第37話 「こんにちは」
休息を挟んで朝方早くから出発した。
道中にある村や町などには入らずに通りすぎ、一路、クソ領の領都を目指す。
バーサークした馬たちの活躍により、昼になろうかという頃合い、俺たちは大きな町へ続く街道を進んでいた。
およそ1キロ先には防壁で囲まれた町が見える。レスカノールに比べると少し小さいが、まさかあれが領都だろうか?
「あれが領都か!?」
走りながら問うと、クレイグが叫ぶように答えた。
「いえ! あれは領都に続く街道の間で最も大きな町――オ・アールゼットです!!」
どうやら領都ではないらしい。ならば用はない。町には入らず通り過ぎる予定だが……。
「ギルガ殿! 一悶着ありそうだぞ!」
レオナが前方を見て叫んだ。
というのも、俺たちが進む街道、オ・アールゼットの町からこちらの方に向かって、揃いの装備に身を包んだ兵士の集団が近づいてきていたのだ。
それだけなら治安維持のため街道を巡回する兵士という可能性もあるのだが、如何せん数が多い。ざっと100人以上は居そうだ。
しかも、兵士たちは俺たちを遠目に確認するやいなや、馬に乗った指揮官らしき者を中心に慌ただしく動き始め、街道を塞ぐように陣形を組んでしまった。
これは俺たちが来ることを警戒していたというよりは、俺たちが来ることを確実に知っていたような動きだ。しかし、関所を抜けてから俺たちを追い越していった者は誰もいないはず……。
と、そこまで考えて、この世界にも早馬だけではない連絡手段があることに気づいた。
「伝書鳩か……?」
鳥ならば馬よりも早く情報を伝えることができるだろう。この世界でも鳩を使っているかは分からんが。
「旦那様! どうされますか!?」
「決まってる! このまま真っ直ぐ突っ込むぞ!!」
アナベルの問いに答える。だが、すぐにエルフが反対の声をあげた。
「突っ込むって……あの集団にそんなことしたら死んじゃうわよ!? アンタなら大丈夫なんでしょうけど、私たちをアンタみたいな人外と一緒にしないでほしいんだけどっ!?」
なに!? 人外だと!?
エルフの奴……まさか、俺がファイア・ドラゴンだと気づいたのか!?
――と一瞬思ったが、そんなわけはないか。単に俺の能力をそう表現しているだけだろう。
「心配するな! 策はある!!」
「策!? いったいどんな策よ!?」
「ふっ! まあ、見ていろ!」
俺の問題解決能力は極めて高い。どんなに難解な問題だって、たちまちの内に解決することが可能だ!
俺たちは足を緩めることもなく、真っ直ぐに兵士たちの集団へ接近していった。
すると、すぐに兵士たちから声が届いた。
「――そこの貴様ら! 止まれぇっ!!」
「貴様らだな!? 昨日、領境の関所を襲撃し、馬を盗んだという超弩級のバカどもは!!」
「貴様らには領主様より直々に処刑せよと命令が出ている!! だが、大人しく捕まるというのならこの場で処刑することは控えてやろう!!」
「分かったら止まれぇっ!! ……止まれと言っているだろおおおおおおおおいっ!!!」
俺は叫ぶ兵士どもに向かって、走りながら手のひらを翳した。
問題解決のために魔術を放つ!!
オリジナル火系統魔術――正義の【プチ・エクスプロージョン】!!
――ズドォオオオオオオオオオオオンンンッッッ!!!
兵士たちの中心で爆発が生じ、激しい爆風が吹き荒れ、落雷のようにけたたましい爆音が轟いた。
兵士たちは爆風によって木の葉のように吹き飛ばされ、塞がれていた街道が開ける。
これで問題なく通れるな!
「ちょっとぉおおおおおっ!? こっ、今度こそ殺しちゃったわよ!?」
エルフが慌てる。いや、今度こそって何だよ。
「安心しろ! 峰打ちだ!」
「爆発に峰なんてないでしょ!?」
「ちゃんと手加減したってことだ! 誰も死んでいない――――はずだ!」
今放ったのは、人間相手には使うかもしれないと思って開発していた、俺のオリジナル魔術――プチシリーズの一つだ。
開発コンセプトはずばり、「手加減」!!
プチシリーズは非殺傷魔術なのだ!!
「痛ぇ……っ、痛ぇよぉお……っ!!」
「腕がっ!! 俺の腕がぁあああああああっ!!?」
「がふっ!!」
「おい! しっかしろ! だ、誰か!? 助けてくれ! こいつの吐血が止まらねぇんだ!!」
「ああ……目が……!! 見えない……何も……!! 皆、何処だ……!?」
「み、皆、どうなった……!? おい、誰か、返事をしてくれよ……何で誰も喋らねぇんだよぉ……!!」
「…………。――――」
「……。ちょっとぉおおおっ!? 本当に死んでないんでしょうね!?」
いや、だって、人間相手に使うのは初めてだったから……。
まだまだ実験不足だったな。まあ、次からはもう少し威力を抑えるか。
それに今回だって失敗というわけじゃない。今の時点ではまだ誰も死んでいないはずだ。そして死んでいなければ問題はない!
生命系統魔術――【グレイトヒール・レイン】!!
空に手を翳し魔術を発動すると、天から落ちてきた光の雨が、呻く兵士たちに降り注いだ。
アナベルたちに使った【ヒール・サークル】よりも上位の範囲回復魔術だ。
これで問題なし!
「ああ……!! 暖かい……!!」
「天からの、お迎えか……?」
「痛みが、消えていく……!!」
「う、腕が!? 俺の腕が生えたぁあああああっ!!?」
「――ハッ!? 天国で賄賂を強要するような奴は地獄へ行けと言われたらここだった……!! つまりここが地獄か?」
「おお……神よ……!!」
死人ゼロ!
「まさか、欠損治癒魔術ですって!?」
「はは、もう驚くのも疲れてきたな」
「ギルガ殿、ヤバイでござるな……!!」
「さ、流石は旦那様です……っ!! これほど強力な治癒魔術までお使いになられるなんて……!!」
「私は夢でも見ているのか……?」
何はともあれ、俺たちはオ・アールゼットを通りすぎ、先へ進んだ。
●◯●
そして空が赤く染まり出す頃、俺たちは頑丈そうな石造りの市壁に囲まれた都市を目前にしていた。
「旦那様、あれです! あれがクゾォーリ領の領都――オワタです!!」
あれが――領都オワタ!!
「ギルガ殿! 今度は先ほどよりも数が多いようだが!?」
しかし、領都オワタの固く閉ざされた門前には、オ・アールゼット近郊で遭遇した兵士たちとは比較にならない数の兵士たちが、完全武装で俺たちを待ち構えていた。
盾を構えた兵士たちに、弓兵と魔術兵の姿も見える。
総数は500人近くにもなるだろうか。
見通しの良い街道ゆえ、かなり前から俺たちの接近を察知していたらしく、すでに弓兵も魔術兵も攻撃準備を終えているようだ。このまま近づけば、俺はともかく他の奴らは蜂の巣にされるだろう。
「――全員止まれ! お前たちはここで待っていろ!!」
俺は走るのを止めて、レオナたちにも馬を止めさせた。距離は200メートル以上は離れているだろうか。あと少し近づけば、容赦なく矢を放ってくるだろう。
「待ってろって、どうするつもりなのよ!?」
「決まってんだろ」
俺はエルフに答える。
「――対話だ。言葉を持つ者同士、話せば分かり合える」
「対話って……あ、まさか」
どうやら納得したようだな(違)。
俺は一人で兵士たちの方へ歩いて近づいていき、50メートルほどの地点で立ち止まった。
ストンっと、放たれた1本の矢が、まるでそれ以上進むなと言うかのように、俺の足元に突き立ったからだ。
直後、兵士たちが声を張り上げる。
「貴様らかぁあああああ!? 関所を襲い馬を奪い! オ・アールゼットの兵士たちを虐殺したという大罪人どもはっ!!?」
「今度はこのオワタを襲おうという魂胆だろうが、そうはさせんぞ!!」
「大人しくお縄につくならば良し! だが! 戦うつもりならば死体も残らず消し飛ばしてやるぞ!! 覚悟するんだな!!」
誰も殺しちゃいないんだが。
悲しいな。俺の優しさを理解してもらえないなんて。
「…………」
もう手加減するのも面倒だ。何か人数も多いし。
回避できるだけの猶予は与えてやる。だから……生きるか死ぬかは勝手に選べ。
じゃあ、行くぜ?
火系統魔術――【
天へ翳した手のひらの先、頭上10メートル。
そこに、直径5メートルにもなる巨大な炎の球体が発生した。
通常、【ファイア・ボール】は着弾と同時に火球が弾け、炎を撒き散らす範囲攻撃だ。【エクスプロージョン】とは違って爆発による攻撃力はほとんどなく、炎で対象を焼き、あるいは体毛や衣服に延焼させることを目的とする。
だが、俺の【ファイア・ボール】はひと味違うぜ?
炎は極めて高温で、魔力の供給を切らない限り消えることもない。普通の【ファイア・ボール】では燃やせない物も燃やし、あるいは高温で溶かす。火球が弾けた衝撃も【プチ・エクスプロージョン】よりは強いだろうな。
つまり――当たれば死ぬ!!
「「「…………」」」
先ほどまでの威勢はどうしたのか、宙に浮かぶ炎の球体を唖然として見上げている兵士たちに、俺は告げた。
「――避けねぇと死ぬぞぉおおおおおおおおッ!!!!」
そして、挨拶代わりに【ファイア・ボール】を放った!
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