第17話 「私、ぴーんっと来ちゃったんです!」
俺たちはマチネに先導され、ギルド二階にある個室へと移動した。
室内にあるテーブルを囲むようにそれぞれが座った後、マチネがさっそく口を開く。
「ギルガさん、こちらは我がレスカノール支部が誇るAランク冒険者パーティー、『ヴァルキリー』の方々です!」
と、マチネはエルフたち三人娘を順々に紹介していく。
「まずはリーダーのレオナさん! 金獅子族の大剣使いさんで、パーティーの頼れる前衛さんです! その戦いぶりはまさに獅子奮迅! とっても強いんですよー!」
「レオナだ、よろしく」
獣人族の女剣士が、マチネの口上に苦笑しながら言う。
しかし、金獅子族ってのは……聞いたことがないな。珍しい種族なのだろうか。
「次にパーティーの頼れる斥候役! 遥か東の果て、神秘の国ヤマトから渡って来たニンジャのシズさんです! ニンニン!」
「シズでござる。ニンニン」
エセ忍者っぽい、露出の多い服装をしたシズがニンニンと挨拶する。……本当に忍者か? と思わず疑ってしまうが、ニンニン言ってるし本物なのだろう。
しかし、「シズ」か……聞けば聞くほど日本みたいな国っぽいし、もしかして「静」って名前なのかもしれん。
「そして最後の一人、水、風、土の三系統魔術を自在に操る魔導師レベルの高位魔術師! エルフのリリーベルさんです!」
「た、確かに魔力はあんたの方が多いみたいだけど……っ!! 冒険者としては私の方が先輩なんだからねっ! 敬いなさいよね!」
エルフは隣に座るレオナの腕にしがみつき、その体を盾にするように俺との間に入れながら、目も合わせず言い放った。
どうやら、エルフの高慢な自尊心が完全なる敗北を受け入れるのを、良しとさせないらしい。
まあ、それでも実力差は理解しているみたいだし、妙な真似はしてこないだろう。後は少しずつ「わからせて」いけば良い。
「今度はギルガさんを『ヴァルキリー』の皆さんに紹介しますね! こちらはギルガさん! 一昨日冒険者登録したばかりの新人さんですが、皆さんも噂くらいはもう聞いてるんじゃないですかー? ……ふっふっふっ! そう! ギルガさんこそが火系統の超高位魔術【ヘル・ファイア】の使い手なのです! 私が試験で確認しましたので、間違いないですよー!」
マチネがなぜか得意気に俺を紹介した。
しかし、試験の時に使ったのは【ファイア】だな。何度訂正しても信じてもらえない。いやまあ、【ヘル・ファイア】も使えるから、「【ヘル・ファイア】の使い手」っていうのは間違っていないのだが……。
もう訂正するのが面倒臭いぜ。
内心でため息を吐いていると、マチネがさらに俺の紹介を続けた。
「しかも何とですねー、ギルガさんはとんでもない魔術師ってだけじゃなく、容量の大きい拡張鞄も持っているんですよ!」
おいこら、なぜ息を吐くように他人の個人情報を明かしてしまうのか。
……揉みしだくぞ。
「高位の火系統魔術に拡張鞄の持ち主! これはもう、レオナさんたちの依頼をサポートしてもらうのにうってつけの人材だと、私、ぴーんっと来ちゃったんです!」
「なるほど……確かに、ギルガ殿に協力してもらえるなら、私たちの依頼もずいぶんと楽になるな」
と、レオナが得心したというように頷く。
一方、エルフはガクブルと震え出した。
「ひ、ひぃ……っ、こ、こいつと一緒に行動するのぉ……? やだぁっ……!!」
「よちよち、リリーベル、大丈夫でござるよー。これに懲りたら、初対面の相手に高慢な態度は取らないようにするでござるよー。イキりエルフは禁止でござる」
エルフがシズに慰められているのを横目に、俺は口を挟んだ。
「おいマチネ、依頼って何のことだよ? 説明しろ」
レオナたちは事情が分かってるみたいだが、俺は何も説明されてないんだが?
「そうですね。ギルガさんにも事情を説明しておくべきですね。ちょっと長い話になりますけど、良いですかー?」
「手短に頼む」
というわけで、マチネによる事情説明が始まった。
●◯●
「――事の起こりは、ギルガさんの故郷、キプロス山に伝説の氷炎竜が棲み着いてしまったことですー」
む?
「ドラゴンがキプロス山を縄張りにしたことで、ヘウレカ領の温泉街とミスリル鉱山が閉鎖されてしまいましたー。これによって、ヘウレカ領を王領に持つ王家は多くの収入を絶たれ、しかもドラゴンに領地を奪われたとして、財力でも権威でも大きく力を落としてしまったんです」
そうなの?
ふぅ~ん……でも俺、出て行けなんて言ってないし、俺のせいじゃないよな……。
「王家が力を落としたことによって、各地の領主様たちは好き勝手するようになってしまいましたー。その結果、王国内の治安は悪化の一途を辿っています。ここまではギルガさんも知っていますよね?」
「ふぅ~ん……当然」
全然知らんけど。むしろ初耳だが。
しかし、やたら盗賊が多かったのは、そういう理由があったのか。
「このレスカノールを含むリーンフェルト領は領主様が出来た方なので、冒険者ギルドに魔物や盗賊の討伐依頼を出したりして治安維持にも努めていますし、税率も変えていませんので、他の領地よりも全然マシなのですがー」
あの盗賊の数でマシな方だったのか。
この街に来るまで3回も野生の盗賊の群に遭遇したよ?
「……表立っては言えませんが、リーンフェルト領の隣に位置するクゾォーリ侯爵領から村を捨ててリィーンフェルトへ逃げて来る人たちが多いんです。そういう人たちに手を差し伸べるのも限界がありますから、住む場所も職もないそういった方々が盗賊になるケースも多くて……」
なるほど? つまり、隣の領地から盗賊が流れ込んで来ているってわけか。
「それにクゾォーリ侯爵はリィーンフェルト伯爵様の政敵でもありまして、色んな嫌がらせをして来るんです。噂では領地を繋ぐ大街道にクゾォーリ侯爵配下の兵士たちを、盗賊に偽装させた上で放ち、リーンフェルト領の商人たちから略奪させている……なんていうのもあります。おかげでリーンフェルトを拠点にしていた大商人の方々も、次々と領地を離れているのが現状なんです」
経済活動の妨害というわけか。
それが原因で街の活気がずいぶんと無いように感じられたのかもな。
「そういうわけでリーンフェルト領でも盗賊の増加などで治安が悪化していまして……商人の方々の移動に護衛としてついて行った冒険者の方々も、多くは王都に拠点を移してしまったんですよねー……」
冒険者も不足しているのか。
「おかげで討伐系の依頼が溜まっていく一方でして……しかも、盗賊たちのせいで依頼の難易度も上がっちゃってるんです。街の外で活動しているだけで、襲われる危険がありますからねー。そうなると盗賊が増えるだけじゃなく、放置されたゴブリンやオークの巣などもどんどん増えちゃう始末で、もうこの4年ほどで、リーンフェルト領はしっちゃっかめっちゃかですよ!」
ふむ……盗賊のせいで討伐依頼を受ける者が減り、そのせいで魔物の巣が増えたと。
「そこで今回の依頼となるわけです! 我がレスカノール支部が誇る最高位冒険者パーティーである『ヴァルキリー』の皆さんに、領内のゴブリン、オークの巣の駆除、および盗賊たちの討伐依頼が出されたわけです!」
そこで、「ふふんっ! そーよ! 私はすごいのよ!」とエルフが得意気に胸を張った。
どうも褒められると、すぐに調子に乗っちゃう性格らしい。わからせたい、その笑顔。
しかし、それは後回しにするとして……俺は気になった点を問い質した。
「その依頼はレオナたちだけに出されてるのか? 他の冒険者にも振って、分散した方が効率良いだろ、どう考えても」
「それは、そうなのですがー……」
マチネは面目なさそうな顔をして、しばし口ごもった。
「現在、レスカノール支部に所属する冒険者たちで、ゴブリンやオークの巣を単独パーティーで駆除できる腕利きは、『ヴァルキリー』の皆さんしかいないんですー。他の皆さんは他の皆さんで別に依頼もありますし、合同パーティーで巣の駆除依頼を振ると今度はそちらの依頼が滞ってしまいますから、そうするわけにもいきません……」
人材の層が薄いな。
「以前は、レオナさんたちをも超える最強の冒険者パーティー『ドラゴンスレイヤーズ』が、この支部にいたのですがー……」
ドラゴンスレイヤーズって……生意気な名前だな。まさかドラゴンを討伐した経験があるのか……?
もしそうだとしたら、侮れんな、人間。
「そいつらは――ああ……王都に移動しちまったのか?」
「いえ……殺されちゃったんですー。キプロス山のドラゴンに」
ドラゴンスレイヤーズ、ドラゴンに殺されちゃったのか……。
てか、キプロス山のドラゴンって、俺かよ。……もしかして、一番最初に巣にやって来た奴らかな?
ドラゴンスレイヤーズと名乗るには雑魚すぎたように思うが……。
「そいつらは、ドラゴン討伐したことがあったんじゃねぇのか? ずいぶんあっさりやられたな」
「あ、いえ、『ドラゴンスレイヤーズ』さんは、別にドラゴン倒したことはないですよ。いつかはドラゴンを倒すという目標を掲げて、そういうパーティー名にしていただけですね」
倒したことねぇのかよ! 紛らわしいな。
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