第41話 「ここからは俺も本気を出す……!!」
「なっ、何だお前たちは!?」
「ここを何処だと思っている!? さっさと立ち去れ!!」
「――うるせぇええええええええ正義っ!!」
「「ごぶるぁああああっ!!?」」
城の正面扉を守っていた兵士たちを正義パンチで寝かしつけ、俺たちは遂に城の中へ侵入を果たした。
城内は居住性を高めるべく改装されているのか、入った先は広いエントランスロビーで、床には赤い絨毯が敷かれている。
「この城の中に、姫様が……!!」
「しかし、いったい何処に囚われておられるのか……!!」
姫様の居場所を探しているのだろう、アナベルたちがあちらこちらに視線を飛ばすが、俺は安心させるように告げる。
「俺に任せろ!! 絶対に姫さんを見つけ出してみせるっ!!」
「旦那様……!!」
「ギルガ殿……!!」
さて、まずは……、
「そこかぁああああああああっ!!!」
俺はホールの壁面に向かって跳躍すると、その壁面を蹴り更に跳躍。吹き抜けになっているホールの天井部分にまで跳び上がった!
向かう先にあるのは豪奢なシャンデリア――その天井との接続部! シャンデリアを吊り下げる頑丈そうな鎖に手を伸ばすと、躊躇うことなく引き千切るっ!!
そして――にゅるんっ! と。
巨大なシャンデリアをポケットに収納しながら、床に着地する。
「ぎ、ギルガ殿、今のは!?」
レオナが問うてくるのに、俺は警戒心に満ちた表情で答える。
「お前らも気をつけろ! 今のは侵入者にシャンデリアを落として始末するための罠だっ!!」
「――っ!!? な、何だって……!?」
「そんなものがあったでござるか……!! 西方大陸の城も所詮は城。ヤマトの城と同じように、内部には戦を想定しての罠が満載というわけでござるな……!!」
「――そういうことだっ!!(断言)」
レオナたちに警戒を促したところで、いよいよ城内の探索に移る。
「ここからは俺も本気を出す……!!」
「「「――――っ!!?」」」
「ギルガ殿の、本気……!?」
「何て覇気なのよ……っ!?」
カッ!! と、俺は両目を見開き、ドラゴンアイを全開にした。
説明しよう! ドラゴンアイとは竜眼と違って、魔力を見るような特殊能力はないが、ドラゴンに生来備わる財宝を見分ける能力に特化した眼力であるっ!!
この目の前には、宝石や貴金属類ではなくとも、価値ある品は逃れること叶わない!!
そして、ここから更に……!!
「――くんくん……!!」
ドラゴンノーズ発動!!
説明しよう!! ドラゴンノーズとは財宝の気配を嗅ぎ分けるドラゴンの嗅覚であるっ!!
貴金属類の微かなニオイ分子を嗅ぎ取っているわけではない。第六感とでも言うべき超直感力が、ドラゴンを財宝の在処へと導くのだ!!
「行くぞお前ら! 俺について来い!!」
「「「了解!!」」」
「姫様、今、参ります……!!」
そして俺たちは城内を駆け出した!!
にゅるんっ! にゅるんっ! にゅるんっ! にゅるんっ! にゅるんっ!!
ロビーに飾られていた重そうな全身鎧の中に姫様が隠れているのではと収納し、廊下の壁に飾られた絵画の裏に隠し部屋への入り口か、その入り口を開くための仕掛けがあるのではないかと収納し、高そうな花瓶の中に姫様への手掛かりがあるのではないかと収納し、応接室に敷かれていた毛足の長い高そうな絨毯の下に、地下への入り口があるのではないかと収納し、壁に飾られていた実用性皆無だが、無駄にキラキラした装飾剣を収納して収納するっ!!!
「クソっ! また外れか! だが! 俺は諦めねぇっ!! 絶対に姫さんを見つけてみせるっ!!!」
「侵入者だぁああああああああっ!!!」
「貴様らっ!! いったい何をしているっ!!」
「こいつらを捕らえろぉおおおおおおおおおおっ!!!」
当然、城内を駆け回っていれば、使用人やら兵士たちやら、様々な者たちと遭遇する。
俺たちを見てさっさと逃げるか、壁にめり込みそうなほどに背中を預けて道を開ければ良し!!
だが、正義の行いを邪魔しようとするならば容赦はしない!!
「うぉおおおおおおおおおっ!! 姫さんは何処だぁああああああっ!!? 姫さんを出せぇええええええええっ!!!」
「!? 貴様らはまさかぶげぇえええっ!!?」
「王女殿下を奪還にきたごぉおおおおおっ!!?」
「ひっ、姫様ならば騎士団のぼほぉおおおおおっ!!?」
正義パンチ! 正義パンチ! 正義パンチ!!
俺たちは邪魔者を排除しながら城内を駆ける! 駆ける! 駆けるっ!!
にゅるんっ! にゅるんっ! にゅにゅにゅにゅにゅにゅるんっっ!!!
貴人の部屋らしき場所で箪笥の中に姫様が隠れているのではと大量の装飾品ごと収納し、執務室らしき部屋で仕事をしていた役人どもを正義パンチで優しく寝かしつけ、部屋の隅に置かれていた頑丈そうな金庫の中に隠れているのではと扉を「バゴンッ!」と引き抜き中の物を収納し、部屋を後にし城内を駆け回り、同じようなことを繰り返し、収納して収納して収納する!!
収納が…………どんどんと加速していくっ!!!
「ぎ、ギルガ殿っ!!」
「どうした!?」
「さ、さっきから、そのっ、大量に物をそのポケット? に収納していくのは何の意味が!? そんなことをしている場合ではないのでは!? 早く姫様をお探しせねば!!」
途中、クレイグが愚にもつかないことを問うてきたので、走りながら教えてやる。
「バッカ野郎!! 俺が何のために収納しているのか分からねぇのか!?」
「す、すみませんっ!!」
「全部姫様を探すためだろうが!? 姫様は強いお人だ!!(知らんけど!) ならば、捕まってもなお脱出を諦めず、自分一人で逃げ出し、城内に身を隠しているかもしれない!! 所々に飾ってある無駄に豪奢な全身鎧の中に隠れているかもしれない! 絵画の後ろにある入り口から秘密の部屋に隠れているかもしれない! 箪笥やクローゼットルームの中に隠れているかもしれない!! 金庫の中に隠れているかもしれない!! 絨毯の下に秘密の地下への入り口が隠れているかもしれない!! そういった諸々の可能性を虱潰しにするために収納しているんだよ!! 分かったかッ!!?」
「わっ、分かりました……っ!!」
ったく! 素人がよぉ……っ!!
「クレイグ殿! 旦那様の仰る通りです! 姫様ならば決して諦めないはず! ならば、お一人でどうにか逃げ出し、城内に隠れているというのも十分にあり得ます!!」
「そ、そうか……!! 付き合いの長いアナベルが言うのなら、そうなんだろうな……!! 私が間違っていました。すみません、ギルガ殿!!」
「ふっ、分かれば良いんだ……!! お前も姫さんを心配するあまり神経質になっているのは分かってる。だが、姫さんは必ず助け出す……!! 俺を信じろ!!」
「ぎ、ギルガ殿……!! ――はい! もう疑いませんっ!!」
それから、俺たちはさらに加速し、城内を虱潰しに探して探して収納しまくった!!
「ご、強盗だぁあああああああああっ!!!」
「衛兵っ!! こいつらを捕まえろぉおおおおっ!!」
「とんでもなく好き勝手しやがって……!! いやもう殺せぇええええええっ!!」
「邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ!! 邪魔だぁあああああああああああああああっっ!!!」
時間が経つごとに兵士たちが集まってくる。
だが、俺は怯まなかった。俺の熱い正義の心は、この程度じゃ鎮火させることはできやしねぇっ!!
自ら兵士どもの中に突っ込んでいき、正義のデンプシーロールで次々と兵士どもの意識を刈り取っていく!!
「ギルガ殿、何て体捌きだ……っ!!」
「まさに攻防一体の絶技……!! ギルガ殿には徒手空拳の心得があったのでござるな……っ!!」
兵士どもをぶちのめし、さらに進んだ先、遂に俺は厳重な金属扉に守られた、宝物庫と思わしき部屋を見つけた!
「何だ貴様らぶげぇええええええっ!!?」
扉の前に立っていた兵士に流れるような正義パンチをお見舞いし、「ふんぬッ!!」と金属扉に前蹴りをかます!!
ドガァアアアンンっっ!!!
と、重厚な金属扉はいとも簡単にひしゃげ、約束されし楽園へと俺を受け入れる!!
「ここかぁああああああああ姫さんっっっ!!?」
だがしかし!
宝物庫には何もなかったっ!!
「なっ!? 空っぽよここ!?」
「いったいどうなっているでござるっ!?」
エルフたちが目を丸くするが、俺には分かる。
「臭う、臭うぜぇ……っ!!」
「え!? 嘘っ!?」
「そそそそ、そんな……!? ぎ、ギルガ殿! 私たちはちゃんと野営の時も念入りに体を拭いていたのだが……に、臭うだろうか!?」
「拙者臭くない! 拙者臭くないでござる!」
途端、エルフたちがくんくんと自らの体臭を確かめるが――そういうことじゃねぇ!
「何言ってやがるお前ら。その臭いじゃねぇ! ――人を騙そうとする、悪党の臭いってことだぁっ!!」
叫び、俺は宝物庫の壁の一角に飛び蹴りを放った!
ズガァアアアアアアアアアアンっっ!!!
と、石造りの壁があっけなく崩れ落ちる!
そしてその先には、地下へ続く階段が!!
やはりな! 城中景気が良さそうに高価なモンで溢れてたくせに、宝物庫が空だなんてあり得ねぇと思ってたぜ! 俺のキラキラを隠そうなんて姑息な真似しやがって!! 真の宝物庫はこの下だ!!
この俺のドラゴンノーズから逃れようなんて、甘いんだよぉ!!
グラブジャムンよりも遥かに甘いわぁあああっ!!!
「この下だ! 行くぞお前ら!!」
「あ、う、うむ!!」
「了解でござる! それとギルガ殿、拙者は臭くないので後で嗅いでみてほしいでござる!」
「シズ、あんた何言ってんのよ! 正気に戻りなさい!!」
俺たちは怪しい階段を降りて、地下の宝物庫に辿り着いた!!
またしても頑丈な金属扉で施錠されていたが、そんなものは正義の前には紙くず同然っ!!
蹴り開け、中に飛び込む!!
「姫さぁあああああんっ!!! 返事をしろぉおおおおおおおっ!!!」
中にはお高そうな武器防具にキラキラ、そして現金がたくさん!!
キラキラの下に姫様が隠れてはいないかと、俺はキラキラその他を片っ端から収納していく!
収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納収納!!!!!
収ッ! 納ッ!!
「クソっ! ここも外れか……!! 何処に行ったんだ、姫さん……っ!!」
「旦那様、これだけ探してもいないとなると、もしや、姫様は城の外に……!!」
「地下に抜け道でもあるのかもしれません!!」
「いや……」
俺は目を閉じ、その場に立ち尽くした。
そして大きく息を吸う。
ドラゴンノーズは俺にこう伝えている。
城の中にもはや目ぼしい物はなし。ただちに撤収準備にかかれ――と。
ならば、最後は姫様を救助し、悪徳領主を取っ捕まえれば、俺の全ての行動は正義になるっ!!
さあ……仕上げと行こうかい……!!
姫様の居場所なら最初から分かっている。
俺はゆっくりと目を開き、クレイグたちに告げた。
「――見つけたぜ」
「――っ!? 本当ですか旦那様!?」
「ギルガ殿、姫様はいったい何処に!?」
「今、魔力を感知してみた。その結果、城の中ではなく外、ただし城壁内の一角に大勢の人間が集まっているのを感知した。そこに姫さんらしき(人間にしては)魔力の高い反応が二つほどある。たぶん、どっちかが姫さんだ」
「――!! すぐに行きましょう、旦那様!!」
「待てアナベル! 落ち着け! 大勢の人間ということは、私たちを待ち構えているのかもしれん! おそらくは罠だ!」
「それがどうしたというのですかっ!?」
「ふっ、安心しろ。分かっている。私も行かないとは言っていない! 罠という可能性を考慮し、警戒しろということだ! ――行きましょう、ギルガ殿!!」
「当然だ……!! 姫様は、俺が助ける……っ!!」
じゃないとただの強盗だと「誤解」されてしまうかもしれないからな!
そうして俺たちは、大勢の人間たちが集まっている場所へと向かう……!!
そこに、後ろから三人娘たちの声がかかった。
「ちょ、ちょっと待って! 胸が重くて歩きにくいんだから!」
と、エルフ。その胸は不自然なほど膨らんでいた。
「拙者もお腹の子が……!!」
と、シズ。その腹は急に臨月の妊婦みたいに膨らんでいた。
「まったく、だらしないぞ二人とも! 王女殿下の危機なのだぞ! 急げ!」
と、レオナ。その全身は急にゴージャスな装飾品類で埋め尽くされていた。
まったくこいつらは……と俺はため息を吐く。
今は姫様の危機なんだぞ?
時と場所と場合を考えろ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます