大虎化け

@BB-Yuke

大虎化け

時は春秋戦国時代。。中国大陸の中心では百あった国々が淘汰され、秦、趙、魏、韓、楚、燕、斉の七大国、つまり戦国七雄が中華の覇権を争う時代となっていた。しかし文明は七雄の外にも広がっていた。七雄西端の国、秦のさらに西にも山民族の世界が広がっていた。この地でも数十の族による山界の覇権をかけた争いが繰り広げられていた。中でも周りからの忠誠心が厚く人気のある若き王ヨタワ率いるヨウ族と、圧政を敷く絶対的支配者ローゾ率いる大族、ケン族が力を強めている。ほかの族はこのどちらかに吸収される。または同盟を結ぶことで自分の族を守っていた。そしてここ最近、いや、ヨタワがヨウ族の王になってから、ヨウ族の勢力は何倍にも膨れ上がっていた。ローゾはそれが気に食わない。所詮はガキだと侮っていたヨタワがここまで力をつけるとは。近いうちに滅ぼしておかなければ。ケン族は戦闘の準備を始めた。それにいち早く気付いたのはヨタワの側近であるバオウだった。ヨウ族において、バオウは、ヨタワに軍事的な面を全て任されていた。そしてヨタワ自らは政治的な面に専念していた。バオウはヨウ族最強の戦士である。しかし軍事面を任された理由は強さだけではない。彼はヨタワ同様皆に好かれていた。彼は常に味方の兵に気を配り、投降した敵や、侵攻先の非戦闘員の民などを一切傷つけない。それどころか温かくヨウ族に迎え入れ、他の者同様に扱う。当然バオウはヨタワにケン族のことを伝えヨウ族も戦闘準備を始めるが集まった兵力はおよそ6000。対するケン族は翌月、2万を超える軍勢を率いてヨウ族の領地に侵攻してきた。バオウはヨタワの護衛に2000を残し、残りの4000を率いて戦場に向かっていった。バオウ出陣から1時間後、ヨウ族軍は開戦地ラゴの森に着いた。戦士の雄叫びと共にバオウが先陣をきる。開戦早々ヨウ族軍は猛攻を見せる。ケン族先鋒隊は1万。そのすぐ後ろにローゾ率いる1万の本軍がある。ローゾは部下に指揮を任せ、側近たちと双六をしている。報告などいちいち聞いてない。絶対に勝てるという自信があったのだ。先鋒隊を率いてるのはローゾが絶対的信頼を置くゴーバ。しかしこの時にはもうゴーバの胴と首は離れていた。ヨウ族軍は敵先鋒隊をあっという間に蹴散らし、本軍に突撃。もう半分のところまで来ようとしていたが、流石にヨウ族軍の猛攻もスピードが落ちる。数はおよそ半分にまで減った上、ここまで突破してきた疲労、そしてローゾ本軍の精鋭による消費が激しい。だが一人だけ止まらない漢がいる。バオウだ。いや、もうそこにはバオウはいなかった。そこにいたのは一匹の止まることを知らぬ敵に飢えた大虎だった。ローゾはやっと事の重大さ知ったが遅かった。馬に跨った時にはもう目の前に大虎がいた。開戦からおよそ1時間後の出来事だった。残ったケン族軍は投降し、戦は収束。とはならなかった。大虎が止まらないのだ。そこにはもういつもの温かいバオウはいない。冷徹な虎だけだ。みるみるうちに投降兵を斬っていく。ヨウ族の誰も止めることができずただ見つめることしかできなかった。さらに1時間後。バオウの異変を聞きつけたヨタワが駆けつけてきた。血の海にただ一人立ち、呆然としているバオウを見てヨタワは怯えるヨウ族の若い兵にこう言った。「ここラゴの森はバオウの生まれ育った地だ。しかし20年近く前、ローゾに攻め込まれバオウの族は壊滅。バオウだけが生き残った。その2年後に我らはこの地をローゾから奪ったが、その時我らは多くの食い殺された動物の死骸を見た。ある夜、見張の兵が消えたとの報告を受け1000を率いて向かうと、見張の内臓を貪る虎のような獣がいた。私は自ら剣を取りその獣を取り押さえた。それがバオウとの出会いだ。その時は本当に人とは思えなかった。言葉も話せない状態だった。だが我々は彼をヨウ族に迎え入れた。我々は獣も同然だった彼を差別することなく同じように接した。すると次第に彼も人間性を取り戻し、今では大変頼もしく、皆から好かれる私の右腕だ。人とはやはり周りから影響を受けながら生きていくものなのだな。」と。絶対的支配者ローゾを討ったことで、ヨウ族の領地は西の山界ほぼ全域に広がり、争いは無くなった。もうあの大虎が現れることもないだろう。

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