳です」


「それじゃ、もちろん、試験の内容も知らないだろう?」


「はい」


 予想通りの返答を聞いたクレアは、お酒を飲むと、お酒の容器を持ったまま、口を開く。


「まず、試験は実技試験と筆記試験と面接がある。まぁ、実技試験は、アリアの実力だったら、問題ないだろう。ただ、筆記試験は、難しくはないけど、それなりの量があるから、時間がかかる。あと、面接は、聞かれたことに答えれば大丈夫だ。だから、この中で、アリアがやらなければならないのは、筆記試験の勉強だ。私が教えてあげることができれば良いんだろうけど、時間がないからな……そうだ! ちょうど、サラがいるから、勉強はサラに教えてもらえ!」


「良いんですか?」


 試験の内容を大体、理解したアリアはクレアにそう言った。


「大丈夫だ! サラだって、剣はあんまりだけど、勉強はできるハズだから、教えてもらえ! これでサラとアリアの足りないところを教え合えるから、ちょうど、良いだろう!」


「分かりました! サラさんと一緒に頑張ります!」


 アリアは気合を入れた声を上げる。

 その後、アリアとクレアは、戦争の話をしながら、夜を過ごした。

 結局、クレアが酔っ払って、寝るまで、アリアはクレアの部屋にいた。


 その結果、屋敷の来賓用の部屋で、アリアが寝たのは、夜遅くになってからであった。






 ――次の日の朝。


「それでは、お願いしますの!」


 一晩寝て復活したサラがやる気のある声を上げる。

 対して、アリアは寝不足で頭が働いていなかった。

 サラへの返答も、力がなかった。


「分かりました。それでは、いつでも、かかってきてください」


 アリアは力のない声で、そう言う。


「分かりましたの! それでは、いきますわ!」


 サラはそう言うと、アリアの胴体に向けて、思いっきり剣を振るう。

 アリアは、サラの攻撃を弾くと、ガラ空きのサラの胴体に向かって、剣を振るおうと思った。


「あ!」


 剣を振るった瞬間、アリアは声を上げる。

 ちょっと、サラの胴体に当てるつもりが、力加減を間違え、かなり強く剣を振るってしまったためであった。


 ビュンという音ともに、サラの胴体に剣が当たる。


「ゴフ!」


 サラは口から息を吐くと、そのまま、うずくまってしまう。


「すいません、サラさん! 力加減を間違えました!」


 アリアは急いで、サラに駆けよった。

 すると、サラは剣を支えにしながら、なんとか立ち上がる。


「……全然、大丈夫ですわ! ビシビシやってくださいまし!」


 まったく大丈夫そうに見なかったが、サラは剣を構える。


「そうですか! それでは、いきますね!」


 思考が働いていなかったアリアは、サラの言葉を合図に、戦場で行うような苛烈な攻撃をし始める。


「ちょ、待ってくださいまし!」


 いきなりアリアの攻撃が激しくなったので、サラはアリアを止めようとする。

 だが、サラの静止の声が聞こえていなかったアリアは、思いっきりサラの顔面に向けて剣を振るう。


「ああああああああ! 痛いですのおおおお!」


 顔面に攻撃が当たったサラは、大きな声で叫んだ。

 アリアはサラの声で、我に返ると、また、うずくまったサラの下に駆けよる。


「大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫じゃありませんの! 顔がなくなったかと思いましたわ!」


 サラは顔を押さえながら、大声を上げる。


「ワッハッハ! 朝から、やられてるな、サラ! それじゃ、頑張れよ!」


 ちょうど、サリム基地に行こうとしていたクレアが、サラの様子を見て、大声でそう言った。


「笑いごとではありませんわ!」


 サラは抗議のために、クレアの声のしたほうに顔を向けたが、すでにクレアはいなかった。


 その後、二人は日が沈むまで訓練をした。

 その結果、サラは体の至るところが腫れてしまい、痛々しい姿になってしまう。

 対して、アリアは無傷であり、少し汗をかいた程度であった。

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