☆第四話 泥棒を追って☆


 朝食を終えた二人は、コルトの提案で、出発の準備を分担する。

「クリスは、この酒場で保存食料と水を一週間分、二人前で買っておいてくれ。俺は 捜索隊への偽装工作をしてくる」

「は~い♪」

 共に冒険者となった幼馴染みに、姫少女は嬉しさを隠さない、明るい笑顔だ。

「四半時(しはんどき 約三十分)くらいで戻ってくるから、クリスはコレを被って、目立たないように座ってろ」

 と言って少年は、使っているフード付きマントを少女の頭から被せ、愛顔を隠す。

「じゃあ、捜索隊とか 怪しい感じの奴には、気を付けろよ」

「はい♪ コルトも 気を付けて♪」

 笑顔で宿屋を出たコルトは、真面目な顔で村の入り口の伝文屋へ向かい、捜索隊への嘘報告を手紙に記して、城塞都市に設置された捜索隊の本隊へと、配送を頼んだ。


 コルトは約束通り、四半時で用事を終えて、クリスが待つ酒場へと戻ってくる。

 酒場の窓際で、フードを被ったまま食糧を抱えて待っていた、クリス。

「コルト、お帰りなさい♪」

「買い物サンキュ。それじゃあ、これを」

 コルトは道具屋で、クリス用に新しいフード付きマントを購入し、交換して被せた。

「まあ、私専用ですのね」

「それに、女性用の貫頭衣とかも クリスのザックへ入れておこう」

 クリスが買った食糧と水も、それぞれで分けて、準備は完了。

「よし! それじゃあクリス、まずは 不埒な盗賊エルフを征伐と行こうぜ!」

「はい、コルトっ♪」

 足取りも軽く、二人は意気揚々と、酒場を後にした。


 村の出入り口は南北の二箇所で、南はやがて王都へと辿り着く首道であり、北側はクリスがエルフに敗北した後、エルフが逃走をした方角へ続く道である。

「村は南側から出て、途中で西へ曲がって、エルフを追いかけようと思う」

「あら、ナゼですか?」

 コルトの提案に対し、クリスは素直に問うた。

「捜索隊の本隊へさ『村にて姫の発見叶わず。目撃情報の推察につき、南の町へと探索を続行』って感じで、ニセの手紙を出したんだ。だから――」

「あ、解りましたわ! 村を出るまではお手紙通りに、南へ向かったと、目撃者を作るワケですね♪」

「その通り♪」

 得意げな笑顔で褒められ、幼い日を思い出しただけでなく、コルトに認められた事が、クリスはとても嬉しく感じた。


 村を出て半時(はんとき 約一時間)も歩くと、人や馬車で踏み慣らされた街道の周囲は、自然そのままな雑草たちが、繁茂している。

 コルトが注意深く周囲を確かめても、行き交う人の影は無し。

「クリス、あの雑草で 西に曲がろう。あのタタミ草は、固くてしなやかで歩き辛いんだけど、それだけに足跡が残らないし、丈もあるから 俺たちが隠れて歩いて行ける」

「はい♪」

 クリスは、コルトが色々と知っている事や、頭が回る事。

 そしてなにより、自分の事を気に掛けてくれている事に、頼もしさを感じていた。

(コルトったら…♪)

 と思った、二時(ふたとき 約四時間)後。

「ク、クリス…待ってくれぇ…はぁ、はぁ…」

 タタミ草の弾力は予想以上だったらしく、体重の軽いクリスは適度な反発力で楽々歩行をしているのに、男子のコルトは逆に足を取られ、ノロノロ歩行に陥っていた。

 時間的にも、もうお昼は確実に、過ぎた頃だろうか。

 このペースでは、今夜のキャンプは草地を過ぎた平地ではなく、このまま草地のど真ん中になってしまう勢いだ。

「もぅ。コルトったら、衛士なのに だらしがありませんですわ☆」

「そ、そう言っても…ぜぇ、ぜぇ…」

 息の絶え絶えな感じのコルトに、呆れた溜息を愛らしく零しながら、クリスは周囲をグルりと見る。

 怪しい追跡者は見当たらず、逃走は上手く行っているだろう。

「…あら?」

 向かう先を見ると、風が吹いた瞬間に、揺れた草間から南の方角へ、湖が見えた。

「コルト、あっちに 湖がありますわ♪ そちらで、少し休憩をしましょうか」

「お、おぉ…助かる…へひ…」

 二人は八半時(やつはんどき 十五分~二十分ほど)をかけて、草地を脱出して、広い湖畔へと出る。

「まあぁ…。素敵な場所ですわ♪」

 クリスに遅れて、コルトも湖畔へと出てきた。

「ぜえぇ…み、湖だ…ちょっと休憩…へぇ」

 綺麗な湖を見て安堵したのか、近くで蔓を巻いて茂っていた大木の根元へと、少年は腰を下ろす。

 湖は、徒歩で半時とかけず周囲を一周できそうな程の大きさで、草地から湖面までには足下くらいな高さの草が茂っていた。

 クリスたちがいる湖岸の反対方面な南側には、小高い崖が、壁のようにそびえている。

 岩の崖には、高さを問わず大小の洞穴が見受けられて、小さい穴は鳥や獣の住処などに利用されている感じだった。

「あの崖は、西の方角へ 連なっていますのね」

「ああ。俺たちが歩いた街道も、あの崖ってか岩山を避けて 南の町へと続いてるくらいだからな。俺たちが目指す西の町まで、まるで見たまんま 壁みたいに横たわってるんだよなー」

 と、衛士隊の訓練で培った、地形に関する基本的な知識を披露しながら、コルトは水筒の水ではなく、湖へ顔を突っ込んで清水をゴクゴク。

「んぐ、んぐ…っはあぁ~、生き返るぜ~っ!」

 とか、大きな声で安堵の吐息だ。

「コルトったら。逃走中ですのに、そんなに大きな声を出したりして…くす♪」

「ああ、そうだったなー。とにかく、このまま西へ向かうんだから、追っ手がいないかとかさ ちょっと少しだけ、いま来た草地を、偵察してくるよ!」

「…? はい」

 なんだか、やけに大きな声のコルトに、クリスは「?」愛顔だったけれど、少年の背中が見えなくなった頃に、その理由を察する。

「コルトったら…冒険に出たのが、それ程までに 嬉しいのですね♪」

 子どもの頃からの夢だった、冒険者。

 お互いの立場を理解せざるを得なかった、十歳の日に、コルトは現実と向き合い、衛士となる道を選ぶしか無かった。

「うふふ…♪」

 今の楽しそうなコルトを見ていると、クリスも嬉しくなってしまう。

「…それにしても、陽が上がりきると 少し暑くなって来ましたわ」

 太陽は頭上を過ぎたあたりで、南風も吹いている為か、草地を楽に歩いたクリスといえども、珠の肌にシットリと汗をかいていた。

 フード付きのマントを脱いで、湖を覗くと、清んだ水で湖底や魚が見える。

 岩山から、綺麗な水が川となって流れ込んでいて、湖の東側へと川を作って、緩やかに流れ出ていた。

「………」

 廻りを見るも、誰もいない。

「…コルトは、四半時くらいは、戻ってこないでしょう♪」

 とか、汗を洗いたくなったクリスは勝手な推測をして、ビキニ鎧を脱衣し始めた。

「~♪」

 首廻りのマフラーや肩鎧を外して、手袋とブーツを脱ぐ。

 胸アーマーを外すと、大きくて丸い双乳がタプンと溢れて揺れて、先端の薄い桃色な媚突も、青空と風に晒される。

 ボトムを外すと、大きなヒップが左右へ揺れながら完全頃露出をされて、茹でたて剥きたてな茹で卵の表面の如くツルツルな下腹部も、露わとなった。

「…うふふ♪」

 誰もいないからと、姫少女は裸身を全く隠す事なく、冷たい湖へと足を浸け、歩を進めてゆく。

「ひゃ…冷たいですわ♪」

 湖岸では脹ら脛ほどだった深さが、中央へ進むに従い深くなり、揺れる水面へお尻が着くくらいの場所まで来た。

「うふふ、綺麗な水ですわ…♪」

 陽と水面の光を受けたクリス裸身が、湖面で反射をする。

 水面の自分を両掌で掬うと、裸身の姫騎士は自らの肌へと、湖水を流し始めた。

「ふんふん~♪」

 うら若く、くすみ一つと無いパツパツの裸肌に綺麗な淡水が落とされて、ツルツルの肌曲面を流れて散る。

 ただでさえスベスベなクリスの柔肌が、水と陽光でキラキラと輝いて、その様子は、まるで水の妖精の如く。

 拡がる森や草むらと高い樹木と、岩肌の崖と、空は青く晴れ渡る。

 大自然の中に戯れる、一糸纏わぬ美少女の裸身は、背徳的で危険な魅惑と犯してはならない誘惑を、無自覚で強く発揮していた。

 そんな、隙だらけなクリスの姿を、草の影から、コルトが覗き見をしている。

「ふっへっへ…♪ クリス、俺に気付いてないぞ」

 コルトが大声を出しつつ探索へ出たのは、湖畔で一人になったらクリスは水浴びをするだろう。

 と考えたからだ。

 そんなコルトの目的は当然、覗きばかりでは無い。

 湖の対岸の岩肌に無数とあった、大小の洞穴。

 どんな人類でも、基本的には、水がなければ生きて行けない。

 村から逃走をした泥棒エルフは、当然、既に目的の町へ辿り着いている可能性もある。

 しかしコルトは、方角や道なりなどを考慮すると、徒歩では日数的に届かない、と判断をした。

「馬でも走らせりゃあ ともかくだけど。村の出入り口には 新しい蹄鉄の跡はなかったからな…。泥棒エルフは きっと徒歩で逃げた…。しかも賞金首となりゃあ…あの洞穴あたりに隠れている可能性もある」

 もちろん、洞穴を調べたわけではないので確信はないし、賭けでもある。

 しかし相手は一度、クリスを罠に填めて裸に剥いて、磔という羞恥を与えた、いわば精神的には勝利者だ。

 そんな泥棒が洞穴に隠れているとすれば、自分を追ってきたクリスを見付け、更に隙だらけで沐浴なんてしていたら、逃げるどころか、むしろ再び獲物としたがるだろう。

 高い草の影に隠れて、クリスの沐浴ヌードを覗き見しながら、コルトは油断無く湖畔全体を注視しつつ、すでに小型の弓矢を手にしていた。

「…さあ、泥棒エルフめ。どこからでも来やがれっ! うへへ…♪」

 とか意気込みながらも、仮にコルトの推測が外れても、クリスの野外沐浴ヌードを拝めるのだから、コルトにとっては損の無い作戦である。

「うへへ…むっ!」

 対岸の草がガサガサと揺れて、クリスもハっとなり、裸身を隠しながら注視。

『…コルトでしょ! 覗いていないで、ちゃんと姿を お見せなさい!』

「俺だと思ってやがる。まあ、覗いちゃいるが…だがっ!」

 文句を言いながらも、コルトは油断無く矢をつがえ、対岸の草むらをギっと見据える。

「…油断して クリスに近づいたら…っ!」

 水の中へ脚を入れれば、陸上のように俊敏な動きは取れないから、コルトは絶対に矢を命中させる自信があった。

「…出てこい…っ!」

 草むらの動きが少しずつ大きくなって、奥から湖面へと、近づいて来る。

 正体を見せない覗き魔に、クリスも少しだけ、警戒感を持った様子。

『…もう、コルトったら! 意地悪はやめてくださいっ! 覗いている事は、許してあげますから…っ!』

「あくまで俺だと思ってるな。まあ 正解っちゃあ正解――っ!」

 草陰から黒い影が見えて、コルトは全ての意識を、対岸の影へと集中させる。

 そして。

「…なんだよ」

 草むらから姿を現したのは、無害な水生生物の「ビバー」だった。

『まぁ、ビバーですわ♡ なんと愛らしい♪』

 ビバーは全長が一メートル程なネズミの仲間で、木を削って集めて川を堰き止め、出来た水溜まりでまた木を集めた巣を作るという、野生生物である。

 見た目も丸々として穏やかそうで、性格は穏やかというか穏やかすぎて、狩ろうと思えば子供でも狩れる。

 しかし、見た目に対して食欲旺盛で、食べる時は食べられるだけ食べてしまうので、ペットなどで飼育する人間は、まあいない。

 しかも肉は臭くて食べられないレベルだし、内蔵も体液も脱臭魔法すら拒絶する程の天然汚臭生物なので、人類でこの生物を好き好んで狩る酔狂な者など、ほぼいなかったりする。

 とはいえ、生きていれば全く臭くないし見た目はヌイグルミのように可愛いうえ、大人しくて警戒心も薄いので、冒険者の女性たちには、行きずりのペット感覚で大人気なのだ。

 当然、クリスも嬉しそうに、自ら寄って行く。

『ビバーちゃん♪ あなたも一緒に、水浴びを致しましょう♡』

 裸のお尻をふりふりしながら、クリスは水を飲みに来たらしいビバーへと近づく。

「…わざわざ湖に来たって事は…住処にしてる この辺りの川で、なんかあったのかな?」

 湖に注いでいる川の上流あたりが、生息地とかだろう。

「こりゃあ、俺の感が外れ–っ!」

 と思った瞬間、近くの草間から、邪な気配を感じたコルト。

 まるで自分みたいな邪欲意識に、コルトは気配を消しつつ、音を立てずに接近。

 湖では、ビバーとジャレているクリスのお尻やバストが弾んで、パシャパシャと濡れて魅惑的な光景だ。

 ナゾのお隣さんは、コルトを警戒している気配など、全く無し。

(…こっちには気付いてない)

 クリスの裸身に、見とれているのだろう。

 コルトが背後を取る位置から、静かに確認をすると、薄汚いポロな皮鎧と尖った耳が見え、そして少し臭い。

(…当たりかな)

 コルトが意を決して、覗き魔の横へ廻ったら、その顔は賞金首のエルフ「ラマド・クルセット」だった。

「見付けたぜっ、この泥棒野郎っ!」

「え――ひええええっ!」

 敢えて大声で虚を突きながら、コルトは弓矢を落として素早く剣を抜くと、驚いて腰を抜かしたラマドの腿を、逃亡阻止目的でドスっと貫いた。

「っぎええええっ!」

 背後からの悲鳴に、クリスは今度こそ、幼馴染みが帰ってきたのかと思い、振り向きながら。

「…コルト…っ、まさか、追跡者…っ⁉」

 クリスは愛顔を緊張感で引き締めながら、荷物を置いた大樹へと向かった。


 草を分けた湖畔では、コルトが、賞金首の両腕を捕縛魔法の掛かったロープで後ろ手に縛り上げて、全ての作戦が終了。

「ふ…俺みたいにスケベだったのが、命取りだったな」

 とか気取って、コルトは剣を鞘へと収めた。

 捕縛ロープは、冒険者たちが使用する魔法使いが魔法を掛けたロープよりもずっと強力な、王国魔術師による魔法が掛けられている。

 結んだ人物でなければ決して解けないし、使用者から任意の距離で、一方的に固定をされる。

「さてと…お前はこのまま、次の町まで…」

「コルトっ! どうしましてっ?」

 慌てた様子で駆けつけて来たのは、さっきまで水浴びをしていたクリス。

 コルトと泥棒の前へ飛び出してきたその姿は、生まれたままの裸肌に、抜き身の剣だけを携えた、実にエロティックな恰好だった。

「「っどぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!」」

「えっ–きゃあっ! ぃやあああああああんっ!」

 コルトたちが絶叫をした直後、泥棒エルフがいると知らずヌードのまま走り来たクリスの、大きな悲鳴が木霊する。


                    ~第四話 終わり~    

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