第38話 「お前たち、良く頑張ったな……」
【ファイア・ボール】はその巨大な姿を見せつけるように、ゆっくりと飛翔していった。
その速度は普通の【ファイア・ボール】に比べても遅い。回避しようと思えば容易く回避できるだろう。
もちろんこれは、回避して生き延びるか、自分たちの正義に殉じるか、選ばせてやろうという俺の優しさだ。
そして当然、兵士たちの選択は一つだった。
「「「う、うわぁああああああああああああああっ!!!?」」」
「避けろ避けろ避けろぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」
隊列を組んでいた兵士たちが、一斉に門前から散り始めた。
他の兵士に押されて転んだ奴も出たが、すぐに這うようにして【ファイア・ボール】の射線上から退いていく。
そうして開けた空間を、巨大な炎の球体は悠々と通りすぎていき――次の瞬間、閉ざされた巨大な門扉に触れた。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンっっっ!!!!!
と。
炎は弾けて更に巨大な球体と化し、門と市壁の一部を飲み込んだ。
爆風に乗って熱波が俺の方まで辿り着く。衝撃は大気どころか地面まで揺らした。
弾けて広がった炎が市壁や地面の上で踊っていたが、すぐに魔力の供給を断って鎮火させると、炎に隠されていた光景が目に飛び込んできた。
巨大な門は金属で補強された扉ごと木っ端微塵に吹き飛んでおり、頑丈な石造りの市壁も扉の左右で崩れ、そして赤熱し一部は融解していた。
「「「…………」」」
その被害の有り様を、地面に身を投げ出すようにして、爆発の衝撃から身を守っていた兵士どもが見つめている。
俺はすたすたと前へ進み、兵士どもへ近づいた。
当然、兵士たちは近づく俺に気づいて顔を上げた。彼我の距離10メートルくらいで止まり、聞いてみる。
「次は当てるが……続けるか?」
一瞬の静寂。
こちらも、先と同じで答えは一つだった。
「う、うぁああああああああああああっ!!?」
「化け物ぉおおおおおおおおおおっ!!!」
「こんなの聞いてねぇっ!!」
「ひ、ひぃいいいいいいいいいいっ!!?」
「嫌だぁあああああああああああああっ!!!」
兵士どもは街の中へ、あるいは門の左右へ散るように、無秩序かつ脱兎のごとく走り出した。
うむ、と頷き、俺は背後を振り返る。
「門が開いたぞ!! 行くぞお前ら!!」
叫ぶように告げると、すぐに馬を走らせエルフたちが近づいてくる。
「開いたっていうか門がないじゃない!!」
細けぇことは気にするな!
とにもかくにも、俺たちは門の在った場所を通り抜けて、遂に領都オワタに侵入を果たした。
●◯●
「敵襲だぁあああああああああっ!!」
「逃げろぉおおおおおおおおおっ!!」
「いやっ、家の中に閉じ籠れ! 外に出るなぁあああああっ!!」
「「「…………」」」
さっきの爆発の音で勘違いしてしまったのか、街の中は怯え右往左往する者たちで騒がしかった。
カンカンカンカンカンっ!!
と、先ほどからひっきりなしに鐘か何かが打ち鳴らされている。まるで戦で攻め込まれたみたいな有り様だ。……大袈裟だなぁ。
だがまあ、街中の混乱など俺たちにとってはどうでも良い。
そう、俺たちの目的はただ一つ! 領主の館にあるだろうキラキラだけだ!!
…………あ、いや、違う。姫様も助けるんだったな。もちろん覚えていた。当然だ。
「退け!! 死にたくないならば道を開けろっ!! 退け退けッ!!! 退けぇッ!!!」
「天誅でござる!! 天誅でござるっ!!」
道に溢れ返る市民たちをアナベルやシズが大声で威嚇しながら、俺たちは真っ直ぐに領都の中心へ向かって進んだ。
そうして幾らもしない内に、領主の居館が見えてくる。
いや、それはいわゆる館ではなかった。
「旦那様! あれがバッゾ・クゾォーリの住む居城、オワタ城です!!」
見えてきたのは館ではなく、小高い丘の上に建つ城だった。
どうやら今通って来たのは城下町ってことらしい。都市の中に堅固な防壁を備えた城があるってのは、俺の常識からすると奇妙に思えるが、たぶん昔はここら辺が国境だったとかそういう理由だろう。
考察は暇で暇でどうしようもない時にすれば良い。
街の成り立ちなんて興味はない。俺が興味があるのは、城にあるキラキラだけだ!
「ギルガ殿! 跳ね橋の前に兵士たちがいるぞ!!」
「ああ! 分かっている!!」
丘の下、城の周囲には城壁が建ち、さらにその外側には水堀が張り巡らされている。正門へ続く場所には跳ね橋があり、その橋へ続く道の前で、100人ほどの兵士たちが陣形を組んでいた。
そして今にも跳ね橋は上げられようとしている。
「何者だ! 貴様らぁッ!!」
「そこで止まれぇッ!!」
「いやもう良い!! 魔術師隊! 奴らを撃てぇッ!! 撃ち殺せぇッ!!」
バカめ!! もう遅いッ!!
「俺の正義の邪魔をするんじゃねぇえええええええッ!!!」
俺は奴らよりも先に魔術を放った。
――【プチ・エクスプロージョン】!!
オ・アールゼットの時よりも格段に手加減された爆発が、兵士どもの中心で炸裂する!
「「「ぐぁああああああああああッ!!?」」」
兵士どもは木の葉のように吹き飛び、橋へ続く道が開いた。だが――、
「橋が!? このままじゃ門に辿り着けないわよ!?」
エルフの言うように、すでに跳ね橋は半ばほどまで引き上げられてしまっていた。
「問題ねぇ!!」
俺に任せろ! 正義は絶対邪魔させねぇッ!!
――【ファイア】×2!!
二つの【ファイア】は跳ね橋を引き上げる2本の鎖目掛けて飛翔。着弾し、纏わりつくと僅か数秒で鎖を融解させた。
張力に耐えられなくなった鎖は、当然引き千切れ、けたたましい音と共に橋を落とす。
ついでに俺は、固く閉じている正門へ向かって、【プチ・エクスプロージョン】を発動!!
邪魔な正門を吹き飛ばす!!
瞬く間に障害の消えた道を進み、俺たちは遂にオワタ城への侵入を果たした!!
その直後。
「きゃあっ!?」
「むぉおおおおっ!?」
エルフたちの叫び声。何事かと振り向くと、エルフたちが乗っていた馬たちが限界を迎え、倒れるところだった。
エルフたちは無事だが、馬たちを見れば、口から泡を吹いてびくんびくんっと激しく痙攣している。
「……どうやら、限界みたいね」
とエルフが言うように、馬たちは度重なるドーピングと回復に、精神と肉体、両方が限界を迎えたのだろう。
だが、見事エルフたちをここまで運んでくれたのだ。
俺はふっと笑って、馬たちに労いの言葉をかける。
「お前たち、良く頑張ったな……感動した!!」
正直、お前たちを視界に捉える度に、前世で食った馬刺しが美味かったことを何度も思い出していたが……こいつらは運が良い。今は悠長に馬刺しなんか食ってる場合じゃねぇからな。
俺は馬たちに手を翳すと、治癒魔術を発動した。
――【グレイトヒール】
治癒の光が優しく馬たちを包み込み、癒していく。
これで死ぬことはないだろう。元気で生きろよ。
「いよいよ敵の本丸だ! お前ら行くぞ!!」
「合点承知の助でござる!!」
「はい、旦那様!!」
「了解です!!」
シズたちの声を背に、改めて丘に建つ城を見上げる。
かなり長期の籠城でも出来そうなくらい、広い敷地を持つ城だ。
ここに大量のキラキラがあるのかと思うと、胸の高鳴りが収まらない。
まるで財宝の宝石箱やぁ~!!(注・意味不明)
待ってろよ数多のキラキラたち!!
今ッ!! この俺がッ!! 悪徳領主の魔の手から救ってやるからなッ!!!
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