第6話 ホテル

「ここが私のお家」


 黒野猛輝と戦ってからすこし、街案内も最後を迎えた。

 ここはこの廃墟街の中でも比較的新しく、そこまで荒廃もしていない宿泊施設。

 というか、ラブホテルだった。

 中は荒れていてゴミだらけで掃除がされた形跡はなく、当然のように従業員もいない。そのくせ電気は来ていて中は明るい。


「こっちこっち」


 音が鳴ってエレベーターが到着する。

 設定されたのは最上階。


「ラブホに住んでるのか」

「そだよ。最上階と屋上は全部、私の」


 琴音が得意げに話すしていると最上階につく。

 エレベーターから降りると、まず淡い紫色の照明に照らされた。その薄暗く妖しげな雰囲気は如何にもと言ったところ。エントランスとは違って、その雰囲気を壊すような荒れた様子もゴミもない。

 琴音は慣れた様子でかつかつと廊下を渡り、一室に手をかける。

 そこは所謂VIPルームと呼ばれるような部屋で高級感で溢れていた。

 大理石の壁、天蓋付きのベッド、ライトアップされたジャグジーなどなど。

 一泊するのにいったい幾ら掛かるんだか。


「お腹空いたでしょ。ご飯食べよ」


 テーブルの上にざっとぶちまけられ、端から転げ落ちたおにぎりを掴む。

 ちょうど鮭だった。


「楽しかった?」

「ん?」


 おにぎりを口に運ぼうとして止める。


「笑ってたでしょ? 魔法をブッパして」


 そう言われて、ようやくあの時の感情に説明がついた。

 そうか、俺は人を殴って、凍て付かせて、楽しかったのか。

 およそまともな人とは思えない感情だな。


「――あぁ、楽しかったよ」

「ならよかった。私も食べよっと」


 琴音に出会って知らない自分が開拓されているようだった。

 これまでのことがたった一夜の出来事だなんて信じられない。

 俺はきっと可笑しくなっていて、ずっと可笑しいままなんだろう。

 それすらも悪くないと思い始めている。

 自分の本性がこんなだったとはな。

 これからどんどん暴かれていくんだろう。

 目を逸らしたくなるような自分の本性が。

 これから俺の新しい人生が始まる。


「はっ」


 短く笑って、食べ損ねていたおにぎりに齧り付いた。

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闇落ちした神狼の獣人はダークウェブで超絶人気の犯罪系インフルエンサーに溺愛される 黒井カラス @karasukuroi96

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