最終話:僕のキャトルヴァンディス。
僕はなぜベルゴルスがキャトルヴァンディスの言った言葉にビビって退散
したのか分からなかった。
キャトルヴァンディスの発する言葉に悪魔を撃退するほどの特別な効力がある
んだろうか?
「もう大丈夫ですよ、ピーター」
「でも、これから長い戦いになるかもしれません」
「もしかしたら、最終的にはこの十字架を使う時が来るかもしれませんね」
「けっして隙を見せないように、気持ちが萎えたほうが負けです」
「強い意志と勇気が必要ですよ」
この夜がこの戦いの始まりなんだろう。
ここから僕とキャトルヴァンディスと悪魔との長き攻防がはじまって行く
ことになるのだった。
最初の悪魔ベルゴルスが現れてから数年。
ぼくは二十歳になっていた。
そして僕のキャトルヴァンディスは24才になっていた。
僕たちは、というよりキャトルヴァンディスは今でも夜な夜な現れる悪魔と
戦って僕の心の闇を悪魔に奪われないよう守っていてくれた。
それでもまだ彼女の胸の剣の十字架は一度も使われていない。
彼女が十字架を使う時って、どんな恐ろしい悪魔がやって来る時なんだろう?
悪魔がやってくるのは暗くなってから・・・あいつらは陽の光をすこぶる
嫌うらしいから昼間はまず出てこない。
だから昼間だけは、普通にキャトルヴァンディスとの平和が保たれていた。
父親は相変わらず仕事で家には帰ってこなかった。
僕は二十歳になって子供の頃よりは逞しく少しは穏やかな大人になっていた。
それはとりもなおさずキャトルヴァンディスのおかげだろう。
でも、僕の心には未だに心の闇は深く潜んでいる。
だからいつまでも悪魔がやって来る。
キャトルヴァンディスは、自分の欲のために子供を放置したままの
非道な父親と違って、時に厳しく、そして優しく僕に遠慮することなく
真っ直ぐな気持ちで僕に接してくれた。
僕は子供の頃はほんとに父親が憎かった。
すくなからず亡くなった母親は父親から頻繁に暴力を受けていた。
その光景をドアの隙間から見ながら僕は泣いていた。
もしキャトルヴァンディスが僕の前に現れなかったら、僕は父親を
殺していたかもしれない。
そして、いつしかキャトルヴァンディスは僕の心に愛というトキメキを
与えた。
毎日、顔を合わすのは彼女ただ一人。
放っておいても情が湧く・・・
最初は、姉に対するようなほのかな憧れだった・・・そして母親に対して
感じる母性。
それは少しずつ異性に対する好き、愛という気持ちに変わっていった。
僕はキャトルヴェンディスに女性を感じ始めた。
憧れであって、愛する人・・・。
でもそれをクチにするのは怖かった。
そしてそれは許されないことだとも分かっていた。
彼女は今はメイドとは言え、もと修道女・・・神に仕える人。
どんなに願っても、僕の夢は叶えられないんだ。
でも僕は彼女を愛してしまったことに後悔はない。
永久に片思いで終わってもかまいはしない。
もしこの先、僕の前に悪魔が現れなくなったらキャトルヴァンディスは、
また過去の僕のような心に闇をかかえた子供のところに行ってしまうん
だろうか?
だから僕はずっと心に闇をかかえていなければならないんだ。
これから先もキャトルヴァンディスが僕の元を去ってしまわないように・・・。
eternally.
僕のキャトルヴァンディス。 猫野 尻尾 @amanotenshi
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