第27話 「準国宝級くらいのもので構わない」
掲げた手のひらの先――空中に、24の火球が灯る。
「――ちょっとぉおおおおおおおおっ!!?」
背後からリリーベルの叫びが響いた。
一方、偽盗賊どもも、ぎょっとして目を見開く。
「魔術!?」
「こいつッ、魔術師だったのか!?」
「防御しろぉッ!!」
慌てた様子で叫ぶ偽盗賊どもに、俺は24の火球をきっちり一人に一つずつ飛ばしてやった。もちろん、仲間外れは悲しいから、地面に倒れている奴にもな。
対し、偽盗賊どもは魔術を使える者は魔術で相殺しようとし、使えない者は回避するか武器で斬り払おうとする。
しかし――、
「「「――ぎゃぁあああああああああっ!!?」」」
偽盗賊どもの対抗魔術は到底発動が間に合わず、剣で斬り払おうとした者はそのまま炎に包まれ、回避しようと横に跳躍した者は、追尾して軌道を変えた火球から逃れられなかった。
衝突の直後、火球は等しく偽盗賊どもの全身を呑み込み、激しく燃え上がる。
男どもの断末魔の悲鳴も僅か数秒で聞こえなくなり、次々に地面へ倒れていった。
激しく燃える炎は小さな火柱となって、しばらくの間、燃え続けた。やがて、それも「燃料」がなくなったことで鎮火していく。
そして森の中に激しい炎が――――広がらない。
「……え? あれだけの炎が……消えた?」
リリーベルが唖然として呟く。
「おいおい、俺を誰だと思ってやがる」
顔だけで背後を振り向き、リリーベルに告げた。
こちとらファイア・ドラゴンさんだぞ。火系統魔術の制御ごとき、息をするように造作もないことだ。
燃やしたい物は燃やし、燃やしたくない物は燃やさず、炎ならば術で干渉して好きに消すこともできるのだ。延焼なんてするわけがないのだよ、リリーベル君。
「炎の扱いなら、俺より優れた奴はいねぇ(ドヤァ)」
「む、むぐぐ……っ!」
悔しげにふくれるエルフはさておいて――当面の危機も去ったことだし、俺と3人娘は金髪小娘含む3人の元へ歩み寄る。
すると、呆然として偽盗賊どもの焦げ跡を眺めていた騎士どもは、近づいてくる俺たちに気づいて顔を向けた。
その顔はなぜか、色濃い恐怖に染まっている。
「あ、あの数を、こうも容易く……っ!?」
「ば、化け物だ……!!」
ガタイの良い男と線の細い男の騎士が震えながら呟いた。
視線からすると、どうも俺を怖がっているらしい。助けてやったのに失礼な奴らだぜ。
ともかく、キラキラを報酬とした依頼は片付けたのだ。後は金髪小娘に当初の予定通り、己の分というものを分からせておくか――
「――ん?」
「ひっ、ひぃ……っ!!」
と思って金髪小娘に視線を向けたのだが、男どもよりも更に強い恐怖に囚われているようだった。ガタガタ震えているし、俺から距離を取ろうとしている。さっきまでの生意気な言動は見る影もない。
……ふむ。
まだ何もやっていないんだが。
ここから自尊心をへし折るべく、全裸土下座とかを要求するつもりだったが、この様子では話もままならない。
「里」では、「人間の言語どころか文化まで学んであげるなんて、ギルガは慈愛に溢れてるわねぇ」と、一部のママ竜たちに評判だった優しさを発揮し、金髪小娘に声をかける。
「小娘、だ――」
「ひぃいいっ!!? あぅっ!? た、たすけ……っ!!」
大丈夫か? と言おうとしたのだが、声をかけた瞬間、小娘は勝手にビビって後退り、足元の木の根に躓いて転んだ挙げ句、命乞いのようなことを口にし始めた。
そして――、
「おいおい……」
ショワァ……!
と、金髪小娘の股の間から、ズボンが急速に濡れていく。
漏らしやがった……。
つまり……わからせ、完了?
いや、こんなに簡単に屈するなら、最初から生意気な態度取らないでほしいんだが。
エルフを見習え、エルフを。俺が戦ってるところを何度も見てるはずだが、全然態度変わらんからな、あいつ。
●◯●
「ほら、こっちに来なさい。下着とズボン洗ってあげるから」
「大丈夫でござるよー。怖くないでござるよー」
「う、ぅう……!! す、すまない、ありがとう……」
ビビり金髪小娘の対応は、三人娘に任せることにした。
意外にもエルフが優しさを発揮して、小娘の手を引いて木の陰に連れていく。一方の小娘も、当初の生意気さは何だったのかというほど、素直な様子でついて行った。
俺はそれを見送り、残った男騎士二人と話すことにした。重要な話があるからな。
あ、ちなみに、三人が負っていた傷はそれぞれが携帯していた治癒ポーションを飲んで応急処置済みだ。完全に治っているわけではないが、出血は止まり、小さな傷くらいなら、もう既に塞がっている。
応急処置の間、俺はポーションで回復していく様子を、興味深く観察していた。
ふ~ん、マジでポーションって効果があるんだな。実際目にすると、なかなか奇妙な光景だった。まあ、それは生命系統の治癒魔術も同じなのだが。
ともかく。
そうして治療を終え、落ち着いたところで、男どもに話しかける。
「久しぶりだな」
名前は知らねぇけど、以前すれ違った姫様一行にいた奴らだろ、たぶん。
「はい、お久しぶりです、ギルガ殿」
と、ガタイの良い方が応える。
俺はさっそく本題に入った。
「ところで、報酬のキラキラのことなんだが」
「き、キラキラ、ですか……?」
「ああ、お前らを襲ってた奴らを倒した報酬のことだ。宝石か、宝石の付いた装飾品で良いぞ。何でもくれるって言っただろ?」
……まさか、報酬を踏み倒すつもりじゃあねぇだろうな?(圧)
「は、はい。それはもちろん……!! 何と言ってもギルガ殿は、我らの命の恩人ですから。必ず、報酬はお支払いたします……!! と、とはいえ、我らで支払える範疇の物になりますが……」
「ああ、そこら辺は安心しろ。流石に俺も分かってる。何も国宝級の物を寄越せとは言わないさ」
「ほっ……そ、そうですよね。ありがとうござ――」
俺は爽やかな笑顔で告げた。
「準国宝級くらいのもので構わない」
「――!?」
「ちなみに、値下げ交渉には一切応じる気はない。払えない場合、俺を騙したと判断して、お前らを殺す(真顔)」
「!!?」
殺してやる……殺してやるぞ、天◯助。
キラキラの契約でドラゴンを騙すとは、そういうことだからな。
「…………。かなりゃず……必ず、お支払いたします……」
「ああ、頼むぜ。俺も体制側の人間は出来れば殺したくないと思ってるからな」
ドラゴンでありながら穏やかな心を持ち、激しい怒りによって覚醒するかもしれない俺は、本心からそう言った。
頼む。俺を、覚醒させないでくれ……。
「ご、ごほんっ」
と、男騎士は気を取り直すように咳払いを一つして。
「な、何はともあれ、助かりました、ギルガ殿。改めて、お礼を言わせて…………えっ!?」
そこでなぜか、目を見開く男騎士。いったいどうした?
「え? ……あ、え? ……え? え? え? ……ええっ!?」
二度見、三度見、四度見……いや、七度見くらい繰り返して、信じられないというように、何かを凝視している。
視線の先を追ってみれば、それは……俺の背中に吊ってある竜牙の大剣の柄に向かっていた。
もしかして、欲しいのか、これ?
「何だよ……やらんぞ?」
「いやっ、ギルガ殿っ、それっ……ど、何処で……手にっ!?」
何処で手に?
……ああ、何処で手に入れたのかってことか?
「こいつは(俺を殺しに来た兵士をぶっ殺して)拾ったんだ」
「拾っ……た? あの……何処で?」
「え? キプロス山」
別に答える義理はないが、俺は正直に答えてあげた。これからキラキラを貰う相手だしな。
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